弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年5月 1日

知事の決断

著者:日本居住福祉学会、出版社:英伝社
 被災者生活再建支援法が改正されました。4月1日から施行されています。地震などで被災した住宅の再建のための解体費用として最高300万円を支給するというものです。では、解体したあとに再築する費用は、いったいどうなるのか。その点について鳥取県知事が何をしたのか、本書で紹介されています。私は感動のあまり胸が熱くなりました。片山知事は、東大法学部を出て自治省に入ったエリート官僚でした。その官僚出身の県知事が霞ヶ関の常識に果敢に挑戦したのです。生半可な気持ちでは、とてもやれないことだと思います。
 財務省は、住宅本体の再建費用については私有財産の形成に税金を投入することなんかできないと頑強に抵抗しています。しかし、本当にそうなるのか、他に例はないのか。片山知事は前例はあると主張します。農地です。個人の財産であっても、農地なら災害復興の対象になって補助金がもらえます。ところが、人間の生活の基本である住宅については、壊すのなら補助金を出すけれど、壊さないことが前提なら補助金は出さないというのです。変な話です。阪神・淡路大震災では、たくさんの仮設住宅をつくりました。1戸300万円はかかっています。ところが、それは取り壊すから国が補助金を出したというのです。えっ、と驚いてしまいます。
 片山知事は、仮設住宅はなるべくつくらずに、現地で建て替えるのに300万円の補助金を出しました。財務省の猛反対を押し切ってのことです。これによって被災地からの住民の流出がほとんどなくなりました。私は、それを知って涙が出そうになりました。住む家を喪った親を大都会に住む子どもたちが引き取ろうとしました。それを許せば、鳥取はますます住む人がいなくなります。大都会に住む子どもたちが年老いた親を呼び寄せ、見知らぬ人々のなかで生活させるのは本当に美談なのでしょうか。やはり住み慣れたところに住み続けたいと思うのが人情なのではありませんか。私より3歳年下の片山知事の英断に、私は惜しみなく拍手したいと思います。

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