弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年12月 7日

運命

著者:蒲島郁夫、出版社:三笠書房
 東大法学部で政治学を学生に教えている教授が、意外なことに高校生のころは見事な落ちこぼれだった。なんとか農協にもぐりこむようにして就職したものの、まともに仕事もできなかったという・・・。著者は私と同じ団塊の世代。この本を読んで、人間、やればできるものなんだね、改めてそう思った。アメリカに渡り、農業実習そして牧場での農奴のような厳しい生活。それに著者は耐え抜いた。
 不平や不満をいっているうちは、まだ気持ちに余裕がある。まだまだ目一杯働いていない証拠だ。
 いったん日本に戻って、再びアメリカへ。ネブラスカ大学を受験して不合格になったものの、知りあいの教授がかけあい、ようやく仮入学できた。そのチャンスを生かして授業をテープ録音しながら猛勉強する。試験で90点をとるには、120%の準備が必要だ。それを著者はやり切った。その結果、オールAの成績。そして特待生となって、奨学金がもらえるようになった。やがて日本から彼女を呼んで結婚し、子どもも生まれる。そして、ついにハーバード大学の政治学に合格。
 人生には、やるべきときに、やらなければならないことがある。
 著者の必死の努力を読んだあと、この言葉に接すると、すごい重みを感じる。著者は、無事にアメリカの大学を卒業して日本に戻り、「奇妙な」学歴のまま筑波大学に入ることができた。そして17年間つとめたあと、東大法学部に招かれて現在に至っている。熊本の片田舎で農協職員だった人が、今や天下の東大法学部教授とは・・・!
 それぞれの舞台で、人々の期待を裏切らない。運のいい人と出会った人は、その人にも運が向いてくるものだ。読んで、まだ自分にもやらねばならないことがある。まだ大丈夫だ。そんな気にさせる元気の出る本。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー