弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年11月10日

公安警察の手口

著者:鈴木邦男、出版社:ちくま新書
 公然の右翼活動家だった人物が日本警察の実体を鋭く告発した本です。「新右翼」の代表としての活動をやめてなお、公安警察に何十回となくガサ入れされた体験をもつ人ならではの切々たる体験記でもあります。日本の警察批判は、たいてい左翼側からのことが多いなかで、珍しい本です。
 同伴尾行というのを初めて知りました。見えないように尾行するのではなく、すぐ隣りを歩き、公然と尾行するのです。喫茶店に行けば隣りの席に坐ります。電話をかけるときには、すぐそばで聞き耳をたてています。こんなことをされたら、フツーの人間ならカーッとなって突き飛ばすでしょう。それこそ公安の思うつぼです。待ってましたとばかり、公務執行妨害で逮捕します。そのあと恩を売ってスパイになるよう持ちかけるのです。
 公安はむかし活動していて、今はすっかり足を洗った人にもずっとつきまといます。きっとまた犯罪を起こすはずだというのです。まさに、『レ・ミゼラブル』の世界です。
 警視庁公安部に2000人の公安刑事がいて、警察庁に1000人。全国の警備部の公安課・公安係をあわせると全国に1万人からの公安がいる。ええーっ、と驚いてしまいます。公安の一番のターゲットは共産党です。合法政党なのに・・・。もちろん新左翼の各党派やオウムも対象ですし、最近はアルカイダなどもターゲットにしています。なにしろヒマだということになると、行政改革の対象になって削減されかねません。絶えず、そこには怖い団体だと恐怖をあおり、自分の存在意義を売り込む必要があります。
 日常的には、「対象者」ともちつもたれつ、の関係にあります。いえ、ときには公安の方がわざと事件を起こすこともしばしばのようです。ともかく、「過激派」が存在しないとリストラの対象になりかねないのですから・・・。
 優秀な公安刑事は、明るくて人当たりがいい。一見、遊び人に見え、「仕事」を相手に意識させない。そんな指摘があります。スパイを養成し接触するという暗い仕事を毎日のりこえていくわけでしょうから、相当タフな神経が求められることでしょう。でも、本当に、それってやり甲斐がある仕事なのでしょうか?
 私の親しかった弁護士(故人)の父親は公安刑事でした。なぜか家庭が暗い雰囲気だった、大人になってやっと理由が分かったとこぼしていました。人をスパイに引きずりこんだり、密告させたり、犯罪をしたりさせたりって、本当にいやな仕事ですよね。日本を守っているのは公安だという自負心にみちて活動しているそうですが、本当でしょうか。自分の保身ばっかりのような気がします・・・。

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