弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年6月 1日

九十三齢春秋

著者:北林谷榮、出版社:岩波書店
 明治44年(1911年)生まれの現役(?)女優です。最新作の映画『阿弥陀堂だより』には腰が抜けるほど感嘆しました。四季折々の風景に見事に溶けこみ、実に自然な、そしてナイーブなお婆さんでした。
  今から30年前、司法修習生のとき、銀座あたりの劇場へ青法協活動の一環として、クラスの仲間たちと『泰山木(たいざんぼく)の木の下で』を観劇に出かけました。舞台を見るのは久しぶり(初めてだったのかもしれません)が、北林谷榮の名演技は今も記憶に鮮明です。実に不思議な役者です。何の違和感もなく、観る者が安心して舞台のつくる世界に没入していくことができます。
  わずか200頁ほどの本ですが、JRの列車の中で一時間ほど一心不乱に読みふけりました。読み終わったとき、心に安らぎというか、ほんわかとしたぬくもりを感じることができました。本が読めるっていいな。自分で自分をほめてやりました。
  よく化けるというだけでは役者は無意味に近い。生まれてから今までの生活の全体が嗅ぎとられるような、根っこのようなところをつかまえて立たなければならないのだ。
  映画『にあんちゃん』にも出演しているらしいので、こんどビデオを捜し、借りて見てみようと思っています。
  劇で天草のお婆さんを演ずるときには、2日ほど前から天草へ出かけて、地元のおばちゃんたちの話にじっと耳をすましたり、その地の人々の生活を自分の身につける努力をするそうです。さすが芸のプロはちがうと、ほとほと感心しました。
  ちなみに、私の母は大正2年生まれですが、いまでは十分な会話は成り立たなくなってしまいました。残念です。

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