弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年4月 1日

ディリー、砂漠に帰る

著者:ワリス・ディリー、出版社:草思社
 私は前に出た『砂漠の女ディリー』も読みました。アフリカに生まれ育った女性が苛酷な運命とたたかって、ついに世界のスーパーモデルになるまでの数奇な半生に心をいたく揺り動かされたことを今も鮮明に覚えています。でも、この本を読んで、
あっ、彼女の生まれ故郷はアフリカのなかでも、今も戦争状態にあるソマリアだったんだと気がつかされました。そうです。泥沼の内戦が今も続いています。アメリカでさえ手を焼いて撤退したあのソマリアへ、生まれ故郷に今も住む両親のもとへスー
パースターのディリーが命がけで帰ったのです。
 幸いにも、アラーのおかげで1週間、ディリーは両親とともに過ごすことができました。死んだと思われていた娘が帰ってきて、両親はどんなにか喜んだことでしょう。でも、ディリーが母への最高のプレゼントだと思って手鏡を差し出したとき、母親は鏡に映った自分の顔が老けているのを見て、鏡の受けとりを拒否しました。人間の美しさは内面にあるのです。鏡なんか必要ありません。歯みがきセットも、そんなもの必要ないとして、喜ばれませんでした。砂漠ではうがいのために水を浪費するなんて、考えられないことなのです。
 ディリーが小学校を訪問しようとするとき、衣裳選びに親兄弟からケチをつけられる場面があって笑わされました。ファッションショーで衣裳を売りこむのが仕事の世界のスーパースターが、自分の衣裳選びもままならなかったというのです。
 砂漠の民は、たとえば、女性は生理用品を使わない、生理中は、古くなった暗い色のドレスを着て、家の中にじっとしているだけ。ソマリアの花嫁は結婚式の夜、縫合された傷をあけられる。セックスができるように、ナイフで傷を少し開くのだ。翌朝、義理の母親が花嫁を確認し、血が流れているのを見れば、花嫁が痛みに耐えて夫を受け入れたことが分かる。義理の母親はこれを村中に触れまわり、花嫁の勇敢さを讃える。
 著者は幼いころに受けたFGM(女性性器切除)について告白し、その廃絶に向けた取り組みのため国連の特別大使にもなっています。その勇気を讃えたいと心から思わせる良書です。

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