弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年2月 2日

警察組織迷走の構図

著者:来栖三郎、出版社:実業之日本社
 いま日本の重要凶悪事件について警察の検挙率は48%。半分以上が検挙されていない。
 迷宮入りの大事件がこんなにも多いことに改めて驚かされる。世田谷一家四人殺害事件、警察庁長官狙撃事件、朝日新聞阪神支局襲撃事件、綾瀬マンション母子強殺事件。そして、八王子スーパー射殺事件、さらに、グリコ・森永事件、古くは三億円現金輸送車強奪事件(私が大学2年生のときの事件です。学園紛争のため授業がない日が続いていた12月10日に起きました。当時の3億円という金額は腰を抜かすほどの巨額でした。今なら24億円にあたるそうです)が本書で取り上げられ、警察の初動捜査のミスなどが厳しく指摘されている。著者は警視正までのぼりつめた元警察幹部だけあって、第一線の実情もふまえて分析している。
 それにしても、指紋鑑定で、6ヶ所の特徴点が一致するので犯人だと断定したという埼玉県警鑑識課のお粗末さにはあいた口がふさがらない。日本の警察がいくら優秀だと自慢しても私はとても信じられない。トップの警察庁長官が狙撃されたというのに、その犯人さえ検挙できないのではお話にもならないと思う。
 警察幹部の次の2つの講話に、私は眼を疑った。
 「凶悪重要事件の検挙率を向上させるため、これからは自転車盗難や万引き、単なる暴行などの軽微事件の取り扱いを抑制して、重要事件の捜査に力を注ぐように指導されたい」
 「軽微事件の抑制・取扱い拒否から発展した警察不祥事が続発しているので、今後は、たとえ軽微事件や小さい事件であっても、被害者が解決を望んでいるものならば、親身になって取り扱うようにされたい」
 こんな姿勢で、本当に日本の治安は回復されるのか、ついつい不安にかられてしまう。

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