弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年12月13日

国際人権法と韓国の未来

著者:朴燦運、出版社:現代人文社
 著者の朴弁護士の話は福岡で聞いたことがある。韓国の大学を卒業してアメリカのロースクールに学び、オランダの国際刑事法廷にもつとめた経歴を有している。韓国の弁護士は世界的に活躍しているんだな、日本の弁護士は負けている。そう思ったことだった。
 この本を読んで、著者も南北分断の辛い体験の持ち主だということを初めて知った。母方の祖父は朝鮮戦争当時、「北」側の人民委員長となり、「北」が敗北したときに惨殺され遺体も見つからなかった。著者の父は韓国軍将校として「北」と戦い、輝かしい戦功をあげた。著者の妻の実家は「北」から逃れてきた右翼反共闘志の家柄。そして、著者は国際的にも活躍している人権の闘士である。
 その著者が司法研修院で国際人権法について30時間の講義をした(2001年)。日本の司法研修所でも同じようなことをやっているのだろうか・・・。ところが、受講生のなかにソウル大学法学の卒業生が1人しかいなかったという。ビジネス万能主義のあらわれではないかと著者は心配している。
 韓国の司法改革の現状と問題点がよく分かる本だ。韓国でも日本と同じように司法改革がすすんでいる。司法試験の合格者が長く300人だったのが、今は1000人となった。かつて弁護士はヤメ検、ヤメ判ばかりだった。しかし、今では合格者1000人のうち、700人は弁護士になる。ソウル弁護士会3300人のうち、判検事の経験のない弁護士が2000人いる。といっても、役員はヤメ検・ヤメ判がまだ多い。 韓国の悪しき慣例として前官礼遇というものがある。かつても先輩であるヤメ検・ヤメ判に特別待遇するというものだ。とはいっても、これもなくなりつつある。
 2002年の司法試験の合格者の3割が女性。2003年1月の司法研修院の卒業式で、成績の1、2、3位は全員女性だった。判事(予備判事)に任命された110人のうち女性が半分の55人だった。いずれ7割になると予想されている。
 イラク戦争は侵略戦争であり、韓国のイラク派兵は憲法違反だと断言する著者の論理はきわめて明快で、胸のすく思いだ。

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