弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2004年7月 1日
シルミド
著者:城内康伸、出版社:宝島社
圧倒的な迫力の映画でした。絵空事(えそらごと)ではなく、史実にもとづいているというのが分かって見たせいもあるのかもしれません。ともかく、怖いくらいの画面で、2時間あまり息をひそめたままスクリーンから目が離せませんでした。
この本を読むと、映画が史実といくらか異なることも知ることができます。刑務所の死刑囚たちを連れてきたかのように映画ではなっていますが、実際には、成功したら空軍大尉になれる、都心に家も持てるという条件で選抜された一般の人々だったのです。
北朝鮮に潜入して金日成を暗殺するという任務を与えられていたことは事実です。それも、1968年1月の北朝鮮武装ゲリラによる青瓦台襲撃未遂事件に仕返しをするため、当時のKCIAの金炯旭部長が朴正煕大統領に進言して始まった計画だという点も史実です。朴大統領は暗殺されましたが、金炯旭KCIA部長もアメリカに亡命したあと、パリで暗殺されました(公式には行方不明)。
世の中の風向きが変わると、金日成の暗殺部隊なんて必要ないし、そんな部隊があったこと自体まで隠されなくてはいけなくなります。それが第二の悲劇の始まりでした。
国家意思とは何か、いかに非情なものであるかをじっくり考えさせる映画です。韓国で1200万人の人々が見たそうです。「卑怯者、去らば去れ」という歌は、私も学生時代に何度も歌ったことがあり、なつかしく思い出しました。そうなんです。実は、この事件は、私があこがれの東京にのぼって大学4年生の夏に、まさに同世代の韓国人がひき起こした事件なのです。戦後ずっとタブー視されていた事件を掘りおこし、韓国史上最大のヒット映画にしたという韓国人のたくましさにも私は圧倒されてしまいました。
ホントのSTD
著者:澤村正之、出版社:講談社
週刊誌によると、コンドームの売れゆきが激減しているそうです。
STDとは性感染症のことです。これを防ぐのは簡単、セックスするときコンドームをつかえばよいのです。東南アジアの国々ではコンドーム使用を義務づけてHIVの流行が減っています。ところが、コンドームが使われていない日本では、エイズ患者が増加する一方なのです。主婦層、とくに30代の増加傾向が目立つというのですから、ことは深刻です。
性教育に取りくんでいる東京の学校に対して石原都知事や与党側から「いきすぎだ。寝た子を起こす」という猛烈な批判(反撥?)が出ています。しかし、「寝た子」はそうでなくても起こされるものなのです。いかに正しい知識を早く伝えるかという真面目な努力に水をさしてはいけません。
私の依頼者に、産科医院につとめる看護師さんがいますが、若い人の妊娠中絶手術が増えているそうです。医者はピルを飲むように言いますが、ピルでは性病の予防にはなりません。コンドームが売れなくなった日本って、やっぱり心配ですよね。
法律相談のための面接技法
著者:菅原郁夫、出版社:商事法務
私はときどき法律相談で大失敗をしてしまいます。相談者の期待に反した答えをしたから怒られたのではありません。私の言い方に腹を立てたのです。自分でも分かりました。いかにも相手を突き放した口調で、冷たく「そんなこと認められませんよ」みたいに言い放ったのです。一方の私は、こんなことを言ったら相手は怒るだろうなと思いつつ、もう一方の私が、ダメなものはダメなんだからキッパリ言ってやった方が相談相手のためにもなるんだと思ったのです。私は、くり返しダメな理由を説明したのだから、自分への慰謝料のようなつもりで、相談料5千円を当然のように請求しました。相談にきた女性(みな女性でした)は怒りました。あとで怒りと非難にみちた手紙を送ってきた女性がいます。私も、そのときには反省する心をとり戻していましたから、それなりに丁寧にお詫びの言葉を書き、相談料5千円を同封して返しました。
この本は弁護士が相談者に対していかに接すべきか、基本を説いています。
相手の心情に対して弁護士も共感を示す。質問は決して糾弾的になってはならない。できるだけゆっくりとした口調で、短く区切った質問をする方が効果的だ。法律相談でカウンセリング的対応をするためには、共感、受容、傾聴の3要素が重視される。相談者と弁護士という二人の人生が相談室で出会うと考えるべきだ。そこで弁護士は、相談者の人生の悩みや紛争を通して間接経験として学ばせていただいているという謙虚さが求められる。
やはり、ときどき初心というか原点に帰ることが大切だと改めて思いました。
鳥の雑学事典
著:山階鳥類研究所、出版社:日本実業出版社
わが家の庭の常連は、キジバト、スズメそしてヒヨドリです。たまにカササギそれにジョウビタキがやってきて、メジロやツグミもときどき顔を見せます。春先にサクランボの実が赤く熟れていたときには、カワラヒワが30羽ほど群がってやってきました。スズメの大きさですが、背に黄色い帯があり、くちばしが肌色なので、スズメと間違えることはありません。下の田には白いチュウサギがじっと止まってカエルを狙っているのをよく見かけます。散歩の途中の小川にマガモが1羽ひそんでいたのには驚きました。下流の方で、橋の上からさかんにパンくずを投げている人々を見かけましたが、マガモにエサを与えていたのです。
ツバメが4月に入ったとたんに路上を低く飛ぶのを見かけました。冬のあいだはどこにツバメはすんでいるのか不思議に思っていました。フィリピンやタイで冬を過ごしていることを、この本で知りました。2週間で2000キロも移動するというのですから、すごい速さです。
鳥は小便をしません。そのかわり、ほとんど水を飲まず、食物中の水中だけで生きています。鳥の生態を知れば知るほど、良くできているものだと感心します。
オシドリ夫婦は、実は浮気もの同士で、オスは、他のオスと浮気をしないようにメスに寄りそってガードしているだけ、というのです。オスは子育てにまったく関わりません。
羽があって自由に空を飛べたら、どんなに気持ちがいいだろう。子どものころから私はずっと夢見てきました。
編集とは、どんな仕事なのか
著者:鷲尾賢也、出版社:トランスビュー
講談社現代新書の編集長をつとめた著者が編集とは何かを語った本です。モノカキ兼編集のプロを自称する私にとっても大変勉強になったことをまずもって告白しておきます。
1970年ころ、出版産業はパチンコ業界と肩を並べていたそうです(ホンマかいな・・・?)。でも、今やパチンコ産業は17兆円(20兆円とも)。ところが、出版産業は、せいぜいその1割の2兆円でしかありません。
本が読まれなくなりました。インターネットのせいとばかりは言えないと思いますし、インターネットが読書に代わるものとも私は考えていません。
編集者は、人間が好きでないとやっていけない。少年の夢に似た憧れを抱きつづけられる持続力も求められる。あらゆることを面白がれる旺盛な好奇心の持ち主でないといけない。アンテナが四方に感応することが肝要だ。
具体的な編集技術のノウハウまで公開された本です。大変勉強になりました。
シルクロード路上の900日
著者:大村一朗、出版社:めこん
西安からローマまでの1万2000キロを陸路ひたすら歩いた日本人青年の記録です。西安を出発したのが今から10年前の1994年6月14日。ローマにたどり着いたのが、なんと2年5ヶ月後の1996年11月6日。そして、7年かかって、その旅行記を完成させたのです。うーん、すごい。
さすがに速読を誇る私も、一歩一歩たどるように活字を追っていく心境になりました。なにしろ、雨にうたれてトボトボ歩いて青年の姿を哀れんで、何台もの車がとまって「乗っていけ」というのを、心を鬼にして全部断り続けたのです。
もちろん、著者は怖い思いを何度もしています。それでも、ああ、人間って、こんなに心のあたたかい人が一杯いるのか。読み手の心まで温ためてくれるシーンが何度となく登場してきます。世の中には、民族の違いはあっても、人間としての心の優しさは共通しているんだな。そう思わせてくれる、いい本でした。
今、著者はテヘラン大学に留学中とのことです。こんな大変なことをやり遂げた青年が同じ日本人にいることを知って、私までうれしくなりました。今はやりの自己責任論の原点がここにあると思います。
藍色のベンチャー
物理学者たちの20世紀
著者:アブラハム・パイス、出版社:朝日新聞社
私は40歳になってから、年に2回、一泊ドッグに入ることにしています。もちろん、健康状態のチェックが主目的なのですが、気持ちのうえでは同じ比重を占めるものとして、日頃なかなか読めない大部の本を読破する機会を確保することも狙いのひとつです。730頁もあるこの本も病室にもちこんで一心不乱に読みふけりました。1泊2日で、日頃よめなかった大作5冊を読了しました。おかげで、心身をスッキリさせて帰宅できました。
著者はオランダ生まれのユダヤ人です。非ユダヤ人の恋人のおかげで隠れ家でずっと生活し、その間も物理学を勉強していました。アンネ・フランクの隠れ家とも近かったようです。しかし、ある日、ゲシュタポに踏みこまれ逮捕されてしまいます。ところが、恋人の大活躍おかげで、なんと解放されるのです。信じられないことですが、有能な物理学者だということで、ナチスのお目こぼしがあったのでしょう。
戦後、物理学の道に復帰し、オッペンハイマーやアインシュタインなど、ノーベル賞クラスの世界の物理学者との交友を深めます。日本の湯川秀樹や朝永振一郎も出てきます。湯川は内気な学者で、黒板の方を向いて話をするので困った。朝永は、日本人物理学者のなかで一番学殖の深い人だった、と述べられています。天才にも様々なタイプの人がいるようです。
中世九州の政治・文化史
著者:川添昭二、出版社:海鳥社
14世紀。九州探題として九州を制覇していた今川了俊は足利室町幕府の基礎をつくった武将ですが、同時に二条良基の正風連歌の継承者として、文化の面でも活躍しました。
和歌と違って連歌は、遊戯性・娯楽性そして一座性があるため、創作と鑑賞を共同で楽しむことができるものですから、堂上貴族から庶民まで、全国的に大流行していました。今日も連歌、明日も連歌といって、連歌にばかりかかわっていたので身代おちぶれてしまった。そんな様子が紹介されています。九州でも、連歌の面白さにはまった人が続出したようです。各地で連歌の会が催されています。京都から連歌の師匠がやってきて、九州各地を巡回していたのです。
連歌は、戦国期の16世紀に入っても依然として盛んでした。専門の連歌師が九州内を巡回していたのです。決して殺し合いばかりの殺伐な時代ではありませんでした。
1568年、高橋紹運(立花宗茂の父親)が岩屋城にたてこもり、北上してきた島津の大軍を迎え撃って、壮烈な全員戦死をとげた有名な岩屋城合戦の真相が語られています。すなわち、豊臣秀吉の九州平定戦の前哨戦として島津軍と戦ったことから、高橋紹運が玉砕し戦死しても、その子・立花宗茂は秀吉の直臣となることができ、柳川藩・三池藩が誕生することになったというのです。
ただし、高橋紹運が40歳とまだ若かったので、臨機応変の謀計を欠いて血気にはやったための悲惨な結果だ。そんな見方が当時からあったことも紹介されています。
新しい戦争の時代と日本
著者:渡辺治、出版社:大月書店
海上自衛隊は、「こんごう」「きりしま」「みょうこう」「ちょうかい」という4隻のイージス艦を保有している。このイージス艦は、本来は空母機動部隊を護衛するための防空・情報収集巡洋艦ともいうべき艦である。4隻のイージス艦は、4護衛隊群それぞれの旗艦となっている。北朝鮮が打ち上げたテポドンミサイルの弾道を発射から着弾まで確認してアメリカに情報を提供したのは、このイージス艦だった。
中国と日本は空母を保有していない。海上自衛隊は自衛艦137隻(そのほか支援艦船280隻)を保有し、アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスに次ぐ世界第6位の海軍でもある。しかし、空母をもたない。空母をもつことは十分な海外展開能力をもつ一流海軍のあかしなのである。だから、海上自衛隊は空母の保有を悲願としている。
ところが、空母が明らかな攻撃的兵器であるため、政府は憲法上の制約があるので保有できないとしてきた。そこで、ヘリコプター搭載護衛艦を多数もつようにした。これは日本独特の護衛艦である。哨戒ヘリ・対潜ヘリを搭載ないし離発着可能な艦は40隻にのぼっている。ハリヤーのような垂直離着陸機に換えたら、空母と同じ機能をもつことになる。 ところで、1998年に一番艦が就役した「おおすみ」型輸送艦は、飛行甲板をもつなど、外見上はまったく空母と異ならない。「おおすみ」は兵員1000人の輸送が可能であり、LCAC(エルキャック)と呼ばれるホーバークラフトを2隻搭載している。このLCACは50トンの90式戦車1両をそのまま積める。輸送艦というより強襲揚陸艦である。
新しい戦争の時代へ日本がふみこもうとしている現実があります。そこのところをもっとフツーの日本人は認識する必要があると、痛感させられました。
強奪されたロシア経済
著者:マーシャル・ゴールドマン、出版社:NHK出版
1998年に世界の富豪200人が発表されたとき、史上はじめて5人のロシア人企業家が入っていた。このニュー・リッチはオリガルヒと呼ばれるが、この5人は、実は10年前までは財産と言えるようなものを何も持っていなかった・・・。
オリガルヒには3種類ある。第1は、国有企業の元企業長たち、第2は、共産主義時代の「ノーメンクラトゥーラ」と呼ばれる上層幹部、第3は、1987年まではソビエト社会の外まわりにいた人々。
ソ連のブレジネフ政権のもと、ブレジネフの娘の夫であるユーリー・テュルバーノフ内務次官は警察の元締めであった。このチュルバーノフがウズベキスタンのマフィアから手当を受けとっていた。ウズベキスタンのマフィアの頭目は、なんと、共産党第一書記だったのだから、犯罪撲滅キャンペーンの成果が上がらなかったのも当然のこと。
1986年、ソ連全体で殺人は1万5000件だった。ところが、2000年にはロシア国内だけで2倍以上の3万1829件。2001年には、人口10万人あたりの殺人件数で、ロシアは南アフリカに次いで第2位だった。
毎年、国家予算の4分の1が、「意思決定者たち」のポケットに消えていった。
ロシア内務省の組織犯罪取締総局によれば、1994年には4352人の「マフィア」がいて、マフィアのリーダーが1万8000人、メンバーは10万人にのぼるという。
ロシアのマフィアは、部分的に私有化されてしまっているKGBや政府官僚層と結びつき、この三者が渾然と手を組みあっている。
背筋の寒くなるような、ぞっとする恐ろしいロシアの実態です。
近代日本と仏蘭西
著者:三浦信孝、出版社:大修館書店
私がフランス語の勉強を始めたのは、大学に入って第二外国語として選択してからのことですから、恐るべきことになんと37年前のことになります。その割には、今でもちっともうまく話せません。それでも、聞いてかなり分かるようにはなりましたし、仏検の準一級にも一応は合格しました。今年の6月にも受験して、ギリギリで一次合格できるかな、という点数をとりました。
私がフランス語を志した動機は不純というか、単純です。2つありました。今でもはっきり覚えています。大学に合格したあと、入学手続に必要な書類を書きながら、フランス美人と話ができるようになったら(もちろん、口説けたら、という意味です)、どんなにかいいだろう。それに美味しいフランス料理をメニューを読んで注文して楽しめるようになったらいいだろうな・・・。幸い、あとの方はほぼ目標を達成することができましたが、前の方は、フランス美人を口説くなんておそれ多くて、とてもとてもです。残念です。
この本によって、日本とフランスの深い関わりあいを識ることができました。たとえば、明治6年、大久保利通はフランスから帰って、民主共和制治は天の理によく適ったものだという意見を書いています。同じく、西音寺公望も、自由こそが文明富強の源だと言っていました。つまり、この当時の明治政府の首脳は、日本の人民は自由自主の気性を身につけなければならないとさかんに言っていたのです。明治政府も自由民権運動も、立憲政治の実現という点では、共通の政治的目標を目ざしていたというわけです。
アナーキストの大杉栄がパリのサンテ監獄に入っていて、帰国してまもなくの関東大震災のときに虐殺されたのは周知の事実ですが、犯人は甘粕大尉ではないという説があることを、私は始めて知りました。鎌田慧がそう言っています。
カラス、なぜ遊ぶ
著者:杉田昭栄、出版社:集英社新書
わが家には、幸いなことに、カラスは来ません。ときどきカサカギ(カチガラス)がやって来る程度です。
カラスは人間の顔を覚え、カラスにいじわるすると必ず仕返しをします。著者が遊び心からエサにアルコールをまいていたら、駐車場のなかの著者の車だけがカラスの糞攻撃を受けたそうです。めったなことでカラスをいじめることはできません。
カラスの鼻はききませんが、目と脳はすごく働くのです。遊ぶのも得意です。スキー場やすべり台ですべって遊んだりしますし、線路や道路に物を置いて車や列車に割ってもらうのもカラスの得意とするところです。
カラスを狭いところに閉じこめておくと、ストレスから円形脱毛症にもなってしまうそうです。真っ黒な身体に似合わない、繊細な心の持ち主でもあります。
大黒屋光太夫
著者:山下恒夫、出版社:岩波新書
吉村昭の『大黒屋光太夫』(毎日新聞社)は小説として面白く読めました。さすが岩波新書です。新史料も紹介され、さらに歴史の真実に迫ることができました。
ときは18世紀の後半。10代将軍家治。老中田沼意次によって江戸は好景気にわいていた時代です。伊勢の光太夫たちが江戸へ向かう途中に難破して、アリューシャン列島に漂着します。それから苦難の日々を過ごし、ときのロシア皇帝エカテリーナ2世に直訴することができて、ついに日本へ無事に帰国することができました。すでに田沼時代が終わり、寛政の改革で有名な松平定信の時代です。光太夫は21歳の将軍家斉に面会しています。身分を考えてみたら、とてもありえないことです。20年ぶりに故郷の伊勢にも帰国することができました。
光太夫がロシアで厚遇されたのは、ロシアの当時の習俗に従って上流階級の船長とみなされたうえ、富裕な商人とも誤解されていたことによるというのです。もちろん、光太夫の人柄がそれだけの人物ではあったのだと思います。庶民レベルの日本人にも、なかなかの人物が昔からいたことがよく分かる本です。
北米大停電
著者:山家公雄、出版:日本電気協会新聞部
2003年8月14日、15日。ニューヨーク市は、いきなり全市停電となり、地下鉄が止まり、飛行機まで飛ばなくなりました。携帯電話もつながらないなかで、人々は2001年「9.11」テロを心配させられました。
停電の被害は、アメリカ8州とカナダの2州、あわせると5100万人にも及びました。その6180万キロワットというのは、日本でいうと関東地域を上まわる規模です。
コンピューターは、停電のときには、基本的に作動しなくなり、携帯電話もつかえません。むしろ、固定式電話の方が電気使用量が少ないので停電には強いのです。
なぜ、このような大停電が発生したのかを究明しようとした本ですが、必ずしも歯切れは良くありません。コンピューターシステムがよくなかったとか、電気会社同士の連携が十分でなかったとか、いろいろな指摘がなされています。でも、電力自由化のもとで、乱立する電気会社の多くが利潤第一主義に走るあまり、保守点検とか「無効電力」の不足という問題をひきおこしたことが指摘されています。門外漢の私には、ここらあたりに重大な問題がひそんでいるように感じられました。ともかく、電気は水と並んで必要最低限のインフラなのです。それを整備し、保障するのは国の責任ではないでしょうか?。
脳は変化する
著者:アイラ・B・ブラック、出版社:青土社
バラの香りをかぐとき、神経細胞はインパルスを発生させ、この経験を貯える。電気信号は縦につながっている次の神経細胞との境目を飛びこえて、情報をリレー伝達する。神経細胞間の境目をなしているシナプスは、情報の制御で決定的に重要だ。シナプスが丈夫であれば、多くの情報がリレーされる。シナプスが弱いと、少しの情報しか送られない。システムのなかで、シナプスの能率が高ければ、それだけ情報の伝達がうまくいく。
たとえば、短い経験が神経にインパルスを発射させ、これが伝達物質の信号を放出する。伝達物質はシナプスの隙間をとび超えて、下流につながっている次の神経細胞を電気的に刺激する。伝達物質は次の神経細胞がもっている遺伝子を活性化して栄養因子を作らせ、因子はシナプス接続を補強する。こうしたシナプスの強化は少なくとも何週間か続く。短い経験がシナプスの構造に変わり、変化は長い時間続いて記憶をつくり出す。一個の酵素分子は毎秒100万回の化学反応をおこない、神経細胞は毎秒1000回の信号を伝える。
人間の記憶はこのようにしてつくられるものなんですね・・・。うーん、なんだか少し分かった気がしました。
先ごろ、アメリカのレーガン大統領がアルツハイマー病にかかったあと、93歳で亡くなりました。アメリカには400万人のアルツハイマー病患者がいて、毎年22万8000人の患者がうまれています。この本はアルツハイマー病に冒されていく銀行家の様子を物語りながら、脳科学の到達点をかなり分かりやすく解説しています。
脳も再生する。脳は常に成長し、変化する生きた構造であり、経験から学んでいる。
脳は固定配線を施されたスイッチ盤のような構造ではない。ですから、「あの人は頭が良い」というのは、あまり意味がないのです。「頭が良い」というのは脳のシナプス接続が多くて太いということであり、それは訓練の成果が期待できるものなのです。そうです。何事もあきらめてはいけないのです。私も、このごろ、やっとフランス語がかなり聞きとれるようになりました。フランス語用のシナプス(回路)ができあがり、それなりに太くなったというわけです。やはり、持続することが大切です。
文明の憂鬱
禁じられた島へ−家族って何だろう−
名犬チロリ
著者:大木トオル、出版社:マガジンハウス
セラピードッグの話です。写真に見るチロリは、いかにも慈愛にみちた優しさあふれる眼をしています。ところが、なんと、チロリは人間にいじめ抜かれて、あやうく「保護センター」に捕まって殺される寸前だった犬なのです。そんなメス犬がセラピードッグへ転身していくあたりは、犬好きの私としては涙をおさえることができませんでした。
チロリはセラピードッグとして訓練され、見事に役立ちます。病室で寝たきり患者に寄り添うチロリの優しい表情を見ると、なるほどセラピードッグって人に役に立つんだなと思わせます。
ただ、いじめられ飢えていた体験をもつ犬だけに、つい食い意地をはってしまう地が出るという場面には笑わされてしまいました。
古く何十万年ものあいだ人類の友として関わってきた犬たちです。セラピードッグによって心がいやされる人がいるのは間違いありません。
われらの悲しみを平和への一歩に
著者:ピースフル・トゥモロウズ、出版社:岩波書店
9.11犠牲者の家族(遺族)の手記を集めた本です。あの、いかにも「好戦的」なアメリカに、こんなに理性的なアメリカ人がいたのかということを知って、私は正直いって驚きましたし、自然に頭が下がりました。身内がテロリストに殺されたのに、テロリストへの報復攻撃はまずいと声を出して訴えた、というのです。すごい勇気だと思います。
日本人「人質」問題のときの「自己責任論」の無責任な横行からは考えられないような事態です。テロリストによる攻撃への軍事的報復は、より多くのアメリカ市民の命を危険にさらすことにならないか。テロリズムは社会的・経済的状況から生まれる。アメリカは、9.11に経験した暴力的行為に必要な憎しみと過激主義を育てる状況をこそ防止すべき。
テロリズムの根本原因を問題にしないで、テロリストだけを問題としている。暴力的犯罪に対する暴力的報復は、結局、暴力の悪循環を強めるのだ。暴力的行為は、唯一の選択肢でないばかりでなく、さまざまな落とし穴と偽善にみちた選択肢だ。
日本の自衛隊が多国籍軍の一員として、海外で、ついに本格的な武力行使をしようという事態を迎えています。とんでもないことです。小泉首相の暴走を許してはいけません。平和こそ私たちの毎日の不可欠の前提なのですから・・・。
素顔のスペシャル・フォース
下、著者:トム・クランシー、出版社:東洋書林
アメリカ軍の特殊部隊についての取材ルポです。「戦場におけるマスコミ」というのが陸軍全体のプログラムになっています。ベトナム戦争でマスコミが「自由に」報道したことから戦場の真実が報道されてベトナム戦争に反対する世論が高まっていった「失敗」の教訓にアメリカ軍は学んでいるのです。戦場にいる兵士たちにマスコミに応対する準備をさせるよう計画されたものです。レポーターをうまく扱うのは、兵士にとって戦闘ほどではないにしても、重要な意味をもつ。軍隊はCNN効果(何かが起きれば、世界中の人々の注目を集める)と対峙しなければならない。これでへまをやらかせば、犠牲は大きい。どんな質問に対しても、冷静に対応する。これを学んでいくのです。
驚くべきことに、2005年にインドネシアでクーデター勢力がパキスタンから密輸した小型核兵器を爆発させたという前提でのシュミレーションまで紹介されています。被爆国になっていないアメリカには、放射能汚染の恐ろしさが今も全然分かっていないのです。
特殊部隊といっても、結局は人間が決めるんだ。兵器万能ではない。著者はその点をくり返し強調しています。いくら衛星によるGPS受信機や完全な地図を持っていても、やることが多すぎて疲れた人間の失敗を克服することはできない。なるほど・・・です。
今やらんとあかんのや
著者:岡本健、出版社:PHP研究所
裁判官をやめて料理人になった人がいるという話は聞いていました。大阪に、とんでもない変人がいるという話でした。大阪高裁の刑事部の裁判長が定年(65歳)を待たずに、60歳で裁判官を辞め、弁護士ではなく、小料理屋の店主になったのです。それも、元の職場のすぐ近くに店を構えての再出発です。
この本を読むと、著者の真面目な、どちらかというと融通の利かない人柄がよく分かります(もちろん、私は会ったことのない人ですので、想像でしかありませんが・・・)。
父親は弁護士でした。著者は妻とうまくいかず、20年も別居生活でした。その間、2人の子どもを育てあげたというのですから、えらいものです。裁判官を辞めて料理学校に通い、調理学校では卒業生のトップ賞であるゴールデンアカデミー賞をもらっています。20歳前後の著者にまじって初歩から謙虚に学ぶ姿勢が高く評価されたのです。
店を開くまでに投資したのは2600万円といいます。今は客も減って赤字のようです。それでも、第2の人生を明るく前向きに生きている様子が爽快感を与えてくれます。規則正しい生活を習慣づけているというのは私もやっていることですが、何かをやろうとするときには不可欠です。睡眠時間は平日は3〜4時間といいます。それでも、朝はすっきり目が覚め希望にみちた気持ちで起床できるのです。寝ているのはもったいないという気持ちなのです。私も同じです(ただし、私の睡眠時間は7時間です)。あれもしたい、これもしたいと思うと、布団のなかにぐずぐずなんかしておれません。
ゲーテの言葉に、人間は努力する間は迷うものだというのがあるそうです(『ファウスト』)。いい言葉ですね。本当に、そのとおりですよね・・・。
歴史のなかの新撰組
著者:宮地正人、出版社:岩波書店
本当に知らないってことは恐ろしいことなんですよね。私は、新撰組なんて単なる野蛮な人殺し集団であり、近藤勇って、知性のカケラもなく、保守思想にこり固まっただけの頑愚な男だから、偽名をつかって逃亡中に流山で捕まって首をはねられたのも身から出たサビだと思いこんでいました。
この本を読んで、私の思いこみが完全に間違っていたことを思い知らされました。小説レベルで歴史をみてはいけないのですね。うーん、なるほど・・・。近藤勇は単なる暴力集団の親分ではなく、社会を見る目をもち、理論的にも一貫した主張をしたので、一橋慶喜などから絶大な信頼を得ていた存在だったのです。そして新撰組は、江戸末期、武士が頼りにならなくなった現実をふまえて、豪農層や中農上層部から剣客が続々と輩出していましたが、彼らによって構成されていた剣客集団なのです。しかも、情報収集能力にすぐれていました。闘い方にしても、やみくもに無謀な一騎うちなんかではありません。
新撰組の闘い方は、いつもきちんとした正攻法だ。多人数で囲み、相手を疲労させたうえで殺害する。味方には死者を出さない。新撰組のおかれていた歴史状況がきちんと描かれ、内部矛盾も鋭く分析されています。
新撰組とは何だったのか、改めて考えさせてくれる本でした。
無限気流
著者:井上文夫、出版社:光陽出版社
『沈まぬ太陽』(山崎豊子、新潮社)は日本航空の労務政策を厳しく問いかける側面をもつ長編感動作でした。その主人公のモデル役になられた小倉寛太郎氏と生前に立ち話しをする機会がありましたが、その慈愛にみちたまなざしを忘れることができません。
この本は、同じ日本航空福岡支店内の労務管理と真正面からたたかった人々の様子を小説化したものです。企業内で地道に労働者の権利を守る取りくみをすすめるというのが、いかに大変なことなのか、よく分かります。長いものには巻かれろ。事なかれ主義で、場あたり的に生きていくだけでは人生だめなんじゃないのか・・・。人生の生き方を、子ども時代に身につけた弱い者いじめをしない、正義と道理を貫くようにがんばるというまっとうな心をふまえて描かれています。そうなんだ、つい大事なことを忘れようとしていた。ふと反省されられました。
ブラザーフッド
著者:カン・ジェ・ギュ、出版社:集英社文庫
すさまじい迫力です。戦闘場面はアメリカ映画以上の生々しさです。機銃掃射の弾丸が迫ってきますので、映画館の座席にいながら思わず身をよけてしまいました。
朝鮮戦争で同じ民族が殺しあったのは、わずか50年前のこと。金日成の指揮する北朝鮮軍が一方的に南侵を始めたのは歴史的事実ですが、それが世間の常識として定着するまで20年以上かかりました。私が大学生になったころは、まだ北朝鮮は自衛反撃したのだというのが左翼陣営の「公式見解」でした。
イデオロギーの違いだけでなく、報復が報復を呼んで暴力の悪循環が悲劇を拡大させ、莫大な犠牲者を出しています。映画でも、そのことが生々しく描かれています。日本も朝鮮戦争の発生した原因に深く関わっていますし、なにより朝鮮戦争特需によって日本経済が復興したという事実を忘れるわけにはいきません。
先の映画『シルミド』は金日成の暗殺部隊の真相を描いたものでしたが、韓国人1100万人が見たそうです。今度の『ブラザーフッド』はそれをさらに上まわり1300万人を突破したというのです。信じられない動員力です。しかし、実際に映画を見ると、それだけのインパクトをもつ映画だと実感できます。単にチャン・ドンゴンやウォンビンが出演しているからだけではありません。
99年の『シュリ』、00年の『JSA』に続いて韓国映画は社会の現実を生々しく描いて鋭く問題を投げかける感動的大作が次々にヒットしています。この勢いが日本映画にも欲しいものです。韓国には、韓国映画の上映率を定めて、映画界を国が支援しているそうです。そこが日本と違います。日本の文化行政は貧困そのものです。ちなみに、この集英社文庫は映画のノベライズ版ですから、映画を見た人々にはよく分って助かりますが、とても韓国人が書いたとは思えない重大な初歩的ミスが2つあります。
朝鮮戦争に介入した中国軍を指揮したのは林彪ではありません。彭徳懐です。むしろ林彪は、朝鮮戦争のときに中国義勇軍の指揮を回避したことが死後に罪証のひとつとされています。毛沢東は中国軍100万人を投入し、実に90万人もの死傷者を出したのです。
毛沢東が朝鮮戦争に介入する経緯については『中国と朝鮮戦争』(勁草書房)、『毛沢東の朝鮮戦争』(岩波書店)という詳細な研究書が出ています。もうひとつは南朝鮮労働党(南労党)です。これは北朝鮮人民委員会の下部組織ではなく、あくまで朝鮮労働党の一部です。南労党についても詳しい本がいくつのありますが、『南部軍』(平凡社)を私はおすすめします。
グローバリゼーションから軍事的帝国主義へ
著者:大西広、出版社:大月書店
大変知的刺激を受けた本でした。
イラク戦争において、アメリカは実は敗戦した。著者は、このように断言しています。戦争に勝ったと言えるためには、その戦争を支えるだけの国力をもっていなければならない。しかし、アメリカは、財政赤字を3000億ドルから4500億ドルへとふくらませてしまった。
とどまるところを知らないアメリカの貿易赤字は1.5兆ドルをこえている。これは金利を年率5%として毎年750億ドルの金利返済ができなければ、債務が無限に膨張することを意味している。根元的な資金不足国家が長期に国際金融の中心を担うことはできない。
世界の資金をアメリカに流入させるために、アメリカは無理してドル高政策をとっている。ドル高政策は、アメリカの製造業に打撃を与え、ただでさえアジアの急追に悩むアメリカの基礎的な工業基盤の弱体化を加速させた。アメリカにとって、世界の「ドル離れ」を阻止できるかどうかがアメリカの生死を決める。アメリカは「国際通貨ドル」を絶対に守らなければならない。イラク原油がユーロ建てになっては困るのである。中東原油に依存する日本や中国などの東アジア諸国の決済通貨がユーロ化してしまえば、「ドル体制」の終焉を意味する。 原油のユーロ建てを企てたベネズエラのチャベス大統領がクーデターによって追放されようとしたのも、アメリカの意図が反映されていた。イラクのフセイン攻撃も同じ脈絡でとらえられる。なるほど・・・。
このほか、北朝鮮や中国についての分析も興味深いものがありました。
欲望の植物誌
著者:マイケル・ポーラン、出版社:八坂書房
マックのアイダホ・ポテトのつくり方はこうだ。
早春、土にくんじょう処理をほどこす。ネマトーダや土中の病原菌を抑えるため、ジャガイモを植えるまえに、そのなかの微生物をすべて殺せるくらいの化学薬品を土に浴びせておく。ついで除草剤をまく。レクサン、セルコン、エプタムをつかって雑草を根こそぎにし、畑をクリーンにする。ジャガイモを植えたあとは、ティメットのような組織性殺虫剤をまいておく。これは若い芽に吸収され、数週間のあいだ。その葉を食べようとする虫すべてを殺してしまう。さらに、その苗が6インチほどに育ったころ、雑草を抑えるため、再び畑に除草剤をまく。
ジャガイモ畑は大きな円の形をしていて、中心にかんがい装置がある。農薬も肥料も、この装置によって水と一緒にまくことができる。週に10回、化学肥料のスプレーをする。葉が茂ったころ、ブラボーという殺菌剤をスプレーする。2週間おきにアブラムシを抑える農薬をまく。モニターと呼ばれる有機リン化合物もまく。だから、生産農家は、自分で食べるジャガイモは別につくっている。もちろん、無農薬の有機栽培だ。
ええーっ、そんな薬づけのジャガイモを食べさせられているの・・・?うーん。恐ろしい・・・。
ジョニー・アップルシードと呼ばれた男はアメリカ中をリンゴのタネをまきながら歩いた。しかし、リンゴをタネから育てても、美味しいリンゴはできない。食用リンゴは接ぎ木からしかできない。では、どうしてジョニー・アップルシードが歓迎されたのか。それは、リンゴ酒をもたらすからだった。初めて知りました・・・。
チューリップも、リンゴと同じく、タネからは同じものができない。タネから育てられた子孫は親とほとんど似ていない。
自然の営みに素直に耳を傾けて、人類の生存の可能性を探っていく時期だとつくづく思いました。
走る!漫画家
著者:渡辺やよい、出版社:創出版
漫画家が出版社に渡した原画が、出版社が倒産してヤフーオークションにかかり、「まんだらけ」で投げ売りされていたことに気がついた母ちゃん漫画家の奮闘日記です。最後まで面白く読ませます。母ちゃん漫画家が、子どもの面倒をみながら、車椅子の老愛犬や大きくなった金魚の世話までする日常生活のドタバタぶりに身をつまされます。ところが、なんと、そのドタバタの合い間に、ここで引用をはばかられるような表現の官能小説をモノにし、さらに過激な性描写を特徴とするレディース・コミックも描きあげるというのです。その日常性との落差には唖然としてしまいます。そうなんです。流出した漫画原稿は過激な絵のオンパレードだったのです。それが1作品1000円程度で売られていたというのにも著者は腹をたてます。
自称二流三流のエロ漫画家がバロン弘兼先生たちを巻きこんで「漫画家原稿を守る会」を結成し、社会的な運動の流れをおこすのです。それなりに成果をあげることができました。しかし、「まんだらけ」との裁判は今なお継続中。
漫画家のおかれている状況を正しく認識できる本として、おすすめします。
徹底解剖100円ショップ
著者:アジア太平洋資料センター、出版社:コモンズ
100円ショップ主要5社の売上合計は3836億円(2002年度)。赤ちゃんから寝たきり老人まで、すべての日本人が年間1人30個を買ったことになる。97年度は660億円だったので、5年間で5.8倍になった。なかでもダイソーは68%のシェア率を誇り、一人勝ちしている。
ダイソーの矢野博丈社長は、ダイソーを株式上場しない理由を次のように述べている。上場すると、数字をオープンにさらけ出して、丸裸になる。お客様が、ダイソーは損して売っているのかと思っていたのに、利益も出ていると思ってしまったら、買い物の楽しさが減ってしまう。気の毒に、こんなもの100円で売って、かなり損しているんだねと思われる方がいいんだ・・・。しかし、実は、100円ショップの粗利益は平均32%で、これは一般専門小売店の27%に比べて明らかに高いのです。100円ショップで売っている商品の仕入原価は1円から120円まで。それでも、衝動買いが多いから十分に成り立ちます。大量仕入れ・大量販売。たとえば賞味期限が残り1ヶ月のものを仕入れる。100円ショップ用に製造した商品を直接仕入れる。10万から100万個単位を現金仕入れするから安くなるのも当然。仕入れの基本は10万個で、これを3ヶ月で売りさばくのを原則とする。広告・宣伝費はゼロに近い。
ダイソーの従業員は1万人いるが、正社員は、わずか400人。パートの比率は94%。店長以外はパート・アルバイト職員。
海外に続々「100円ショップ」を展開中だが、実態は在庫処分ではないか。日本の倉庫費用はばかにならないので、家賃の安い途上国にもっていって売りさばこうというもの。常に新製品をうみ出し、お客さんあきられないようにする。原産国は中国46%、台湾10%、韓国12%そして日本は15%。東南アジアから安く仕入れているが、「搾取」という概念では割り切れない現実がある。
「100円ショップ」が街角の目立つところにある現在、その背景についていろいろ考えさせられる本でした。
垂直の記憶
著者:山野井泰史、出版社:山と渓谷社
山で手と足をあわせて10本の指をなくしてしまった登山家の話。まだ40歳にもならない。
山での死は決して美しいものではないし、ロマンという言葉の意味を抹消してしまうほど。だからといって、アルパイン・クライマーは死を完全に取り去ることはできないし、その必要もない。世の中では安全登山ばかりを叫ぶが、本当に死にたくないのなら登らない方がよい。登るという行為は、厳しい自然に立ち向かい挑戦することなのだから、常に死の香りが漂うのだ。
かりに僕が山で、どんな悲惨な死に方をしても、決して悲しんでほしくないし、また非難してもらいたくもない。登山家は、山で死んではいけないような風潮があるが、山で死んでもよい人間もいる。そのうちの一人が、多分、僕だと思う。これは、僕に許された最高の贅沢かもしれない。
無酸素登頂したクライマーの半数が下山中に死亡した。人間は活動しているときには酸素をたくさん取りこめるが、睡眠中は呼吸が浅くなり、酸素はあまり入らなくなる。高所での睡眠はなるべく避けた方がよい。
著者はヒマラヤの単独登頂に成功したあと、猛烈な嵐におそわれ、危うく遭難しかかったが、奇跡的に生還した。登山家のまさに生命がけの様子が実に生々しく描かれていて、手に汗を握る。なぜ、どうして、そんなにまで危険な目にあいに山に登るのか・・・。不思議というか、私の理解をはるかに超える。それでも、なぜか心を魅きつけるものがある。男の冒険ロマン心か・・・?