弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年5月 1日

百姓の江戸時代

著者:田中真一、出版社:ちくま新書
 江戸時代は変化のない暗くて息苦しい時代だという思いこみが私たちのなかにあります。しかし、それは誤っていると著者は強調しています。
 たとえば検地です。著者によれば、検地というのは、土地を開いた(新田開発)百姓が大名に申請し、その耕作地を自分の名前で帳面にのせてもらって所有権を確保するというものでした。検地を受けていない水田には個人の所有権が及ばないのです。つまり、検地によってはじめて百姓は土地の所有権をもち、農奴的な身分から解放されるのです。検地について、単に大名が自分のために強行したという見方は誤っています。
 江戸時代には士農工商という身分が固定していたとされています。しかし、現実には、お金が対価として動きつつ、武士が商人になったり職人になったり、また、百姓が武士の株を買って武士になることが多々ありました。つまり、士農工商は身分というのではなく、職分だったのです。
 江戸時代の名主(なぬし)も、上からの任命ではなく百姓が選挙で選ぶようになりました。名主は村人によって選ばれ、村人が名主の給与を出すようになりました。
 長(おさ)百姓が不正をはたらくと、小百姓が団結して奉行所に訴状を出して弾劾することもありました。そして、その効果はちゃんとありました。
 江戸時代の百姓の位置づけについて、目を見開かせてくれる本です。

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