弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年8月 1日

監視カメラ社会

著者:江下雅之、出版社:講談社α新書
 このところNシステムが本当に目立ちます。私の10分足らずの通勤途中に2ヶ所もあります。全国で24時間連続監視しているのですから、その容量は天文学的な大きさでしょうし、維持・運営のため莫大な費用(もちろん税金です)を投入していることと思います。Nシステムは年間の国家予算だけで28億円にのぼりますが、このほか県警も独自に運用しています。最近では「人間Nシステム」も完成して運用されているそうです。人間の顔の一部をマスクなどで隠していても、同一性を識別できるといいます。恐ろしい機械(システム)です。
 この本によると、アルカイダはテロの標的に関する写真・地図そして指令をポルノサイトの画像やスポーツ関係のチャットルームの発言に埋めこんでいたそうです。目立たないようにしてやりとりされていたわけです。
 駅もコンビニも道路も、あらゆるところに監視カメラが設置されています。「もうプライバシーは存在しない」というサブタイトルは決して大ゲサではありません。本当にこんなことで私たちの自由は守られるのでしょうか。

  • URL

トンデモ科学の見破りかた

著者:ロバート・アーリック、出版社:草思社
 真面目な本です。9つのトッピな説について、どれほど信用してよいものなのか、ひとつひとつを検討しています。
 肛門性交は、エイズをうつす可能性がもっとも高い性行為だ。なぜなら、しっかりコンドームを装着していないと、わずかでも組織に傷がつき、精液のなかのHIVが血液に入りこんでしまうから。アメリカでは、女性にもエイズ感染が広がりつつある。最近の新たな感染者の30%が女性。エイズとHIVは男女ほど同数で、大部分が異性愛者である。
 石炭・石油・天然ガスは生物を起源とするものではなく、地球に最初から存在する構成部分の一部である。『未知なる地底高熱生物圏──  命起源説をぬりかえる』(トーマス・ゴールド、大月書店)は読んだときに、ええっと驚きました。いま世界のエネルギーは大半を「化石燃料」に頼っています。その「化石燃料」が有限だとして奪いあいが戦争にもなっているわけですが、実は、それらは非生物起源のものであって、無尽蔵のものかもしれないというのです。石油会社(メジャー)は、その正しさを知って自己の利益を図るために口をつぐんでいると言います。
 世の中には、本当に知らないことだらけです。ときに、ぞっと身震いするほどです。

  • URL

花の谷の人びと

著者:土本亜理子、出版社:シービーアール
 房総半島の南東にある小さな海辺の町に実在するホスピスのある診療所のお話です。
 院長をふくめて医師は3人、看護師11人、介護スタッフ3人、事務3人、栄養士1人、調理スタッフ5人、それに庭師1人。診療所にはホスピスが10室、14ベッド。
 読んでいるだけで自然に心がなごんでくる、患者を人間として大切にする小さな診療所です。食事ひとつとっても、あたたかいご飯を食べられるように工夫されています。
 こんなんで経営が成りたつのだろうかと他人事(ひとごと)ながら心配させられます。 でも、こんな診療所がオープンできたのも地方の多くの人々の善意に支えられた、奇蹟みたいなものでした。人生の最期をゆったりと過ごせる環境をつくりあげるには、いま猛烈に生きている人々が、少し歩みを緩めるしかないように思います。どうでしょうか。お互いの足のひっぱりあいしかない社会では、心にゆとりが生まれるはずもありませんよね。

  • URL

anego

著者:林真理子
 オバサンでもお局サマでもない、誰もが憧れる素敵な30代女性、でもその内心は複雑なんです。「性格は変えられるけど、性分は変えられないのよね」どんなに強そうに見えても守ってほしい部分がある・・・男性諸君、そこんとこわかってください。

  • URL

月9

著者:中村うさぎ
 暑苦しい夏に「ぞっ」とするにはいいかもしれません。ネガティブな感情は少なからず誰でも持っていると思いますが、こういう女性って周りにけっこういる・・・と思うと怖さ倍増かも。

  • URL

ちゃれんじ?

著者:東野圭吾\n 実はエッセイを読むのは初めてだったのですが、それはそれは楽しく読ませて頂きました。崇拝者としては、ただもうひれ伏すばかりです(笑)。「変幻自在の作家」東野圭吾は天才だ。間違いない。

  • URL

背徳の詩集

著者:森村誠一
 「上と比べてはいけない。下を見るんだ。上には見栄や贅沢がやあらゆる悪徳が棲んでいる。それを見倣ってはいけない。下には努力と忍従と壮美がある」この言葉をどう受け止めますか・・・「身の程」を知っている人は意外と少ない。

  • URL

警察幹部を逮捕せよ

著者:大谷昭宏、出版社:旬報社
 警察の裏金づくりは犯罪ではないのか。単に返金すればすむというものではないはずだ。しかし、警察本人が動かないのは当然(?)としても、検察庁は見知らぬフリをしているし、マスコミもまったく及び腰だ。報道はするものの、問題の本質をついたキャンペーンをはるなど考えられもしない。
 その点、北海道新聞は少し違うようだ。警察からの妨害にもめげずにキャンペーンをはったという。しかし、まだ今ひとつ追及しきれない。歯がゆいばかりだ。
 国松警察庁長官(当時)が狙撃されたときに住んでいたマンションはかなりの高級マンションだった(らしい)。長官の名目上の給料では手が届かないはずだと指摘されている。県警本部を2つほど歴任すると、餞別金だけで億に近い数千万円になると言われている。そんな裏金の仕組みを黙って許しておいていいはずがない。
 我々はもっと税金の使い道に目を光らせ、不正に対して怒らなければならないと思う。

  • URL

幕末の天皇

著者:藤田覚、出版社:講談社選書メチエ
 私は自分の無知を恥じました。私も「万世一系」の天皇という事実に反すると思っています。しかし、人々はずっと天皇と呼んできたとばかり考えていました。ところが、江戸時代の人々にとって天皇という言葉はまったくなじみのないものだったのです。「主上」とか「禁裏」と称し、正式の文書にも「・・・院」とされていたのです。10世紀末の62代・村上天皇を最後として、120代の光格天皇までの57代900年間、天皇という言葉は正式にも使われていなかったというのです。ええーっ・・・、本当に私は驚きました。天保11年(1840年)、光格上皇が死んだとき、光格天皇とおくられたので、江戸でも京都でも人々が一様にびっくりしました。
 さらに、元号と天皇をくっつける制度は明治天皇に始まったもので、それ以前はありませんでした。明治、昭和、平成とわずか3代の歴史しかないのです。
 天皇を頂点とする公家集団としての朝廷は、江戸時代中期には約10万石の藩という経済的実力をもっていました。
 江戸時代は、文書の宛先に対して「様」とするか「殿」とするか明確な違いがありました。「様」の方が「殿」より尊敬したいい方でした。書式上は、天皇と将軍は同等という扱いだったのです。なるほど、なるほど・・・。

  • URL

栗林さんの虫めがね発見

著者:栗林慧、出版社:フレーベル館
 すごい「虫の目カメラ」です。2年もかけてつくりあげた独創的なカメラです。1センチほどの大きさの虫たちが巨大な怪獣になり、しかも背景とともに鮮明な映像なのです。ピントをあわせたところ以外はボケるのが当然なのに、全体状況がくっきりして見ることができます。
 栗林氏には『アリになったカメラマン』など、たくさんの写真集があります。見るたびに感嘆します。それにしても、昆虫って、遠くに過ぎ去った幼いころの淡い思い出に浸らせてくれますよね・・・。

  • URL

中国の社会階層と貧富の格差

著者:李強、出版社:ハーベスト社
 中国の農業就業者の率は60%、日本の8%、アメリカ3%、フランス7%に比べて格段の大きさです。
 中国には档案という、個人の一生の経歴、家庭背景、親族の所属状況などを記載したものがありましたが、今は多様なタイプの企業が出現して突破されてしまいました。
 中国人の百万長者は1988年に5000人あまりだったのが、1993年に100万人をこえ、1995年には300万人以上とされています。
 中国の1980年代はじめに「脳体倒掛」という言葉があらわれました。肉体労働者の平均収入が頭脳労働者より高いという現象を意味しています。それがなぜなのか、人々を困らせました。しかし、今から10年前の1994年には「脳体正掛」に転換しました。頭脳労働者の平均収入の方が上まわるようになったのです。1993年の1年間で、政府機関をやめて新たな実業(ビジネス)に就いた知識人が30万人います。大量の頭脳労働者の「下海」は中国の民営者一般の素質を変えてしまいました。多くの知識人は「創収」を通して、最終的には「下海」の道を選んだのです。
 中国では「階級」という言葉に嫌悪感があり、利益集団とか利益グループと言いかえます。特殊受益者集団、一般受益者集団、相対的利益損失者集団、社会的下層集団という四つの利益集団があるとされています。いま中国には、「文人下海」という知識人が実業つまりビジネスをやる、「知本家」という知識を資本とする企業家という言葉があります。
 中国の都市貧困人口は3000万人いるとみられ、犯罪集団もふえています。
 単位の終身雇用制度に変化が生じ、都市においては、単位に帰属しない集団、たとえば自由業者、個人経営者、都市に入った出稼ぎ農民などが出現しはじめています。
 中国のいまを知るうえで役に立つ本です。

  • URL

正しい戦争は本当にあるのか

著者:藤原帰一、出版社:ロッキングオン
 新進気鋭の東大法学部教授のトーク本です。なかなか含蓄深い本でした。
 正義のための戦争は、欲得づくの戦争よりも、もっと苛酷で悲惨なものになる。宗教と戦争が結びつくと、戦争がどうしようもなく悲惨なものになる。
 日本人のイラク戦争への反応で一番びっくりしたのは、ただの無関心だった。日本に住むかぎり死ぬことはないから・・・。
  いまの国際社会では、デモクラシーではない政府は政府の資格がないというのが当然の前提とされている。これはアメリカの政策の結果では決してない。
 日本のこと、世界のことを改めて考えさせる本でした。

  • URL

天使になった犬

著者:かどかみむつこ、出版社:廣済堂
 表題にだまされてはいけません。犬は人間のセラピー犬としても役にたつという本です。
 といっても、この本が面白くないというわけではありません。犬族は、実験犬としても人間に役立っているのです。私は初めて知りました。
 しかし、それもさることながら、犬は昔から人間にとって、心のいやしに欠かせない存在だったことが、この本を読むと改めて再認識させられます。

  • URL

山がくれた百のよろこび

出版社:山と渓谷社
 私は月に1回、近くの小山にのぼることにしています。高さ400メートルもありませんが、戦国時代は頂上付近が山城になっていました。自宅から頂上まで歩いて1時間。広々とした頂上でお弁当を開きます。梅干し入りのおにぎりを爽やかな風に吹かれながら食べるのは格別です。もちろん、その前に上半身も裸になってタオルで汗をぬぐってさっぱりします。お腹がくちくなったら、少しベンチで横になって休みます。頭上をゆったり白い雲が流れていきます。至福のひとときです。
  私は、高い山にのぼったことはありません。フランスのシャモニーに行ったとき、ケーブルカーに乗って高い峰にのぼったことがあります。頂上に着いたとき、周囲を見まわすと、なんと日本人観光客が、わんさかだったことを今も鮮明に覚えています。
  この本は本格派の登山家を中心として、有名な登山家137人が山登りの魅力を語ったものです。不破哲三から徳仁親王までいます。不破哲三は日本共産党の議長ですし、私の尊敬する人ですから、すぐ分かりました。でも、徳仁親王とは一体だれだろうとおもってしまいました。あとの説明を読んで、奥さんが雅子とあったので、ああ、いま話題の天皇の息子かと思いあたりました。可哀想に、いわば単なる肩書きしかなく、普通の名前はないのですね・・・。山野上(やまのうえ)一太郎(いちたろう)というような名前がないと、フツーの人間じゃないよね。そう思いました。それはともかくとして、これまでの登山回数150回以上というのですから、私はとても及びません。天皇一家も、案外、フツーの人間の生活をしているんだなと思いました。
  ひとつの成功を機に堕落していく人を、これまで幾度も見てきた。人間やれば何でもできる。過去の自己にしがみついているうちに時はどんどん流れていく。
  山に入ると、心の棘がぽろっと落ちた、と感じる瞬間がある。
  山が好きな人たちの言葉があふれている本です。私も汗びっしょりになりながら苦労して山にのぼっているとき、どうしてこんな苦労しているのだろうと、いつも不思議におもうことがあります。でも、頂上にたって、見晴らしのいいところで爽やかな風に吹かれると、ああ、山にのぼるっていいな、いつもそう思うのです。

  • URL

韓国陸軍、オレの912日

著者:チュ・チュヨン、出版社:彩流社
 いまは日本に住む元韓国陸軍兵長が、自分の徴兵・軍隊体験をイラストつきで紹介している。この種の本はすでに何冊か出ているが、詳細なイラストが参考になる。
 著者は軍隊に入る前に大学で学生運動の経験があった。それでとくに苛められたとは書かれていないが、兵役をすませたあとは学生運動を続ける気はなくなったという。
 軍隊経験は懐かしい思い出。しかし、それでも、もう二度と軍隊には行きたくない。理不尽に殴られ、命令に絶対服従しなければならない辛く苦しい生活はもう二度と経験したくない。一度行ってみるのはいいかもしれない。でも、二度と行くのはゴメンだ。それが軍隊だ。この本を読むと、誰だってなるほどと思うだろう。
 徴兵されて訓練が終わったとき、訓練所司令部内に自殺者の写真をずらりと並べてあって、それを見学しなければならないというのに驚かされた。小銃を口にくわえて自殺し、頭が吹っ飛んだ写真。手榴弾で身体が木っ端みじんになり、人間の原形をとどめない遺体。飛び降り自殺をした遺体などを見せつけられる。まさしく非人間的な世界だ。
 軟弱な私は、日本に生まれてよかった。つくづくそう思う。

  • URL

小林多喜二を売った男

著者:くらせ・みきお、出版社:白順社
 戦前の有名なプロレタリア作家・小林多喜二の本は今どれだけ読まれているのだろうか。この本は、その小林多喜二を官憲に売り渡したスパイ三舩留吉を探りあてる過程を紹介している。三舩は秋田に生まれ、上京して東京下町の労働運動にとびこむうちに、検挙・拘留を重ねるなかで特高の毛利基警部のおかかえスパイとなった。
 インテリ出身の多い共産党内部では労働者出身として重視されて出世し、スパイMが党の内部で、三舩が青年運動(共青)におけるスパイとして「活躍」した。まだ三舩が25歳のときのことである。
 スパイとして摘発されたあと、三舩は満州へわたり、戦後、シベリア抑留のあと水原茂とともに帰国した。戦後は富山市で電力会社の下請会社をおこして成功したが、スパイMの病死(1965年)から7年後の1972年に病死した(享年62歳)。
 戦前の共産党はスパイに支配されていたとする史観もあるが、私はそれは間違っていると思う。1960年代のアメリカのブラックパンサー党にも警察のスパイが多数はいりこんで壊滅させられたことは有名だが、それは国民の意識から離れたところで過激な暴力闘争路線をとってしまった誤りにつけこまれたものだと思う。やはり、国民の意識と完全にずれないところで、しかし、半歩だけは先に立ってすすんでいく必要があるのだと私は思う。

  • URL

少年A─  矯正2500日全記録

著者:草薙厚子、出版社:文芸春秋
 この本のもとになったのは『週刊文春』の連載のようだ。著者が取材のために関東医療少年院の周辺をうろうろしていると、強引に名刺を奪われたという。オビに「東京少年鑑別所元法務教官が書いた少年A更正プロジェクトの全容」とあっても、著者自身が少年Aに直接関わっていたわけではない。肩書きはウソではないが、著者はフリーライターとして取材していたのだ。だから、少年院の側で警戒するのも、ある意味で当然のことだ。それくらい低劣なマスコミ報道は多い。ただし、この本を読んだ印象では、少年Aの更正プログラムの実情を真面目にレポートしていると思う。
 子どもを「スパルタ」的に、ただ単に厳しくしつければよいという考えは今も世の中に通用していると思われるが、実は、それは全くの誤りだというのが、この本を読むとよく分かる。子どもは、それで変に誤解してしまうものだ。自分は親に愛されていないと。
 少年Aが、普通の男の子のように女性の裸を想像してマスターベーションできるようになったことで少年院は性的サディズムを克服したと判断する話が紹介されている。なるほど、マスターベーションひとつでも、これほどの意味があるのかと思った。
 少年A事件のことを考えるうえで必読の本だと思った。

  • URL

現代の戦争報道

著者:門奈直樹、出版社:岩波新書
 日露戦争の開戦時に、『万朝報』の黒岩周六は、次のように言ったそうです。
 戦争が起これば、新聞の発行部数が伸びるというこの現実を無視するわけにはいかない。
 いや、むしろ、マスコミが戦争を人々にあおりたて、それでもうかっていったのではないでしょうか。
 湾岸戦争は、生中継による最初のテレビ放映戦争だった。テレビ記者たちは、戦争の全体像よりも、部分を撮影することに興味をもつ。魅力ある物語、競争力の強い話題をつくれというプレッシャーに常にとりつかれている。
 残酷なシーンを映しださない限り、テレビの映像は視聴者にとって、ハリウッドの戦争映画と同じで、日頃のうっぷん晴らしに役立つ現実逃避の世界だ。
 軍事評論家は、科学技術に対する異常な好奇心、崇拝心を視聴者に起こさせる一方、反戦・平和の声をかき消してしまう。
 アル・ジャジーラには、暗黙の了解事項として、表現の自由と反対意見の尊重、そして何より異質なイデオロギーの共存があった。このネットワークがアラブの独立した発言権を求める情熱をみたすことを目的にして出発したテレビ局であった。アラブには、3500万人の定期的な視聴者がいる。
 イギリスのBBCは、番組制作にあたって詳細なガイドラインをつくり、それを公開している。日本はNHKをはじめとしてガイドラインをつくっているものの、公開はしない。そこで、政府寄りになってしまう。
 こんな指摘がなされています。本当に、いまの日本のマスコミの政府の政策に盲従する報道のひどさには呆れてしまいます。

  • URL

しずり雪

著者:安住洋子、出版社:小学館
 感動の時代小説短編集とオビにあります。この本を読みながら、山本周五郎の世界を思いだしました。今から30年前、弁護士になる前の司法修習生のとき、山本周五郎の本をすすめられて一読し、しばらく耽溺しました。実に心が落ち着き、しっとりした世界がそこにあり、みるみるうちに引きずりこまれてしまいました。
 山本周五郎に比べるとやや物足りない感じもしないでもない本でしたが、しっとりした情感を漂わせて、時代小説に読みふける楽しさを久しぶりに感じさせてくれました。

  • URL

文学賞メッタ斬り

著者:大森望、出版社:パルコ出版
 正直いって、私は賞を狙っています。実は、今まで何回も出品しました。残念なことに一度も入選していません。いえ、佳作みたいになって、出版しませんかという誘いを受けたことはありました。もちろん、すぐに誘いに乗りました。出版社の商魂に乗せられたわけですが、それでもいいのです。この本は、芥川賞、直木賞その他もろもろの文学賞全部の内幕を暴露しています。
 宮城谷昌光は私の愛好する歴史小説の書き手ですが、選者となって、次のように評しています。
 はじめて選考会に出席してみて、具眼の選者の末席に雙眼をすえたというおもいがした。
 さすがに漢文を得意とするだけあって、難しい日本語です。
 石原慎太郎都知事が今も選者となっているそうです。たまりませんね・・・。
 閉塞とか日本社会の衰退とかを文学と重ねるとこ。エラソーな、ごタイソウーなことを言って候補作を否定していく御仁(ごじん)。
 選者としての高樹のぶ子についても否定的に紹介されています。
 全否定だが、多数決に従う。心地よくない。ともかく私は反対した。これじゃあ、まるでPTAのおばちゃんみたい。そもそも小説家として、そんなにすごい人なのか・・・?
 それはともかくとして、この本を読んで、私の畢生の夢であるナントカ賞受賞の可能性がずい分と遠ざかってしまった気がしてしまったのは本当です。トホホ・・・。

  • URL

インドのソフトウェア産業

著者:小嶋眞、出版社:東洋経済新報社
 いま日本のIT技術者は30万人が不足していて、来年になると40万人から50万人が不足する見込みです。ところが、日本では工学部レベルの基礎的な学習基盤が十分でなく、ITスペシャリストやプロジェクト・マネージャーなどの高度な人材の不足がとくに深刻です。その原因は、学生のときにコンピューター工学やシステム工業を専門に学んだ人材が意外に少ないことにあります。
 ところが、インドでは理工系学生が毎年77万人も卒業するうえ、たとえばインド工科大学(IIT)には1学年2500人の定員に10数万人の受験者があり、競争倍率は50倍以上。しかも、試験は英語です。そこでインドでは、毎年、英語力をもつIT技術者が12万人ずつうまれています。アメリカにインド人IT技術者が大量に進出していますから、日本もインド人IT技術者の大量活用を考えるしかないようです。
 インド人は抽象的な思索に卓越した能力をもつ民族と言われています。インドの全人口の35%が今も非識字者というほどの高率なのですが、大学生の数ではアメリカに次いで世界第2位というのがインドなのです。IT世界におけるインドの実力を垣間見た思いがしました。

  • URL

ヒロちゃん 空を飛ぶ

文:ながとひろし 絵:よしえヒロミ 出版社:碧天舎
 1人の男の不器用な生き様を通して生きることの大切さが伝わる一冊。深読みしたらそんな感じです。でも、これは実は絵本。ただし、たかが絵本と思うなかれ。小学校1年生のヒロちゃんの大冒険は、ミドルエイジを童心に還らせてくれました。大人も子供も楽しめます。

  • URL

恋人までの距離

著者:唯川恵 リチャード・リンクレイター原案
 地図も読めず歩き回ったウィーンの街角、美術館、カフェ、街路樹・・・恋する乙女はロマンス妄想にどっぷり浸りました(笑)。

  • URL

あの日、あなたは

著者:藤堂志津子
 主人公に共感しつつ読みました。自由とは人によって違うもの、それでいいんだと言い聞かせております。

  • URL

幻夜

著者:東野圭吾\n ページを閉じることができず、ほとんど一気に読んでしまいました。「自分たちに昼はない。夜を生きていこう」それぞれの「幻夜」に妖しく、せつないものを感じました。

  • URL

プロジェクトX〜新・リーダーたちの言葉〜ゼロからの大逆転

著者:NHKプロジェクトX制作班 今井彰
 人間ってすごい。体温が5度くらいあがった。通勤中の地下鉄で涙をこらえつつ、この感動を前に座っている人に語りたい!!そんな衝動にかられてしまいました(笑)。

  • URL

大阪で闘った朝鮮戦争

著者:西村秀樹、出版社:岩波書店
 1950年6月、朝鮮戦争が勃発した。最近の韓国映画『ブラザーフッド』がその実情をまざまざと描き出している。日本は、この朝鮮戦争といかに関わったのか。まずなにより、この戦争のおかげで日本経済はたちまち復興したということだ。戦後日本が今日あるのも朝鮮半島の何百万人もの死傷者のおかげだということを自覚しなければいけない。それだけでなく、日本人も朝鮮戦争に従軍し、何人もの戦死者を出した。経済復興といっても単に普通の経済活動が活発化したということではない。武器や砲弾の大量生産と輸出によって日本経済は復興した。
 この朝鮮戦争に対してアメリカ軍の日本からの出兵に反対する闘争が組織されて起こったのが大阪の吹田・枚方事件(1952年)である。
 この本は、これらの事件の真相を関係者にたずね歩いて判明した事実をまとめたもの。朝鮮戦争が日本人にとっても決して他人事(ひとごと)ではないことを発掘したものとして貴重な記録だ。

  • URL

合衆国海軍兵学校

著者:サンドラ・トラヴィス・ビルダール、出版社:かや書房
 アナポリスの一日というサブ・タイトルのとおり、写真を通じて、ある日の一日の様子が紹介されています。
 卒業生のなかの有名人としては、ジミー・カーター元大統領、ニミッツ元帥、アメリカ初の宇宙飛行をしたアラン・シェパード中佐、アポロ13号のジム・ラベル船長などがいます。日本人も10人ほどの卒業生がいるようです。1学年1500人で、2ヶ月間の入校訓練で100人が去り、4年後の卒業時には1000人になるといいます。
 アメリカの海軍将校を養成する過程のイメージがつかめる写真集です。

  • URL

女王ファナ

著者:ホセ・ルイスオライソラ、出版社:角川書店
 15世紀のスペインの女王ファナの一生を描いた映画の原作です。スペインでは190万人が見たといいます。宮廷風景など、映画のシーンの華麗さに私も圧倒されました。
 スペインのカトリック女王イサベルの娘ファナがブルゴーニュ大公フェリペと結婚します。幸せな結婚生活でした。しかし、フェリペの浮気でファナは心を悩まします。「狂気」のはじまりです。フェリペが死に、イサベル女王が死ぬと、ファナはスペインの女王になるのですが、ヨーロッパの政争に巻きこまれ、29歳のとき幽閉され、75歳で亡くなるまでの46年間をそこにとどまります。狂女ファナと呼ばれて・・・。
 本当に狂女だったのか、それは愛する夫を喪ったことによる精神的打撃でしかなかったのではないのか・・。当時のヨーロッパ情勢を深く考えされられる映画であり、本です。

  • URL

ナポレオン自伝

著者:アンドレ・マルロー、出版社:朝日新聞社
 軍学とは、まずあらゆる可能性を十分に計算し、ついで正確に、ほとんど数学的に、偶然を考慮に入れることにある。偶然は、したがって凡庸な精神の持ち主にとっては常に謎にとどまる。
 兵力の劣る軍を率いての戦争術は、攻撃地点あるいは攻撃されている地点に、つねに敵よりも大きな戦力を投入することにある。しかし、この術は書物によっても、また慣れによっても会得されるものではない。戦争の才能を急速につくりあげるのは、行動上の機転である。
 フリードリヒ大王も言っているように、戦火のあるところ自由な国家はない。私は権力を愛する。しかし、私が権力を愛するのは、芸術家としてである。私は、音楽家がそのヴァイオリンを愛するように、権力を愛する。
 想像力こそが世界を統治する。想像力によってしか、人間は統治しえない。
 戦争にあっては、あらゆる機会を利用せねばならない。というのは、運命というのは女性だからである。今日それを取り逃がしたら、もう明日ふたたび出会えることを期待してはならない。
 軍人、私は、それ以外の何者でもない。なぜなら、それは私にとって天職だからである。それは私の人生であり、習慣である。これまで、いたるところで私の命令を下してきた。私は、そのように生まれついていたのだ。
 私は富者がいることは望ましいことだとさえ思っている。というのは、それは貧者の生活を保障する唯一の手段だからだ。
 宗教なしに、国家にいかにして秩序を保てることができようか。社会は富の不平等をともなわずには存在しえない。そして、富の不平等は宗教なしには保っていかれない。
 友情などは、単なる言葉にすぎない。私はただのひとりも愛してはいない。私には真の友人がいないということを、私はよく知っている。私の愛人、それは権力だ。私は、その征服に非常に骨折ってきたので、みすみすそれが奪われるのも許せないし、ひとがみだりにそれを欲しがるのさえ耐えられない。
 私の今日あるをつくったのは、それは意志であり、性格であり、精励であり、そして大胆さである。
 ボナパルト家がいつの時代に始まるのかとの問いを発する人への答えは実に簡単である。それはブリュメール18日に始まる。治世の最初の年になかなかの善人だとみられる君主は、2年目には馬鹿にされる。主たる者が人民に抱かしめる愛は、畏敬の念と強い評価の混ざった、男性的な愛でなければならない。国王が善い王だと言われるとき、その治世は失敗している。
 この本はナポレオンの書いた莫大な量の手紙、布告、文書からアンドレ・マルローが選び抜き、ナポレオンが晩年に自らの人生を語ったかのように編集したものです。したがって、今から当時をふり返ったというものではなく、すべて現在進行形のものですから、生き生きとした臨場感があります。ナポレオンその人を知るうえで、彼の肉声を実感できるという意味で貴重なものだと思います。

  • URL

まちづくりの法と政策パート3

著者:坂和章平、出版社:日本評論社
 大阪の坂和章平弁護士が四国の愛媛大学で行った三日間の集中講義を本にしたものです。これで3冊目なのですが、その精力的な講義内容には、毎回、ほとほと呆れてしまいます。ただ、学生時代に学生運動をしていたという割には、あまりにも今の「体制」べったりすぎるのが気になります。
 まちづくりにしろ、年金問題にしろ、イラクへの自衛隊派遣や平和憲法を「改正」しようとする動きについて、真正面から批判してほしいと思います。たとえ大学での学生向けの講義であったとしても、押しつけにならない程度に、今の「体制」がやっているあまりにひどいことを批判できたように思います。
 それにしても、都市問題について坂和弁護士がよくよく勉強していることには頭が下がります。映画の話は、ふーんオレもそこそこ見てるわい、なんて読みとばせても、都市再開発法については、そうなんだー、と勉強させられてしまいました。

  • URL

闘ってこそ自由。勝利して本当の自由

著者:篠原義仁
 残念なことに自費出版です。読みたい人は私までご連絡ください。格安でおわけします。
 実は、著者の篠原弁護士は、私が弁護士1年生として入った法律事務所の先輩弁護士なのです。たった4年違いでしたが、当時の私からすれば、それは一世代も上の、はるかに偉大な先輩弁護士として映りました。
 口八丁、手八丁という言葉は、まさしく篠原弁護士のためにあるようなものです。舌鋒鋭く、寸鉄、人を刺し貫いてしまいます。攻撃の矢面にたってしまったら、たいていの人は降参せざるをえません。私は、これはとてもかなわないと早々にあきらめてしまいました。すごすぎるのです。
 その篠原弁護士が、自分の35年の弁護士生活をやさしい言葉で語り尽くしています。この本を読んで、私はすごく勉強になりました。弁護士とはこうあらねばならない。久しぶりに原点に立ち返ることができた思いです。
 公害裁判、税金裁判、オンブズマン訴訟、そして労働裁判など、篠原弁護士は現代日本の超一流の弁護士として、今も私が心から尊敬する弁護士です。

  • URL

バクダット・ブルー

著者:村田信一、出版社:講談社
 バクダットの表情をとらえた写真集です。やはり、こんな写真を見ないとイラク現地の人々の様子は分かりません。
 イラクでは、ますます混迷が深まっている。戦闘が終わったとブッシュ大統領が宣言した03年5月以降のアメリカ軍の死者が500人をこえ、さらに増えつづけている。イギリス軍や国連・赤十字など、国際機関もすべて攻撃された。想像していた以上の事態だが、イラクという国を見誤り、その文化や宗教や人々の生活を軽視してきた当然の報いだ。
  日本の自衛隊もアメリカに追随してイラクに入った。イラク人が要請した派遣でない以上、占領軍であり、また無駄な血が流されることになるだろう。サダム・フセインは捕らわれたが、大勢に変わりはない。最初に死んだ2人の外交官だけでなく、私たちはみな敵とみなされることになる。自衛隊の犠牲者はもちろん、その自衛隊に殺されるかもしれないイラク人たちの不条理な死に、私たちは思いを馳せることができるだろうか。
 テレビや新聞などの大メディアは、アメリカのメディアの受け売りやアメリカ軍寄りの報道をくり返しているばかりで、イラクという国の実情やイラクの人々の表情は、ますます見えなくなっているような気がする。
 写真もいいけど、キャプション(説明文)もなかなか考えさせられるものでした。

  • URL

伊勢詣と江戸の旅

著者:金森敦子、出版社:文春新書
 江戸時代というと、今でも閉ざされた村のなかで自由に往来もできなかった社会だというイメージが強く残っています。でも、とんでもありません。江戸の人々は、町民も百姓(農民とは限りません)も、かなり自由に旅行を楽しんでいたのです。お伊勢参りは、1日だけで23万人の人が押しかけたというのです(1705年)。4ヶ月間で207万人が伊勢まいりをしました。当時の日本全国の人口は2952万人(江戸時代を通じて3000万人と、人口は変わりません)ですから、6人に1人の割合で伊勢まいりをやって来たということになります。
 当時の日本の街道は世界で一番安全だったと言われています。元禄4年(1691年)に長崎から江戸まで旅行した東インド会社のケンペルは街道が旅人であふれていて、子どもたちだけの旅行者までいることに驚いています。
 お金のある人は庶民を含めて旅行で大散財をし、なければないで旅行ができた。そんな世の中でした。江戸時代を暗黒の時代と思うのは間違いなのです。

  • URL

カナダ、オーロラ紀行

著者:吉沢博子、出版社:千早書房
 マイナス40度の世界。ただ寒いというより、痛いほどの寒さだろうと想像する。冬でもぬくぬくとした布団にしか寝れない私には、とても耐えられそうにもない。それでも、妖しげに輝くオーロラを一度は見たい気もする。怖いもの見たさ、の心境だ。
 アザラシの生ま肉を食べる。広場でアザラシが解体される。人々が一斉に群らがって手づかみで肉を食べはじめる。弾力があって、プリプリした肉だ。ちょうど新鮮な馬肉を食べる感覚、という。うーん、美味しそう・・・。
 カナダの極北地帯に3泊したら、オーロラを見れる確率は80%以上。うーん、どうしよう。頭をかかえてしまう。ハムレットの心境だ。行くべきか、行かざるべきか。

  • URL

やわらかな遺伝子

著者:マット・リドレー、出版社:紀伊国屋書店
 オビにこう書かれています。遺伝子は神でも、運命でも、設計図でもなく、時々刻々と環境から情報を引き出し、しなやかに自己改造していく装置だ。
 ヒトゲノムの解読から、ヒトは3万個の遺伝子からできていることが分かりました。たった3万個で人間のすべてが設計できるのか・・・。
  統合失調症患者が名家や頭のいい家系にあらわれることには、昔から多くの人が気づいていた。精神病の傾向がある人々を断種すると、多くの天才も抹消することになる。軽度の障害のある人、統合失調症型人間とも呼ばれる人は、並外れて賢く、自信と集中力があることが多い。ニュートンもカントも、今では統合失調症型とされている。
 教育とは、結局、頭に知識をいっぱいに詰めこむことではなく、生きていくうえで必要な脳の回路を鍛えあげることだ。鍛えあげることで、脳の回路は自在に動く。
 脳がなく、ニューロンが302個しかない線虫のような生物でも社会的経験の恩恵をこうむるのなら、人間の教育では、そうした経験の影響は、はるかに大きなものになるだろう。哺乳類では、幼いころに社会的な経験が豊富だと、その行動に長期的で
不可逆な影響がもたらされる。
 双子の研究では、家庭環境は離婚にまったく影響しないことが明らかになっている。一卵性双生児の片方が離婚すると、もう片方も離婚する割合は45%になる。つまり、離婚する可能性のおよそ半分は遺伝子によってもたらされ、残りは環境によってもたらされるわけだ。
 公平な社会では「生まれ」が強調され、不公平な社会では「育ち」が強調される。つまり、社会が平等になればなるほど、先天的な要因が重要になる。だれもが同じ食料を手に入れられる世界では、背丈や体重の遺伝性が高くなる一方、一部の人が贅沢に暮らし、ほかの人々が飢えているような世界では、体重の遺伝性は低くなる。
 うーん、いろいろ考えさせられます。要は、遺伝子がすべてを決めるというわけではないということです。

  • URL

ナチスからの回心

著者:クラウス・レゲヴィー、出版社:現代書館
 事実は小説より奇なり。ええっ、本当なの・・・。驚いてしまいました。ナチスの親衛隊の大尉にまでなった男が、戦後のドイツで左翼的知識人として大学の学長までつとめあげ、85歳になるまで過去を暴かれることがなかったというのです。もちろん、家族があります。妻は、戦後まもなくから過去を隠すことについての共犯でした。3人の子どもたちは、成人してから親の過去を知らされますが、沈黙を守り続けます。すごい家族です。
 しかも、本人は単なる親衛隊の大尉というのではありません。ヒムラーやハイドリヒとも親しく、アウシュヴィッツやヴーヘンヴァルト強制収容所とも深い関わりをもっていたのではないかというほどの人物なのです。
 彼は、終戦時35歳。戦死の届出を出して、別人になりすまして大学に入学します。そのうち、離ればなれになっていた妻と再会し、子どもをさらにもうけるのです。「故人とよく似たイトコ」になりすまし、妻は「再婚」するのです。事情を知っていた人は口をつぐみます。ドイツ中が焼け野が原になっていたので、別人になりすませました。親衛隊の隊員番号を腕に入れ墨していたのは、外科医で取りのぞいてもらいます。腕の反対側にもわざと傷をつけ、銃弾の貫通傷のように見せかけました。
 戦後、ナチスの戦争責任が問われたとき、彼はシンポジストとして、のうとうとナチスを他人事(ひとごと)のように糾弾します。ナチスから迫害されていたユダヤ人の隣りにすわって発言していたのです。ところで、彼が親衛隊に入ったのは偶然ではありませんでした。当時のドイツの経済不況のなか、出世するための早道だったからです。ナチスの側にも知識人を迎えいれてイメージアップをはかる必要がありました。
 それにしても、すごい「知識人」がいたものだと思います。「良心の呵責」という言葉が絵空事としか響かない実話です。

  • URL

日露戦争スタディーズ

著者:小森陽一、出版社:紀伊国屋書店
 日露戦争が始まる前、ロシアは韓国侵略の意図をまったくもたず、むしろ南満州から全面的に撤退してでも日本との戦争は回避したかった。というのは、ヨーロッパ情勢が急速に緊張していたから。ロシア陸軍は対日戦争の準備も研究もしていなかった(大江志乃夫)。ええっー、本当なの、それって・・・。腰を抜かすほどの衝撃を受けました。
 日本は1904年2月8日夜に旅順港外に停泊中のロシア艦隊を攻撃し、翌9日に朝鮮仁川沖でロシア軍艦2隻を攻撃した。日本がロシアに宣戦布告したのは、その翌日の2月10日だった。だから、ロシアは宣戦布告前に攻撃したのは国際法違反だと強く訴えた。しかし、あまり問題にならなかった。当時は大半の戦争が宣戦布告なしに始まっていたし、宣戦布告前の攻撃を違法とする条約はまだなかったからだ(伊香俊哉)。
 真珠湾攻撃前にも日本は奇襲攻撃していたなんて、知りませんでした。
 日本軍が旅順港口閉塞作戦に失敗するなかで「軍神広瀬中佐」報道が華々しかった。しかし、これは、明らかな軍事的失敗を隠蔽しつつ、その一部の行動だけを取り出して英雄的な行動と描き出し、放っておくと単なる「犬死」でしかない戦死を「軍神」として国民全体の士気の高揚を図るという情報操作だった。
 なるほどと思いました。戦争が始まって「朝日新聞」は事業を拡大していき、メディアの欲望のなかで戦争がけしかけられていったのです。ところが、「軍神広瀬中佐」神話に対して、夏目漱石は公然と違和感を表明しました。それは、有名な『吾輩は猫である』にも描かれています。ちっとも知りませんでした・・・!

  • URL

幻獣ムベンベを追え

著者:高野秀行、出版社:集英社文庫
 15年前の本を復刻した文庫本です。早稲田大学探検部のいかにもナンセンスなアフリカ探検記でしかありません。でも、なぜか、読み出すととまりません。えーっ、こんなバカなことやるの・・・、と思いつつ、次はどうなるのか、彼らがどういう運命をたどることになるのか、知りたくてたまりません。
 時間がたっぷりあって、好奇心を抑え切れない。そんな若者たちの体臭がムンムンして、ついつい憧れてしまうのです。ああ、私にも、かつては時間の過ぎるのをちっとも気にせず、こんなバカなことをしていた時代があったなー・・・、なんて思ってしまいました。まさに、大学生というか若者の特権です。でも、そんな特権は大切にしてやらなくてはいけない。いま、私はつくづくそう思います。ハーティンワークに追われて、くたびれた大人の発想だけで世の中が動いていったらたまりません・・・。
 ところで幻の怪獣ムベンベはどこにいるのか・・・。コンゴ人民共和国(当時)の奥地テレ湖にいるというのです。では、探検隊は会えたのか。もちろん(?)、会えませんでいた。この本は、怪獣に会えたかどうかではなく、その過程で何が起きたのか、若者たちがそれにどう対処していったのかが面白いのです。
 ワニの肉は美味しい。かむと歯ごたえがあり、飲み込むと鶏肉のささ身そっくり。スープも素晴らしい。ゴリラを地元民は愛好している。もちろん食べるという意味だ。
 そんな体験をした若者たちが、18年たって今何をしているのかも明らかにされています。うち2人はマスコミに入ったそうです。無茶をしなければ若者じゃない、ということを久しぶりに思い出した本でした。

  • URL

接客主義

著者:松尾貴史、出版社:知恵の森文庫
 いろんな接客産業が紹介されています。法律事務所も一つだけ紹介されています。分かりやすいとは決して言えない文章ですが、健康に関するいろんなサービス産業がいかに多いかはよく分かります。足裏マッサージや全身マッサージなどが、いくつも紹介されています。
 私が驚いたのは、故ダイアナ妃も愛用していたという大腸洗浄をしてくれるクリニックが紹介されていることです。えっ、今は、こんなのもあるんだと思いました。便秘に悩む女性に愛用されているようです。

  • URL

聖徳太子の真実

著者:クラウス・レゲヴィー、出版社:現代書館
 聖徳太子は実在していなかった。8世紀のはじめに創造され(でっちあげられ)、100年前の飛鳥時代の人物として美化され(偽造され)たのみだ。
 この本はそう主張しています。読むほどに、そうかもしれない、きっとそうだと思わせる本です。ちなみに、タイ(シャム)の山田長政も実在していなかったそうです。こちらも知りませんでした。
 7世紀まで、日本からの遣唐使は、「倭国使」と表記されていました。8世紀から、「日本国使」となっています。用明、崇峻、推古の3人は天皇ではなく、また大王でもなかった。この時代の実質的な権力者は蘇我馬子だった。彼こそが大王だった。
 こんな刺激的な話が満載の本です。うーん、そうだったのか・・・。何事によらず通説を盲信してはいけない。そう思わされた本でした。

  • URL

昭和史の決定的瞬間

著者:坂野潤治、出版社:ちくま新書
 2.26事件がひどく寒い日に起きたことはもちろん知っていました。しかし、同じ年の2月20日、つまり1週間前に総選挙があり、自由主義的な民政党が78議席も増やし(反対に政友会が71議席減)、左派の社会大衆党ほかが17議席も増やしていたことはすっかり忘れていました。しかも、翌年4月30日の総選挙では、左派の社会大衆党はさらに36議席へと躍進していました。民政党は204議席から179議席へと減り、政友会は171議席が175議席に微増です。
 日中戦争が迫りつつあるなかで、戦前の社会主義政党は少数党から躍進を続けていた。日本国民は日中戦争のはじまる直前までデモクラシーを求めていて、左派による政治改革を支持していたとみることができる。著者は、そう強調しています。なるほど、そういう面もあったのかと思い直しました。
 昭和12年1月に宇垣一成に組閣の大命があったのは、二大政党の支持を得た「協力内閣」づくりをめざすだった。しかし、軍部独裁を狙った陸軍はそれを挫折させてしまった。ただし、宇垣の「平和」重視というのは、英米両大国との強調を重視し、それが守られるのなら日本の領土拡張に賛成する、というものではあった。
 なるほど、なるほど。まだまだ知らないことは多い。つくづく、そう思いました。

  • URL

ペイチェック

著者:フィリップ・K・ディック、出版社:ハヤカワ文庫
 アメリカ映画『ペイチェック』の原作小説です。映画の方が分かりやすいと思いました。アメリカ映画には現在そして近未来社会の問題状況を映像で分かりやすく伝えるものがあり、いろいろ考えさせられます。
 この『ペイチェック』では、2年間の記憶を消される代わりに高額の報酬を受けとる科学者(技術職)が登場します。たしかに、脳の一部を手術すれば、記憶を消去できるようになるのでしょう。人間の身体を、脳をふくめて改造する技術が、このところ一段と進化しているようです。でも、悪用されてしまったら本当に怖いと思いました。

  • URL

蟻の革命

著者:ベルナール・ウェルベル、出版社:角川文庫
 いかにもフランス的な小説だと思いました。高校生たちが自由を求めて校舎にたてこもり、警察隊が包囲していく状況が描かれています。35年前のカルチェ・ラタンそして日本の学園封鎖の状況を思い出させてくれます。もはや日本ならありないけれど、フランスでは今もありうるかもしれない、そんな気がします。
 アリたちに思考があり、人間とも交信できる。そんな状況で物語は進行していきます。800頁もある文庫本ですが、アリの世界そして人間の世界にぐいぐいと引きこまれてしまいます。白アリの祖先はゴキブリで、アリの祖先はスズメバチだそうです。
 ユダヤの書タルムードによると、人は2つの口をもつ。上の口と下の口だ。下の口は性器である。性器によって、人は体の問題を時間の流れの中で解決していく。性、つまり快楽と生殖を通して、人は自由な空間を得る。下の口である性器を通じて、人はこれまでの血統とは別の新たな道をつくることができる。上の口は下の口に影響力をもつ。相手を口説いて性交に誘うには言葉が必要だ。下の口は上の口に影響力をもつ。性を通して人は自分が誰であるかを認識し、言葉を見つける。なるほど、そうだ、と思いました。人間にとっては、下の口も上の口と同じほど重要な意義を有している、つくづくそう思います。自分がだれてあるかは、なかなか分からない難問です。でも、言葉なしに分かりえないことは自明でしょう。ユダヤ教のタルムードって、読んだことはありませんが、どんなことが書かれているのか、はじめて関心を持ちました。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー