弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年4月 1日

私は英雄じゃない

著者:リック・ブラッグ、出版社:阪急コミュニケーションズ
 戦闘中にイラク軍に捕虜となり、アメリカ軍の特殊部隊が救出作戦に成功したという美談のヒロイン、ジェシカ・リンチ米陸軍上等兵の話です。この本でどこまで真実が語られているのかは分かりませんが、ともかくジェシカ上等兵がイラク兵と銃をもって応戦中に負傷したという状況ではないようです。また、イラクの病院で医師と看護婦がそれなりの手厚い医療看護を尽くしていたのも事実のようです。イラク人の医師たちはアメリカ軍が近づいてきたとき、救急車にジェシカを乗せてアメリカ軍へ運ぼうとしたそうです。ところが、アメリカ軍に発砲されて逃げ帰ったということです。恐らく本当の話でしょう。やはり、戦場では、理性をこえたことが起きるようです。
 ジェシカ上等兵は戦闘に従事する兵士というより、鉛筆やトイレットペーパー担当の事務係だったのです。つまり、彼女の所属するトラックが道に迷ったところを、イラク軍に攻撃されてしまったのです。衛星を利用した所在確認装置をもっているアメリカ軍も、やはり砂漠では道に迷ってしまったわけです。
 イラク戦争にはどうしても英雄が必要でした。その英雄に、いつのまにかジェシカ上等兵が仕立てあげられたのです。というのも、アメリカ軍は、第2次世界大戦以来、自軍の捕虜になった兵士を1人として救出した実績がなかったからです。いえ、救出作戦は何度も試みられました。ところが、ベトナム戦争でもハノイ・ヒルトンにいた米軍兵士の救出に失敗しています。
 仕立てあげられた英雄談をぶちこわしたのはジェシカ本人です。すごく勇気がいったと思います。それを乗りこえて、真実を語った女性に対して敬意を表したいと思います。

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