弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年2月28日

裏ミシュラン

著者:パスカル・レミ、出版社:バジリコ
 私は残念なことに、フランスで星のついたレストランで食事をした経験がありません。でも、三つ星レストランの料理を紹介した本はこれまで何十冊と読みました。写真で見て、目で楽しみ、文章で雰囲気を味わうのです。わずか2000円ほどで豪華ディナーをたんのうできるのです。舌で味わえなくても、想像力で補ってきました。
 とは言っても、私はフランスで美味しい料理を実際に味わったことはあるのです。デイジョンでキールを初めて飲み、リヨンでクネル(魚料理)を食べ、パリのビストロで巨大な自家製パテに挑みました。生きのいい生カキも堪能しました。今でもはっきりと思い出すことができます。40代の初めには、南仏のエクサンプロバンスでひと夏の独身生活を謳歌することもできました。ワインはロゼです。こってりした魚スープをいただくと、あとは、もうサラダだけでもいい。そんな気になりながらも、なんとか肉料理にすすみます。マルセイユではブイヤベースとともに、野ウサギの赤ワイン煮こみもいただきました。うーん、また行きたくなりました。ぜひ、近いうちにまた行ってこようっと・・・。
 有名なミシュランガイドの調査員だった人が調査の裏話を紹介しています。調査員はたった5人しかいないそうです。毎回毎食、フランス料理を食べていたら健康は大丈夫でしょうか、と心配になります。
 レストランの側も調査員だと分かると、なんとか特別待遇しようとします。でも、調査員だと気づかれないように行って食事をし、最後に身分を明かすというのです。そのときのレストラン側のあわてぶりが面白く語られています。それはそうですよね・・・。
 でも美味しい料理って、なにより食べる側の体調によりますよね。ほどほどにお腹をすかしていないといけません。そして、連れが大切です。そのうえで、店の雰囲気ですね。三拍子そろうというのは、なかなか難しいものです。こうなると、お金だけの問題ではありません。

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2005年2月25日

リラックマ生活

コンドウアキ、主婦と生活社
 毎日せかせか仕事をして、少しくたびれたなー、そんな大人むけのほんわか絵本シリーズです。我が家のぐうたら娘の大のお気に入りです。世の中には、こんなに似た人間がいるのかと驚きます。でも、まあ、ちょっとひと休み。それもまた、いいものでしょう。いつもいつも息せき切って走っていても、つまりません。
 わが団塊世代にも、ついに大量定年時代が到来しつつあります。防衛大学から自衛隊の幹部になったF君はもう55歳定年でやめたはず。今ごろ、どこで何をしているのかな。 サマワに派遣された隊長たちは、みな40代の前半。あんな激しい戦火の真っ直中に飛びこむ人の気がしれないけれど、彼らにも読ませたくなる絵本です。死んで遺族が2億5000万円(ほかに年金が月70万円)もらっても仕方ないと思うのですが・・・。

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うたう警官

著者:佐々木 譲、出版社:角川春樹事務所
 うたう警官というのは、カラオケボックスでうたう歌がうまい警察官というわけではありません。警察の裏金づくりや不祥事を内部告発する警察官のことです。
 この本は、北海道警察の裏金づくりを告発した元釧路方面本部長の勇気ある行動を下敷きにしています。うたう警察官なんか、うたう前に別の口実をつくって殺してしまえ。そんな警察組織の体質が鋭く告発されています。といっても、スケープゴートにされかかった1人の刑事を救うために、仲間の刑事たちが次々に立ちあがり、行動していく様子が詳細に語られます。警察の捜査現場の雰囲気が臨場感にあふれていて、「警察小説の金字塔」とオビにありますが、なかなか読ませる小説でした。
 ところで、この本にインターネットで宅急便の会社の制服が売られていると書かれていました。ありうることです。玄関で「宅急便です」と言われたら、疑いもなくドアを開けるでしょう。それが物盗りだったら・・・。ぞっとします。
 それにしても、キャリア警察官がぬくぬくと裏金をフトコロにしているのは本当になんとかならないものでしょうか。権力とカネの両方をもたせると人間ロクなことはしないと思うのですが・・・。

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ピエロの赤い鼻

著者:ミシェル・カン、出版社:扶桑社
 この正月に見たフランス映画です。ナチスに支配されていたフランスでのささやかなレジスタンス行為がナチスの報復によって悲劇をもたらすのです。
 父親と子どもの葛藤をも見事に描いています。例によって映画と原作とはストーリーがかなり違います。私は映画の方がむしろ状況描写としてうまくできていると思いました。小学校の教師をしている父親が日曜日ごとにピエロになって人々を笑わせている。息子としては肩身が狭いし、嫌でたまらない。でも、ある日、その理由を聞かされる。それを知って息子は父親を見直す・・・。
 ピエロ役の俳優が実にうまいと感心しました。フランス映画にも、もちろんいろいろありますが、ナチスに支配されていた当時のことがいろんな角度から次々に映画化されていっているところが、日本との違いです。軍国主義日本を反省するという映画は、日本ではめったなことでは見れませんし、いわんやヒットして話題になることはまったくありません。残念なことです。「人間の条件」とか、昔は、いろいろ反戦映画がありました・・・。

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2005年2月24日

塀の中から見た人生

著者:安部譲二、山本譲司、出版社:カナリア書房
 著者の2人とも刑務所経験があります。安藤組の元組長による『塀の中の懲りない面々』はミリオンセラーになりましたが、私も面白く読みました。実にさまざまな収容者が登場します。元衆議院議員が政策秘書の給与を不正流用し、一審の実刑判決に控訴せず服役した獄中生活をつづった『獄窓記』は、前者とは違った収容者の実情を知らせるものでした。著者の真摯な服役生活に感じるものがありました。
 舎房で本を読むときの遅読法というのを初めて知りました。時間はたっぷりあるのに官物の本は数が決まっているので、すぐに読み終わってしまったら困るのです。
 だから、単純な言葉でもいちいち広辞苑を開いて意味を確認しながら読む。これで時間をかける。おかげで広辞苑はボロボロになった。読めるけれど書けない漢字を、いちいちノートに書き出しては覚えるまで次の行にすすまない。これをやると、とんでもなく難しい漢字でも苦もなく書けるようになる。
 冬の寒さは辛い。舎房で本を読んでいると、目玉が冷たくなって、痛くなって、どうにも文字が追えなくなる。仕方ないから片目ずつつぶって、温めながら読む。涙も出てくる。
 悪い看守はほとんどが若い奴だ。舎房や工場を高いところから見下ろしている。だんだん歳をとって、定年も近づいて、退職金の計算をするようになると、目線が低くなってくる。
 初犯刑務所は再犯刑務所よりずっと厳しい。矯正可能性があると思うから刑務所側も力がはいっているからだ。刑務所運営でうまいやり方は、最初に受刑者から徹底的に自由を取りあげておいて、少しずつ自由を与えることで受刑者を意のままに従わせるというテクニックをつかうこと。
 初犯刑務所を出所した人間の再犯率は5割。ところが、再犯刑務所を出た人の再犯率は9割。つまり、刑務所に2回入ったら、もう一生刑務所と縁が切れることはないと思ってよい。刑務所というところは、うらやましいっていう気持ちを、すべて憎しみに変えるところ。ひがむ人間がたくさんいて、なんとか足を引っぱろうとする。
 社会でも前科者という偏見はきわめて根強い。前科者が更生するというのは大変なこと。顔からしゃべり方、驚いたときや真剣なときの目つきまで変えなければいけない。懲役顔というのがある。我慢したり、折りあいをつけたりばかりしていると、きっとこんなふうになるだろうなという顔のこと。
 受刑者は7万人。外国人が1割近い6千人もいる。うち中国人が2千人。塀の中の国際かは外よりすすんでいる。
 いま毎週、刑務所に通っています。本当に寒いところにあります。ときどき軍隊式行進のかけ声が聞こえてきます。受刑者に対してもう少し社会の風があたるようにしないと社会復帰は難しいという気がします。厳罰を課して隔離しておけばいいというばかりでは受刑者は増える一方です。しかし、その大半はいずれ出てくるのです。そのとき、本当に更生していなかったら、もっと大変なことになると私は思うのです・・・。

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2005年2月23日

伊藤博文と韓国併合

著者:海野福寿、出版社:青木書店
 この本で面白く、目新しいところは、死せる伊藤博文を登場させて同時代の人々と対話させているところです。100年後のダイアローグと銘うっています。それが、なるほど今生きているのなら伊藤博文が本当に言いそうなセリフになっていて、感心します。凶弾に倒れた伊藤博文も、若いころは実はテロリストでした。イギリス公使館の焼き打ちに加わり、塙保己一の息子を斬殺もしています。
 この本を読んで驚いたのは、伊藤博文を殺したのは安重根だとばかり思っていましたが、ケネディ暗殺事件と同様に、真の暗殺犯人は別にいるという話があるということです。同行していた貴族院議員(室田義文)は、駅の2階の食堂からカービン銃(フランス製の騎兵銃)で3発の弾丸が上から下へ伊藤の身体にあたった。安重根が下の方から狙って撃った弾丸ではない、と一貫して主張していたというのです。
 では、真犯人は誰なのか。それは、伊藤を邪魔ものと考えていた日本政府内の反対派、対韓侵略積極派の明石元二郎少将ないし後藤新平あたりだ。そんな説があるというのです。うーん、そうだったのか・・・。伊藤博文の遺体から摘出されたはずの弾丸が裁判の証拠になっていないというのは、たしかに不可解です。伊藤博文は韓国併合に反対ではありませんでしたが、国際協調も大切にすべきだと考えていました。そこを不満だと考えた反対派がいたわけです。
 朝鮮人はえらい。この国の歴史を見てもその進歩は日本よりはるか上にあった時代がある。才能においてお互いに劣ることはない。人民が悪いのではなく、政治が悪かった。
 国さえ治まれば、人民は質量ともに不足はない。韓国と合併すべきだという議論があるが、合併の必要はない。
 伊藤博文暗殺の背景について、もっと知りたくなりました。

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2005年2月22日

カブトムシと進化論

著者:河野和男、出版社:新思索社
 ダーウィン進化論に異議ありという理論は、正直なところさっぱり分かりませんでした。でも、世界中のカブトムシやクワガタムシのコレクションの写真は実に素晴らしく、何回見ても見飽きることがありません。
 カブトムシが犬くらいの大きさであったとしたら、この世でもっとも迫力のある生きものであることは間違いない。そんなダーウィンの言葉が紹介されています。なるほど体調10センチほどのコーカサスカブトムシのツノの見事さにはほれぼれするばかりです。ツノが5本あるカブトムシ(ゴホンツノカブトムシ)がいることも初めて知りました。カブトムシは温帯よりも熱帯地方にたくさんの種類がいます。それこそ大小さまざまで、ツノも長かったり短かったり、いろいろです。
 個体発生は系統発生を繰り返すという説は定説になっているものと思っていましたが、なんと、今では荒唐無稽な説として否定されているそうです。でも、本当にそうなのかしらん・・・?
 いま地球は第6回目の大絶滅のまっただなかにあるのではないか、という著者の指摘に接して、ドキッとしました。これまでの5回の大絶滅は地球環境の変化や天然災害が原因だったとしても、今回の第6回目は、人間が原因をつくっているのではないのか。しかも、その絶滅のスピードが早すぎる。そう指摘されています。うーん、そうなんですよね・・・。たとえば、熱帯雨林は、地球上の全陸地の1.4%を占めるにすぎないけれど、全植物種の44%、動物種の33%をかかえている。その熱帯雨林が消滅しつつある。そうなったら、これらの動植物種も絶滅してしまうだろう。生物分類群は、一度失われてしまえば、たとえ何千何万年、何億年かけても、それと同じものが再び地球上に進化してくる可能性はない。進化にセカンドチャンスはない。
 いろんなカブトムシを眺めることができるのは、人間がいろいろいてもいいということを意味しています。カブトムシの種類が少なくなったら、人間だって多様性の保障はありません。私たちは目先の利害にばかりにとらわれすぎているとしか思えません。いかがでしょうか・・・。

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2005年2月21日

若杉裁判長

著者:菊池 寛、出版社:文芸春秋新社
 図書館から菊池寛文学全集を借りて読みました。かなり古い小説です。なぜ今ごろ読んだかというと、先ごろ夏樹静子さんの講演を聴く機会があったのですが、そのなかで紹介されたからです。
 夏樹さんは『量刑』という推理小説を書いています。裁判長の家庭生活にもふれたストーリーです。裁判長の娘が誘拐され、判決について脅迫されるという舞台設定なのです。裁判官や弁護士に取材した苦労話が語られました。そのなかで、大勢のベテラン裁判官の前で、「裁判官の世間知らず」を問題とされました。多くのベテラン裁判官は「世間知らず」という言葉にひどく反撥します。たくさんの事件を扱うなかで、世の中を表も裏からも自分たちほど知っているものはいないという強い自負があります。むしろ、弁護士の方こそ世間知らずじゃないかと口角泡をとばす勢いで反論の弁を滔々と述べたてるのが常です。たしかに、弁護士がどれだけ世間を知っていると言えるのか。いつのまにか弁護士生活30年を過ぎた私も、世間のことは本当にまだまだよく分かっていないな。そう思うことがしばしばです。でも、裁判官は、自分たちが思っているほどには世間を知らないのではないか。私はつくづくそう思います。
 ところで、若杉裁判長は執行猶予をよくつけるというので名裁判長という評判が高い裁判官でした。しかし、ある晩、自宅に泥棒に入られて、すっかり考えが変わりました。法廷に立たされた被告人は、どれもかしこまった、ペコペコ頭を下げ、神妙に縮みあがっている男ばかりだった。ところが、目の前の泥棒は、そんなおとなしい人間ではなく、見つけたからには居直ってやろうという肚をありありと見せている。赤裸々な人間同志の力づくの関係しかそこにはなかった。若杉裁判長は全身を押し詰まされるような名状しがたい不快な圧迫を感じた。若杉裁判長は、それからは世間が当然に執行猶予がつくと思っていた事件でも、実刑判決を下すようになった。
 うーん、なんだか、まさに絵にかいたようなドラスチックな展開です。
 私は、このごろ、若い裁判官に対する不満よりも、高裁レベルのベテラン裁判官に対して強い不満を抱いています。いかにもことなかれ、現状(行政)追従・追認のやる気のない審理態度と判決が多すぎる気がしてなりません。若い裁判官が重箱の隅をつつくような質問をするのは、まだ許せます。やる気が感じられるからです。でも、無気力な現状追認と自己保身しか考えていないような裁判官にはどんどんやめてもらいたいのです。
 このところ年間に6人ほどの裁判官が10年目の再任を拒否されていますが、私はとても良いことだと考えています。裁判官の評価アンケートを弁護士会で実施しています。福岡では会員の4分の1ほどの回答がありますが、C(悪い)評価の裁判官も少なくはありません。そんな人は裁判官に向かないのです。さっさと国民のために辞めてもらいたいものです。

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2005年2月18日

母に歌う子守唄

著者:落合恵子、出版社:朝日新聞社
 私の母は大正2年生まれですから、90歳をこえています。家のなかを歩いていて骨折して入院したのです。それが、やはり良くありませんでした。痴呆というわけではありませんが、娘や息子をきちんと認識しているのか、かなり怪しいところがあります。それでも、声をかけると返事してくれますし、変に固まった身体を無理に動かそうとするとにらまれてしまいます。そんな母をつきっきりで介護してくれる姉夫婦には頭が下がります。まったく感謝するばかりです。
 この本には、自分の母親の介護をする女性の苦労がにじみ出ています。年をとって介護を受ける身になってから、その体験をもとに介護について発言できたら世の中は劇的に変わることでしょう。しかし、それはありえません。ということは、介護する人が介護される人の気持ちをおもんぱかるしかないのです。
 信頼していたヘルパーさんに裏切られた話も出てきます。できるはずのない床ずれが母親にできてしまったのです。なぜか。ヘルパーさんは家族の見えないところで手を抜いていたわけです。うーん、困りますよね・・・。
 いつかみんな介護される側にまわるはずなのに、なぜか年々冷たくなっていく世の中です。これって、おかしいですよね?

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松下政経塾とは何か

著者:出井康博、出版社:新潮新書
 松下幸之助が自民党に変わる新党結成を夢見て70億円を投資してつくった「現代の松下村塾」は、一見すると華々しい成果をあげているように見える。なにしろ200人をこす卒塾生のなかから、29人の国会議員、26人の地方議会議員、5人の首長を輩出しているのだから・・・。しかし、彼らは本当に日本のために役に立つ政治家と言えるのだろうか・・・。私はかなり疑問を感じている。街頭でラグビーのユニフォームを着たり、自転車で走ったりのパフォーマンスで、どうやったらテレビの話題づくりがうまくいくのか、そればっかりなのではないか。果たして、国民の生活の実態をふまえて日本の政治がどうあるべきかを真剣に議論しているのか。「負け組」を自己責任だとして突き放した議論をしていないのか。
 松下幸之助は、欲望は力であり、人間の活力だと考えると高言していた。同時に、欲望は力だから、悪にも善にもなるとも言った。
 現実に、政界のなかでの塾出身者の評判はいいどころか、悪い。政治家として何をするかではなく、政治家になること自体が目的となっている。塾出身者は人をだますことはできても、人の心までつかむことはできない。政経塾は、権力を持たない者が成り上がるための装置にすぎない。
 塾生の研修資金は1年目で月に20万円、2年目からは月25万円。加えて年間100〜150万円の活動資金が支給される。寮費は月4500円でしかない。
 塾出身者が民主党に多いのは、自民党から出たくても、すでに選挙区が埋まっているから。小選挙区で自民党候補の空きが出ても、公認されるのは2世か関係者のみで、前職と縁のない新人が出馬できる可能性は限りなく低い。だから、官僚出身者も民主党へ流れている。自民党も民主党もベースに違いはないからだ。
 高校のときの同級生が、いま県知事をしています。大学生のときに同じクラスにいた人物が自民党の代議士になっています。どちらも政界を渡り歩いてきました。ブームに乗って、新自由クラブとか新党なんとかです。当選しなければタダの人とは言うものの、国民不在、政策なしにただ権力と金力を握りたいという自己の欲望のみを優先させて考えているようで、2人とも私はどうにも好きになれません。

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金貸しの日本史

著者:水上宏明、出版社:新潮新書
 金貸しと売春は人類最古の職業だとよく言われます。弁護士生活を30年もしている私も、そうだろうなと思います。日頃の法律相談でもっとも多いのが金銭貸借と男女間のトラブルだからです。
 大化の改新(645年。もっとも史実ではないという学者の意見もあります)ころの出挙(すいこ)が歴史に登場する金貸しのはじめのようです。平安京をはじめた桓武天皇は、平城京にある寺院が金貸しで利子をむさぼりとっていると怒ったそうです。はじめて知りました。世界史としては、紀元前3000年のメソポタミヤ文明で、ハンムラビ法典の麦貸し付けが初めてだそうです。年利33%。銀貨の貸し付けだったら上限が20%でした。
 借金の問題は、貸し手をなくせばいいという簡単な問題ではありません。
 クレサラ被害をなくすことに取り組んでいる運動団体は何年も前から「高利貸しのない社会をめざす」というスローガンを掲げていますが、私には違和感があります。明らかに不可能なことを運動の目標としてよいとはとても思えないからです。銀行や政府系金融機関は高利貸しではないとでも言うのでしょうか。また、クレジット・カードを、今の日本からなくせるというのでしょうか。
 もちろん、暴利を取り締まることは私も必要と考えています。しかし、貸し手の対策とあわせて、借り主側のカウンセリングの充実をはからないと問題の根本的な解決はありえないと私は確信しています。
 ところで、明治10年にできた利息制限法(今の利息制限法は昭和29年に制定。民法制定は明治23年)でも、最高利率が年2割だったのを知りました。

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2005年2月17日

死亡推定時刻

著者:朔 立木、出版社:光文社
 この著者の『お眠り、私の魂』を読んだときには驚きました。東京地裁の裁判官の行状が迫真的に、まさに赤裸々に描かれていたからです。裁判所の内部に通暁していないと、とてもここまで細部にわたっての描写は無理だと思いました。
 小説家を志したものの、刑事訴訟法に興味を覚えて法曹になったと自らを紹介しています。覆面作家なのですが、いわゆるヤメ判の弁護士ではないかと想像しました。というのも、この本では弁護士界の内情がことこまかに描かれているからです。それも山梨県弁護士会の私選弁護人の無能ぶりが強調されています。被告人の老母から着手金60万円をもらっているのに、殺人事件で、まともな弁護をしませんでした。つくられた自白であり、自分は無罪だと被告人が訴えているにもかかわらず、です。それを、東京の若手弁護士が控訴審での国選弁護人に選任されて見破りますが、悪戦苦闘します。その努力が報われ、ついに逆転無罪を勝ちとる、と言いたいところですが、現実は厳しい。上しか見ていない強権的な判事たちは、重大な矛盾点に目をつぶり無罪とすることなく、死刑を無期懲役にしただけでした。
 刑事裁判の現実をフツーの市民に知らせるテキストにもなる面白い推理小説だ。そう思いながら一気に読みとおしました。

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2005年2月16日

グローバリゼーションと戦争

著者:藤岡惇、出版社:大月書店
 地球が無数の宇宙衛星にとり囲まれている絵が紹介されています。砂糖(黄ザラ)をまぶしたドロダンゴみたいに、びっしりと宇宙衛星が地球に取りつき、さらに少し離れた(3.6万キロメートル)の静止軌道を回る衛星も数え切れないほどたくさんあります。そして、これらのうち3分の2は軍事・スパイ衛星だというのです。恐ろしさに背筋が凍ります。
 アメリカが核軍備のためにつかったお金は、1948年から1996年までで、少なくとも5兆5千億ドル。アメリカの軍事費総額の3分の1強が核軍拡のために使われました。核弾頭づくりの平均単価は6億円、今では小型の核爆弾は1億円です。
 ところが、核爆弾の付帯品の方が今では高くついています。運搬手段の生産と運用に3兆ドル。発射基地の建設に4千億ドル、誘導・通信管制システムに2兆ドル。つまり、核爆弾の10倍かかるのです。
 いま、アメリカではミサイル防衛を推進しないことには、核兵器産業が干上がってしまう状況にあります。ともかく軍需産業はもうかるのです。
 アメリカの軍部のなかで、「情報の傘」派と「核の傘」派で、暗闘があった。将軍の一部が反核運動に動いたことがあったが、それは核兵器がない方が「情報の傘」が安定し、アメリカの軍事力より強大になるという考えにもとづいていた。なぜなら、もし敵が核ミサイルをもち、宇宙空間で核爆発させたら、「情報の傘」がマヒしてしまう。宇宙空間で核爆発が起きると、イオン化された電磁波が大量に発生し、宇宙空間に減衰しないまま広がる。それはコンピューター通信に大きな被害をもたらしてしまう。
 アメリカは海底ケーブルに盗聴機をしかけており、GPS衛星の傘に入るようにさせてアメリカに敵対したら使わせない戦略をとっている。また、アメリカ以外の国同士で国際通信するとき、アメリカ経由にした方が料金が安くなるようにもしている。これは、それで「合法的」に盗聴できるという魂胆からのこと。
 うーん、アメリカって、どこまでも自分の国の利益のことしか考えないのですね。
 アメリカの情報機関には外国を対象とする人間だけで15万人もいて、エシュロンは毎時200万通の通信情報を傍受している。これは年間175億通。これを2度のスクリーニングをへて、毎時2000通にしぼり、精査している。
 読んでいると、ソラ恐ろしくなって、冷や汗がタラリタラリと流れ落ちてきます。

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2005年2月15日

東京ゴールドラッシュ

著者:ベン・メズリック、出版社:アスペクト
 読むと不愉快になること間違いありません。私もいいかげんにしろと憤慨しながらも、なんとか読みとおしました。なにしろ事実が描かれているというのです。だから、目をそむけるわけにはいきません。アメリカのプリンストン大学を卒業した優秀な青年が日本にやってきて、国際的な証券取引のなかで、たちまちのうちに荒稼ぎをします。3分間で600億円もの利益をあげるというのです。どんな世界なのでしょうか。想像もつきません。27歳の青年が60億円ものボーナスを手にして引退していくというのです・・・。
 毎週140時間の勤務。昼休みなし、夕食時間は10分。人間扱いはされない。上司を恨み、同僚を恨み、最後には自分さえ恨むようになる。最初の1年は地獄以外の何ものでもない。しかし、そこをかじりついて耐え抜けば、2年目には基本給は15万ドル。その後、さらに年俸200万ドルも夢じゃない。
 そんなに稼いだお金を彼らは何に使うのか。この本には、新宿歌舞伎町や六本木の性風俗店に出入りするアメリカ人の生態が生々しく紹介されています。そして、この性風俗店と金融界とのあいだに陰に陽に橋渡しをしているのが日本のヤクザなのです。
 いま私が扱っている刑事事件では、筑後地方のしがないヤクザが、なんと東京に事務所を構えて何十億円もの資産をもって旺盛にヤクザ稼業を展開しているという話が出てきます。いったい何をしているのか興味津々なのですが、その舞台のひとつが、このようなボロもうけする金融取引なのでしょうね。
 ヤミ金で巨利を得た連中が、スイス銀行に50億円を預けていたという話は有名ですが、やくざな世界のグローバル化は私たちの想像以上にすすんでいるようです。
 それにしても、せっかく有名大学を出て、こんなカネ、カネ、カネとあくせくして、そのあげくが性風俗店だというのでは、アメリカの将来はありませんよね。27歳で60億円もってバミューダに引退したあとの人生って、いったい何が楽しいんでしょうか・・・。お気の毒さま、と私は声をかけてやりたい気分です。もっとも、彼らからすると、余計なお世話だということなんでしょうね。

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2005年2月14日

秩父事件

著者:秩父事件研究顕彰協議会、出版社:新日本出版社
 映画『草の乱』をみました。今から120年前、1884年11月に3000人をこす農民が集まり、自由党の流れをくむ困民党軍として武装蜂起しました。郡役所を占拠して「革命本部」としたのですから、本格的な蜂起です。残念ながら、明治政府が鎮台兵と憲兵隊によって鎮圧し、わずか10日間の「天下」でした。
 困民党の総理田代栄助(51歳)は代言人でした。首謀者12人が死刑判決を受け、8人が執行され、1人がその前に獄死しましたが、残る3人は逃げのびました。
 会計長の井上伝蔵(30歳)は北海道に逃げて、65歳で病死しました。参謀長の菊地貫平(37歳)も逃げていましたが、別の強盗罪で捕まって十勝監獄で10数年間服役したのち自由の身となりました。乙大隊長の飯塚森蔵(30歳)は、九州そして四国へ落ちのびたらしいということが分かっています。
 明治政府は蜂起した農民を国事犯として扱わず、単なる暴徒として刑法で処罰しました。そのため、遺族は強盗や殺人犯の子どもという汚名を着せられ、長いあいだ泣き寝入りさせられたのです。
 秩父事件の原因については、当時の農民の生活がいきづまり、破産者(身代限り)が続出していたことが主たるものとしてあげられています。それなら、年間20万人以上の破産者のある今の方がもっと深刻のはず。武装蜂起はともかくとして、政府に「反乱」を起こすべきときではないでしょうか・・・。
 映画を見て、白タスキに白ハチマキに違和感を感じたのですが、この本によると、実際そのような服装をした人が多かったというので納得しました。死を覚悟しての行動だったので、死に装束としてきちんと正装していたというのです。なるほど、なるほどと改めて得心しました。

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2005年2月10日

黒曜石3万年の旅

著者:堤隆、出版社:NHKブックス
 伊豆半島の沖にある神津島でとれた黒曜石が長野県の野尻湖遺跡から発見されました。3万年前に、直線で300キロも離れているところまで運ばれていたというわけです。
 黒曜石は切れ味が大変よく、今でも外科手術のとき神経の切断にメスを使わず黒曜石をつかうアメリカの外科医がいるほどだそうです。
 黒曜石について少しばかり知ることができました。

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黒川と湯布院

著者:松田忠徳、出版社:熊日出版
 黒川温泉は今や日本一有名な温泉です。湯布院をしのぎます。なぜ、そうなったのか、温泉教授が地元旅館の経営者と対談しながら解明しています。
 雑木を植えて、昔ながらのひなびた温泉街とした。ツァー客や団体客に頼らなかった。いろんな工夫が紹介されています。温泉にはシャワーも石けんもない。心を清める場だから・・・。残念なことに、私は黒川温泉に行った記憶がありません。
 湯布院温泉の方は何度も行ったことがあります。車が多いのが難点ですが、しっとり落ち着いた町です。でも、ここも最近はリゾートマンションが続々建っています。高層ビルは似つかわしくありません。また、湯布院町が町村合併でなくなりそうなのも心配です。
 スイスのツェルマットは小さな山あいの町です。そこにはマイカーの乗り入れは禁止されています。電気自動車のみです。湯布院もそれくらい徹底的に規制したらもっと良くなると思うのですが、現実には逆行している気がして心配です。

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セックスレスの精神医学

著者:阿部輝夫、出版社:ちくま新書
 私は幸い、まだバイアグラのお世話にならないですんでいます。でも、バイアグラって、どれだけ効果があるのか疑問だし、副作用もひどいらしい・・・、そう思っていました。でも、この本を読むと、どうも誤解だったようです。
 バイアグラの効果はほぼ100%。副作用はあっても軽微で、顔がほてる、頭がボーッとする、軽い頭痛、鼻詰まりがあるといった程度。たまに色覚異常が出ることがある。
 ただし、バイアグラは勃起障害の特効薬だが、脳が性的に興奮した状態でないと作用しない薬である。子どもが欲しくない思いが強かったり、うつ症がひどかったりすると、バイアグラも効果はない。
 30代や40代の男たちに性嫌悪症が蔓延している。そして、それはエリートに多いとは・・・。日本はいったいどうなるのでしょうか・・・。

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KALAHARI チーターがいる砂漠

著者:佐野高太郎、出版社:かもがわ出版
 アフリカ南部のカラハリ準砂漠地帯に生息するチーター兄弟が主人公です。こんなに近寄ってカメラをかまえて、襲われなかったのが不思議なほどです。精悍なチーターの表情がくっきり鮮明なのは、さすがイギリスBBCの賞をとったほどのプロカメラマンです。
 大平原のなか、チーターはじっと獲物を狙って3日間も観察していることがあるそうです。ここで狙われるのはスプリングポックです。シカみたいな動物です。
 チーターは瞬間時速120キロといっても、500メートルしか持久できません。他方、スプリングポックは、時速80キロを10キロメートル以上も続けることができます。したがって、両者には、一定の距離をおいておけば、「安全」(逃げられる)という関係にあります。
 それでも、ときには獲物を仕留めなければチーターは生きていけません。一度ありついたら、5日間はお休みです。こうやって自然の摂理は働いています。チーターはジャッカルには強くても、ハイエナは負けてしまいます。また、ライオンがいると獲物を横どりされるので狩りははお休みします。
 アフリカの大自然のなかで、野生動物たちの生きていく厳しさがよく撮れている大型写真集です。

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2005年2月 9日

恥ずかしい読書

著者:永江 朗、出版社:ポプラ社
 目に悪いと分かっていても、電車の読書はやめられない。本の面白さには勝てないから・・・と眼科医が語っています。私の読書タイムは、ほとんどが移動中の車内です。今でも近視ですから、メガネなしで本は読めます。近視は、読書のために目が適応した結果とあります。なるほど、ですね。
 本はどんどん汚して読んだ方がいい。そうなんです。私は赤エンピツでアンダーラインを引きまくります。この読書感想文は、その赤いところを読み返しながらつくるのです。
 ですから、私が読んだ本は、「ブックオフ」などに引き取ってはもらえません。
 著者は本を読むのが早いようです。毎日毎日、本を読んでいると自然に早くなるというのは本当です。私は昨年は569冊読みました。それでも最高記録757冊に及びませんでした。要するに、それだけ移動していたということです。学生時代から簡単な読書ノートをつけています。
 でも、ときどき読んでいるこの瞬間がずっと続けばいいのに、と思えるほど面白い本に出会います。ページをめくる手がもどかしいほど、次がどうなるのかを知りたいのです。同時に、読み終えたくないという気にもなるのです。そんな気になった本として私がまっ先に思い出すのは『沈まぬ太陽』です。わくわくしながら、ときに憤慨しながら、充実した思いで読みふけりました。
 著者は、本を読むためにはテレビを消せ、と強調しています。まったく同感です。私はまったくテレビを見ません。
 テレビは悪魔の発明品だ。テレビのニュースなんか見なくても何の支障もない。それどころか、テレビを見ない方が事件の本質がよく分かるようになる。
 映像は考える力と想像力を奪ってしまう。テレビは麻薬のようなもので、見なくなってはじめのうちは禁断症状が出てくる。しかし、そのうち、テレビなんか見なくても立派に毎日を過ごすことができるようになる。
 NHKの海老沢会長辞任騒動の本質は、NHKテレビを見ていても絶対に分かりません。要は、NHKは自民党と財界という権力者の方にしか目が向いていないということです。「公平・中立」の公共放送なんて笑わせます。うちにも一応テレビはありますので、ささやかながらNHKの受信料の不払い運動に参加することにしました。やっぱり、ひどいと思ったら、声をあげないといけませんからね・・・。

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2005年2月 7日

希望格差社会

著者:山田昌弘、出版社:筑摩書房
 日本社会が、いや世界全体がグローバリゼーションの大波のなかで、大きく変わりつつあることを改めて認識させられる本です。現状分析については、なるほど、なるほど、と何度もうなずきました。ところが、対策というか、解決の処方箋のところでは、ええっ、そんなー・・・と裏切られた思いにかられ、ガックリ肩を落としてしまいました。規制緩和をさらにすすめようと言うのですから、ひどいものです。
 まずは現状認識が肝心です。グローバリゼーションの影響によって、近年、世界全体に社会から排除され、将来の希望がなくなり、やけになる人が増えている。
 リスク化がすすみ、自己責任が強調されると、リスクに備えて、事前に努力をしてもムダだということにつながる。すると、多くの人々から希望は消滅し、やる気は失われる。そこで、努力をせずに、リスクに目をつむり現実から逃避して生きるという「運頼み」の人間があらわれる。「運頼み人間」とは、ギャンブル好みの人間ということではなく、自分の人生自体をギャンブル化してしまう人間のこと。
 年功序列、終身雇用、企業内労組、社内福祉というのは日本的な雇用慣行だとよく言われるが、そんなものは戦前の日本にはなかった。
 近年、父と息子の階層の関連性は強まっており、階層は固定化する傾向にある。
 未婚化も進行している。今は男性12%、女性6%だが、これが1980年生まれの若者だと男性25%、女性18%まで生涯未婚率は上昇すると予測されている。未婚化は同棲が増えるということではない。結婚したいのにできない確率が上昇する。そもそも恋人や異性の友人がいない人の割合がこの20年で増大している。現在、40歳の人の離婚率は20%であり、いま20歳前後の若者の最終的な離婚経験率は30%になると予測されている。
 近年、急増しているのは、10歳代や20歳代前半のできちゃった婚。2人の収入がまだ少なく、生活基盤が整わないにもかかわらず、レジャーへの関心が高い。子どもの存在は生活を脅かすリスクを通りこし、子どもの存在自体が生活を送るときの邪魔ものになる。子どもの虐待が増加するわけである。
 ひきこもりは100万人、いや200万人いると見られている。ひきこもりが長期化し、20歳代、30歳代のひきこもりが増えている。
 年収の高い夫の妻の就労率は高く、年収の低い夫の妻の就労率は低いまま。不安定就労者同士で結婚し、夫も妻も低収入で失業率の高い夫婦が増えている。個人の収入の格差が、結婚によって拡大し、家族生活の二極化を加速している。
 将来に絶望した人が陥るのは、自暴自棄型の犯罪である。不幸の道連れだ。人生を捨てている人に怖いものはない。若者の絶望感は、いま以上に深くなるだろう。その先には、アディクションにふけるものや、自暴自棄になる者も増え、なかには、「不幸の道連れ」型の犯罪に走る者も出てくるだろう。人間はパンのみで生きているわけではない。希望でもって生きるのである。ニューエコノミーがうみ出す格差は、希望の格差なのである。ニューエコノミーは平凡な能力の持ち主から希望を奪っている。
 私も、弁護人になるたびに、老いも若きも希望を奪われている人がいかに世の中に多いか、本当に痛感しています。

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新選組

著者:大石学、出版社:中公新書
 コンパクトな新書という体裁からは想像できないほどの重厚な学術書そのものです。私より5歳も若いとは思えないほど博識な著者が豊富な文献を駆使して、新選組とは何だったのか、その実像をあますところなく描き出しています。
 たとえば、新選組には「時代に取り残された剣士集団」「復古主義思想にこり固まった野蛮な浪人たちの殺人集団」というイメージがあります。本当はどうだったのか?
 新選組は着実に洋式軍備化をすすめていた。土方歳三は、新選組が毎日全員が砲術訓練を行い、西洋鉄砲がだいぶ上達し、幕長戦争の先駆けも勤められるほどになったと自慢している。鳥羽伏見の戦いのとき、新選組はみな鉄砲を持っていた。新式の元込の鉄砲やマントとズボンを購入しており、洋装化していた。新選組は全体として鉄砲隊としての性格を基本にしつつあった。
 映画『隠し剣、鬼の爪』に東北地方の海坂藩が様式銃をもって訓練に励んでいるシーンがあるのを思い出しました。また、新選組の隊員は江戸と甲府の浪士と豪農出身とばかり思っていました。しかし、これも間違いです。その出身は東北から九州まで全国にわたっています。筑前から2人、筑後から5人も新選組に加わっているのです。そして、武士・浪人だけでなく、百姓、商人、職人、町人、医師、宗教家など、さまざまな出身階層の人がいました。いわば全国からの志願兵によって成りたっていたというわけです。
 そして、新選組の特徴は、浪人の同志的組織から、官僚制度組織になっていったということです。近藤勇がそれをすすめたのです。もちろん、これには強い反撥もうまれました。しかし、近藤勇は、厳しい法度を制し、公印をもつなどして組織化・官僚化を強引におしすすめていきました。さらに、隊員には月単位の俸給制度を導入しました。武士のような家単位の現物支給ではなかったのです。うーん、そうだったのか・・・。

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2005年2月 4日

アヴェンジャー

著者:フレデリック・フォーサイス、出版社:角川書店
 アメリカは、世界じゅう場所はどこであれ、アメリカ人を殺したら、ブロードウェイで殺したのと同じとみなす権利を勝手に自国に付与した。要するに、アメリカの司法権は地球全体に及ぶということ。
 べつに国際会議や条約でそう決まったのではない。アメリカがそう決めただけ。多国間安全保障法、1984年の包括的犯罪管理法、1986年の反テロリスト法によって、海外でアメリカ人に対しておこなわれたテロ行為に適用される新しい領土外適用の法律が生まれた。
 フォーサイスの本はいくつも読みましたが、さすが最新の本だけあって、アメリカの身勝手さをむき出しにした世界状況をふまえたストーリーになっていて、しかも丹念に状況が積み上げられていますので、納得しながら読みすすめることができます。
 アメリカ人が外国人をいくら虐殺しようと何の問題もない。1人のアメリカ人が外国人から殺されるのは絶対に許さない。草の根をわけても捕まえて復讐しないではおかない。それがアメリカ人の醜い本質です。

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天国の本屋、恋火

著者:松久淳、出版社:小学館文庫
 私が純愛ものの小説に挑戦していることを知っている知人から奨められて読みました。
 夜空に綺麗な花火があがります。いえ、人の眼を驚かすようなものではありません。どちらかというと昔風の花火です。あっ、やっぱりそうですね、線香花火のようなものと思ってください。音はあまり大きくないんですが、胸の奥にツーンと鳴り響いてきます。
 そうです、かなりの高音なのに「アルルの女」のフルートのような低い響きをともなって心をゆさぶるのです。じわじわと花火が広がっていきます。色彩が少し変わります。淡い色なんです。これが萌黄色というんですね。黄色がかった緑です。それが少しずつ黄土色に変わっていきます。なんだか、春の野原でタンポポつみでもしている気分になってきます。ああ、これで終わりかな、と思っていると、最後に大きく広がった大輪の端々が軽くポンという音をたてて一斉に花を咲かせるのです。赤・青・黄いろんな色がにぎやかです。さあ、人生を楽しもうよ。そう呼びかけているっていう感じです。ほら、この花火を2人で見たら、きっと、その2人は将来うまくいきます。断言できます。きっとです・・・。これが恋火なんです。
 以上は、私の創作です。本にはこのようなシーンはありません。
 本のいいところは、想像力をかきたてて、自分を自由にいろんな空間へすぐその場から連れていってくれることです。

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赤ちゃんがヒトになるとき

著者:中村徳子、出版社:昭和堂
 チンパンジーの赤ちゃんを学者として育て、また、自らも2人の娘さんを出産し育てている体験にもとづいてヒトとチンパンジーの赤ちゃんを具体的に比較した本ですから、とても面白く興味深い内容です。要するに、チンパンジーの赤ちゃんとヒトの赤ちゃんはほとんど変わりはないのです。でも、大事なところでの違いがあります。それは、どこ・・・?
 チンパンジーを生後3日から6歳半まで家庭で育て、ことばを話す訓練をしてみたが、パパ、ママ、カップ、アップの4語しか言えなかった。喉頭上部と咽頭部の構造上の違いから、チンパンジーはヒトの母語のa、u、oにあたる音は出せず、舌の可動性にも限界がある。
 鏡に映る自己像を見て自分だと分かるのは、大型類人猿(オランウータン、ゴリラ、チンパンジー)とヒトだけ。ヒトも、生まれてから鏡を見たことがないときには、3歳半以上でないと映っているのが自分だとは分からない。
 サルはヒトと目をあわせない。チンパンジーの赤ちゃんがヒトの赤ちゃんに一番似ているのは見つめあうという愛情表現のできること。
 チンパンジーの母親は赤ちゃんに声をかけたり決してしない。ヒトの赤ちゃんは母親に何かモノをやろうとするが、チンパンジーにはそれはない。
 チンパンジーの赤ちゃんが母親の方を振り向くことはまずない。あることを成し遂げて親に「ほら見て、できたよ!」と言いたげに振り返るのは、ヒトの赤ちゃんだけに見られる特徴である。
 うちの子たちが赤ちゃんのころを思い出しました。立って歩みはじめたときの驚きを今も鮮明に覚えています。といっても、ロボット(アシモ)も最近では立って、走ることまでできるようになりましたが・・・。人は案外、口をつかうものです。下の娘は小学1年生のとき、数の計算をするときに、指を口元にあてながらやっていました。ああ、こうやって身体ごと数えるのかと、そのときは大発見した気持ちになりました。

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2005年2月 3日

これが働きたい会社だ

著者:渡辺正裕、出版社:幻冬舎
 会社勤めの経験のない私には、社風というものが、率直にいってよくイメージがつかめません。それでも、この本を読むとなんとなくイメージがわきます。
 労働組合が弱いというのでキャノンが紹介され、逆に強いというのは全日空とNTTドコモです。社員の生活を守るうえで強い労働組合が果たしている役割は大きいようで、会社を辞める人はほとんどいないそうです。私は、とてもいいことだと思います。
 NTTドコモでは、有休は全部消化するということです。いまの日本では強い労働組合は少なくなってしまいました。貴重な存在です。
 日本生命は目下、20時消灯に向け努力中です。東京海上は20時半に消灯するので、あとは自分の蛍光灯をもちこんで仕事をしています。JTBは「死ぬ」ほどの忙しさです。離職率が5年で3割というのも当然です。
 三菱商事は入社10年目で年収1200万円。5時間をこえるフライトはビジネスクラスを使います。三井物産では海外勤務は給与が2倍、休みも5倍となっています。1人あたり1億円稼ぐのが目標の目安というのですから、それも当然なんでしょう。
 松下電器は昼休みか朝に全員で綱領と7精神を唱和し、毎日1人ずつ3分間スピーチをします。いまどき、そんなことをしているのか・・・と驚きます。まるで宗教団体です。
 同じように富士通でも毎朝8時40分に出社すると、朝礼で全員が毎日1人1分スピーチをします。ここでは、出世は上司に尽くしてきた時間のトータルで決まります。移籍すると出世できない仕掛けです。
 うーん、会社人間というのは昔から大変なんですね・・・。

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2005年2月 2日

警察組織迷走の構図

著者:来栖三郎、出版社:実業之日本社
 いま日本の重要凶悪事件について警察の検挙率は48%。半分以上が検挙されていない。
 迷宮入りの大事件がこんなにも多いことに改めて驚かされる。世田谷一家四人殺害事件、警察庁長官狙撃事件、朝日新聞阪神支局襲撃事件、綾瀬マンション母子強殺事件。そして、八王子スーパー射殺事件、さらに、グリコ・森永事件、古くは三億円現金輸送車強奪事件(私が大学2年生のときの事件です。学園紛争のため授業がない日が続いていた12月10日に起きました。当時の3億円という金額は腰を抜かすほどの巨額でした。今なら24億円にあたるそうです)が本書で取り上げられ、警察の初動捜査のミスなどが厳しく指摘されている。著者は警視正までのぼりつめた元警察幹部だけあって、第一線の実情もふまえて分析している。
 それにしても、指紋鑑定で、6ヶ所の特徴点が一致するので犯人だと断定したという埼玉県警鑑識課のお粗末さにはあいた口がふさがらない。日本の警察がいくら優秀だと自慢しても私はとても信じられない。トップの警察庁長官が狙撃されたというのに、その犯人さえ検挙できないのではお話にもならないと思う。
 警察幹部の次の2つの講話に、私は眼を疑った。
 「凶悪重要事件の検挙率を向上させるため、これからは自転車盗難や万引き、単なる暴行などの軽微事件の取り扱いを抑制して、重要事件の捜査に力を注ぐように指導されたい」
 「軽微事件の抑制・取扱い拒否から発展した警察不祥事が続発しているので、今後は、たとえ軽微事件や小さい事件であっても、被害者が解決を望んでいるものならば、親身になって取り扱うようにされたい」
 こんな姿勢で、本当に日本の治安は回復されるのか、ついつい不安にかられてしまう。

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2005年2月 1日

市民と武装

著者:小熊英二、出版社:慶應義塾大学出版会
 現在、アメリカ全土に2億2千万挺の銃があり、最低25ドルで購入できる。10代の死亡原因の4分の1は銃によるもの。高校生の4分の1近くが学校に銃を持ちこんでいる。1990年におきた2万3千件の殺人事件のうち6割で銃が使われた。どうして、こうなったのか?
 先住民や自然の脅威にさらされていた植民者たちの開拓共同体にとって、構成員の武装は権利というよりも、共同体の防衛に不可欠な義務だった。そのため、独立以前のヴァージニアでは家長の武装を要求しており、貧しくて銃が買えないときには政府が供給することにしていた。武装の有無のチェックの場は教会であり、毎日曜の礼拝には銃を持参しなければならなかった。同じころ、マサチューセッツでは、非武装の市民には課税していた。防衛で貢献できないのなら、税を支払って貢献すべしというわけだ。1792年、連邦議会は軍務年齢の市民に全員武装を要求した。
 アメリカの独立戦争のとき、独立革命軍に参加した開拓民たちは対先住民戦の経験者たちだった。植民者は、先住民を文明の圏外とみなし、だまし打ち、非戦闘員の殺害、略奪、焦土戦術など、あらゆる手段を用いた。先住民たちの多くの部族はアメリカ植民者と戦うためイギリス軍と同盟したので、アメリカ軍は焦土戦術で対抗した。
 イギリス側が黒人奴隷に対して、武器をとって国王の軍隊に参加するなら自由を与えると宣言したため、大量の黒人奴隷がイギリス側に逃亡し、アメリカ側は大きな衝撃を受けた。独立派は黒人を兵士に徴募しなかった。武装する権利は自由な市民のものであり、黒人は奴隷はもちろん自由黒人であっても、その権利はなかった。
 イギリス軍には黒人や浮浪者などが含まれ、王政の方が、均質な市民の共同体よりも、多様性に寛容であるという皮肉な事態が出現していた。
 独立軍の方も次第に黒人の参加を認めるようになっていき、最終的には5000人の黒人が参加した。黒人解放運動にとって、武装の獲得と防衛への参加が大きな目標の一つとなっていた。
 アメリカで銃規制がすすまない歴史的経過を知ることができた。

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