弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年6月 1日

迷走する帝国

著者:塩野七生、出版社:新潮社
 「ローマ人の物語」も12冊目となりました。1年に1冊のペースでローマ帝国をたんねんに掘り下げていく著者の執念にはホトホト頭が下がります。
  ローマ帝国も3世紀になると、その栄光を謳歌するどころではありませんでした。カラカラ帝にはじまり、カリヌス帝まで、わずか73年間に皇帝が22人も登場する。しかも、たった3ヶ月で暗殺されたり、わずか半月で自殺ないし戦死した皇帝がいる。最長15年のガリエヌス帝も在位13年のセヴェルス帝も、いずれも暗殺されている。自然死(病死)した皇帝は2人しかいないが、それも在位は8ヶ月であり、2年でしかない。
  暴君として名高いネロ皇帝だって在位は14年だった。アウグストゥス皇帝などは在位44年だった。それに比べると、まさに異常な3世紀だ。この本は、その異常な3世紀の実相を詳しく描いている。
  ちなみに、ローマ皇帝に戴冠式というものがなかったことを初めて知った。ローマ教皇がナポレオンに皇帝冠を授与するなんていうことはありえなかったのだ。そもそも、ローマ帝国では、皇帝冠すら存在していない。樫の葉をリボンに縫いつけてつくった市民冠を皇帝の象徴としたのは、市民の安全を守るのがローマ皇帝の責務の第一とされていたからだという。なるほどと思った。

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