弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年11月 1日

民法編纂と明治維新

著者:坂本慶一、出版社:悠々社
 現職の裁判官が、明治はじめの日本民法がつくられていく過程を解明している本です。大変分かりやすい本でした。
 日本民法の基礎をなしているのはドイツ法ではなく、フランス法だというのは、私も大学で学んだ気がします。ボワソナードが活躍したことは有名です。それは、江戸時代末期にフランスと徳川幕府が親密な関係にあったうえ、フランスほど日本と似かよった国情と国民性をもつ国はないと考えられていたことによるというのです。初めて知りました。
 ただ、この本が、江戸時代、金銭貸借をめぐる訴訟はあまりなかったかのように書いている(38頁2行)のは間違いだと私は思います。『世事見聞録』をはじめ、江戸の庶民は、相手が武士であろうとなんであろうと、どんどん裁判を起こしていたと
いうのが真実だと思います。
 江藤新平について論じた部分は、なるほど、そうだったのか、うん、そうだろうと思わせるところ大でした。江藤新平は司法卿になり参議になって、民法その他の法律制定に大きく貢献しています。ただ、そのやり方はかなり強引だったようで、数多くの敵をつくってしまったようです。
 江藤新平は国権を重視する考え方で一貫しており、決してラディカルな民主主義者ではなかった。江藤新平は、あくまで尊皇、国権主義者であり、自由民権につながる思想は有して居なかった、と著者は指摘しています。なるほどと思いました。それにしても、江藤を憎んで、「臨時法廷」にのぞんでまで死刑を督励していた大久保利通には呆れてしまいます。まさに、国家権力の不正行使の権化とも言うべき存在です)

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