弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年12月 7日

小説・島津啓次郎

著者:榎本朗喬、出版社:鉱脈社
 明治3年9月、佐土原藩主(改め知藩事)島津忠寛の三男・島津啓次郎はアメリカ留学に出かけた。アナポリスの海軍兵学校に学び、中退して明治9年4月に帰国した。
 帰国後は武より文を重視する方針で、故郷に私学校を設立した(明治10年2月)が、西南戦争が勃発したため、鹿児島に兵を率いて参戦した。田原坂の戦いで、敗退するや、いったん故郷に戻るも、西郷軍が宮崎へ退路をとったため、またもや参戦し、ついに、鹿児島で西郷とともに敗死した。明治10年9月24日、享年21歳。
 私がこの本を読んだのは、今秋、宮崎へ行き、帰路に西都原古墳を見物したことによる。佐土原町は宮崎から西都市に行く途中にある。いま西南戦争のことを少し調べているので、西郷軍に宮崎から加わり戦死した島津一族の青年がいるということを知り、読んでみようと思った。アメリカに5年ほどいて、それなりの成績もとって開明的な青年になったはずなのに、西郷軍に身を投じるというのは、いかにも日本的な心情の持ち主だったように思われる。
 西都原古墳の方は、一面のコスモス畑を期待していったところ、コスモスはまだ苗の状態でしかなく、期待はずれ。新装の博物館はそれなりの迫力だったが、古墳を自分の足で歩けなかったのが大いに心残りだった。西都原(さいとばると読む)の高台には300もの古墳がある(まだ発掘されていないものが多いという)から、ここが日本の古代文明発祥の地であることは間違いないところだ。

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