弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年12月10日

リーガル・ネゴシエーション

著者:加藤新太郎、出版社:弘文堂
 私は交渉はあまり得意ではありません。とくに初対面の相手と強気で交渉するなんて、とてもとても自信がありません。だから、交渉事件は嫌いです。
 世の中にはタフ・ネゴシエーターと呼ばれる人がいます。粘り強く紳士的にがんばる人かと思っていましたら、案に相違して、頑固な自信家のようです。
 優れた調整者とは非常に柔軟な人かと思うとさにあらず、自説は一切曲げないという人が多い。タフというのは頑迷固陋と紙一重で、柔軟だというのは日和見と紙一重だ。
 この本には、私も属している自由法曹団という「左翼」弁護士団体の大衆的裁判闘争が紹介されています。
 重要なことは、現在の裁判を公益の代表格として位置づけ、裁判闘争の勝利のために公益に属する人々の協力を裁判に結集させるという狙いをもつことである。裁判の勝利が運動の公益性を高め、その逆に、支持者の公益のための活動が裁判の勝利を呼ぶという相関関係に着目することである。
 もうひとつ、沖縄で戦後アメリカに対して土地返還のたたかいを粘り強くすすめ、一人の脱落者も出さなかった阿波根昌鴻氏の運動のすすめ方が紹介されています。実に感動的な原則です。
 陳情行進をするについて決めた11の決まりがある。反米的にならない。耳より上に手を上げない。大きな声を出さずに静かに話す。軍を恐れない。次の項目が心をうちます。 人間性においては生産者であるわれわれ農民の方が軍人に勝っている自覚を堅持し、破壊者である軍人を教え導く心構えが大切だ、というのです。これは次のようにも言いかえられています。
 軍が横暴非道な態度で来ても、わたしたちは人間として、また一等国民の態度をもって、軍が礼を受けないでも正しい挨拶を忘れない。
 うーん、まいりました。このような道徳観念を実践すれば、相手はタジタジとなるはずです。すごいのはカンパ活動にとりくむ4つの指針です。
1.募金は同情を訴えるだけでは目的は果たせない。
2.募金に応じる人が奮起せざるをえないように働きかける。すすんでやる気を起こさせる。
3.自分だけでなく、他人にもすすめてやらせたくなるように仕向ける。
4.後日になって、もっと多くの募金に応じておけばよかったと思わせるようにする。
 うーん、なるほど、そこまで考えるものなのか・・・。さすが、すごいものです。
 弁護士の仕事については、次のように書かれています。
 紛争をなくすことが目的なのだから、そのために弁護士としてやれることをやる。ただ、その結果が全体の利益を害さないで、かつ当事者の満足を得る。そして平和な形で終息するような、何か新しい、クリエイティブな形を創り出すということが弁護士の仕事だ。
 うーん、そうなんですよね・・・。

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