弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年8月 1日

蟻の革命

著者:ベルナール・ウェルベル、出版社:角川文庫
 いかにもフランス的な小説だと思いました。高校生たちが自由を求めて校舎にたてこもり、警察隊が包囲していく状況が描かれています。35年前のカルチェ・ラタンそして日本の学園封鎖の状況を思い出させてくれます。もはや日本ならありないけれど、フランスでは今もありうるかもしれない、そんな気がします。
 アリたちに思考があり、人間とも交信できる。そんな状況で物語は進行していきます。800頁もある文庫本ですが、アリの世界そして人間の世界にぐいぐいと引きこまれてしまいます。白アリの祖先はゴキブリで、アリの祖先はスズメバチだそうです。
 ユダヤの書タルムードによると、人は2つの口をもつ。上の口と下の口だ。下の口は性器である。性器によって、人は体の問題を時間の流れの中で解決していく。性、つまり快楽と生殖を通して、人は自由な空間を得る。下の口である性器を通じて、人はこれまでの血統とは別の新たな道をつくることができる。上の口は下の口に影響力をもつ。相手を口説いて性交に誘うには言葉が必要だ。下の口は上の口に影響力をもつ。性を通して人は自分が誰であるかを認識し、言葉を見つける。なるほど、そうだ、と思いました。人間にとっては、下の口も上の口と同じほど重要な意義を有している、つくづくそう思います。自分がだれてあるかは、なかなか分からない難問です。でも、言葉なしに分かりえないことは自明でしょう。ユダヤ教のタルムードって、読んだことはありませんが、どんなことが書かれているのか、はじめて関心を持ちました。

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