弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2004年12月22日
階級社会
著者:ジェレミー・シーブルック、出版社:青土社
日本は一億総中産階級になった。こんなことが言われたのは、今から30年前のことでしょうか。まだ労働者階級という言葉が少なくない学生に魅力ある言葉だった時代に、アンチテーゼのように登場してきたフレーズでした。階級なんてない。そんなのは古くさいマルクス主義思想の残りカスだ。本当かなー・・・。私は大いに疑問でした。
いま東京では、1億円のマンションが売れ残っても、10億円のマンションは即日完売するそうです。六本木ヒルズのマンションは賃料月額300万円、共益費100万円だといいます。誰がそんな賃料を支払えるのかと問いかけたくなります。でも、余計なお世話と言われてしまいそうです。
多くの人々が、よりよい生活を実現する唯一の可能性が世界の富の公正な分配にあるのではなく、もっと多くのカネを稼ぐことにあり、それが彼らの地位を向上させてくれるかもしれないと考えるようになった。
支配階級にとって残念なことは、富の生産に対する普遍的な献身からいささかの利益も受けないインド、バングラデシュ、ブラジル、メキシコの人々が、このイデオロギー構造の英知を必ずしもよく理解してくれないことだ。
世界のすべてが変わった。それにもかかわらず、気味が悪いことに、すべてが同じままだ。豊かな国々に住む我々がテレビのスイッチをひねるたびに、貧困を映し出す映像が目に飛び込んでくる。だが、我々としては、軽蔑しながらそれを見るのが関の山である。
さまざまな言い訳が考案された。奴らは外国語を話す。奴らは別の神を信じている。世界との距離が近くなったことに感謝しつつも、実際に起こっていることからは目を背けることが可能である。
稀少種の動植物を手つかずの森に生かしておくのはいい。だが、貧相だ。不衛生だの病気だのを無理に押しつけられるのは嫌だ。
第三世界が与えてくれる利益だけは慎重に選びとり、それが抱えている問題は無視する。これで公正と言えるだろうか?
ほとんどの人が自分をミドルクラスと考えているような社会では、アンダークラスは、ある有益な機能を担っている。彼らは、残りの我々に対して、自己を抑制するよう警告を発している。つまり、彼らのような運命に陥らないためには、慣習を守って暮らすようにと、強く教え諭す存在である。彼らは体制順応と正当性遵守の意義を教え、反体制の愚かさと、別の生き方などを試みたあげくの結果とを教える。
どれだけ凶悪な社会現象がアメリカで起きても、それは間違いなく世界各地で起きるようになる。
貧富は富者のイメージにあわせて、その姿を変えつつある。彼らは、何を買うか、何を持つか、どのようにお金をつかうかについて、どこにいても、同じ執拗な広告、同じ勧誘にさらされている。彼らの欲求はあおられる。彼らは自己抑制の破綻、市場主導の帰属意識に身をさらしてきた。それでいて、貧者にとっては、市場に参加するためのお金は手の届かないところにある。
排除された若者が多国籍企業の広告を身につけるとき、貧者は富者の敵であることを止めたばかりでなく、嬉々として富者の利益の拡大をもはかっている。貧者は新たな形の従属にからめとられている。
かつてないほど豊かに富んだ社会で犯罪率が急増しているという現象は、20世紀最大の謎のひとつである。それは社会の富が莫大なものとなり、特定の個人が著しく大きな報酬を受けとるという状況のなかで依然として、社会的不公正が続いていることの反映である。こうした利益を受けられない人は、なぜ自分がそんな目にあわなければならないのかを理解することができない。
犯罪は、そうした不公正に対する彼らの個人的な回答なのである。本能的な反抗心を育むのは、ちっぽけな名声ではなく、人々がかかえる劣等感である。社会的な改善の可能性を断たれた人々は、故意にでも法を侵そうとする。つまり、犯罪は高度にイデオロギー的な現象である。犯罪率の上昇は不平等の拡大と関係している。犯罪は、金持ちが分配敵正義を西欧の主要政党の綱領から削除させた代わりに支払わなければならない代償である。
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