弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年7月 1日

垂直の記憶

著者:山野井泰史、出版社:山と渓谷社
 山で手と足をあわせて10本の指をなくしてしまった登山家の話。まだ40歳にもならない。
 山での死は決して美しいものではないし、ロマンという言葉の意味を抹消してしまうほど。だからといって、アルパイン・クライマーは死を完全に取り去ることはできないし、その必要もない。世の中では安全登山ばかりを叫ぶが、本当に死にたくないのなら登らない方がよい。登るという行為は、厳しい自然に立ち向かい挑戦することなのだから、常に死の香りが漂うのだ。
 かりに僕が山で、どんな悲惨な死に方をしても、決して悲しんでほしくないし、また非難してもらいたくもない。登山家は、山で死んではいけないような風潮があるが、山で死んでもよい人間もいる。そのうちの一人が、多分、僕だと思う。これは、僕に許された最高の贅沢かもしれない。
 無酸素登頂したクライマーの半数が下山中に死亡した。人間は活動しているときには酸素をたくさん取りこめるが、睡眠中は呼吸が浅くなり、酸素はあまり入らなくなる。高所での睡眠はなるべく避けた方がよい。
 著者はヒマラヤの単独登頂に成功したあと、猛烈な嵐におそわれ、危うく遭難しかかったが、奇跡的に生還した。登山家のまさに生命がけの様子が実に生々しく描かれていて、手に汗を握る。なぜ、どうして、そんなにまで危険な目にあいに山に登るのか・・・。不思議というか、私の理解をはるかに超える。それでも、なぜか心を魅きつけるものがある。男の冒険ロマン心か・・・?

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