弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年7月 1日

大黒屋光太夫

著者:山下恒夫、出版社:岩波新書
 吉村昭の『大黒屋光太夫』(毎日新聞社)は小説として面白く読めました。さすが岩波新書です。新史料も紹介され、さらに歴史の真実に迫ることができました。
 ときは18世紀の後半。10代将軍家治。老中田沼意次によって江戸は好景気にわいていた時代です。伊勢の光太夫たちが江戸へ向かう途中に難破して、アリューシャン列島に漂着します。それから苦難の日々を過ごし、ときのロシア皇帝エカテリーナ2世に直訴することができて、ついに日本へ無事に帰国することができました。すでに田沼時代が終わり、寛政の改革で有名な松平定信の時代です。光太夫は21歳の将軍家斉に面会しています。身分を考えてみたら、とてもありえないことです。20年ぶりに故郷の伊勢にも帰国することができました。
 光太夫がロシアで厚遇されたのは、ロシアの当時の習俗に従って上流階級の船長とみなされたうえ、富裕な商人とも誤解されていたことによるというのです。もちろん、光太夫の人柄がそれだけの人物ではあったのだと思います。庶民レベルの日本人にも、なかなかの人物が昔からいたことがよく分かる本です。

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