弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年4月 1日

博徒の幕末維新

著者:高橋敏、出版社:ちくま新書
 この著者の本は面白い。前の『江戸村方騒動顛末記』(ちくま新書)も大いに知的好奇心をかきたてられた。古文書を縦横無尽に読み解いていくさまは、下手な推理小説よりよほどワクワクしてしまう。草書体で書かれた古文書をスラスラ読みこなせたら、すばらしい新発見に出会える気がしてならない。でも、実際には、同一人物がいろんな名前で登場してくるので、そこまでよく分かっていないと、文書のもつ意義を理解できないだろう。
 この本は、伊豆七島に島流しにあっていた無宿人の安五郎が島抜けするところから始まる。七人の無宿者が船頭を引き立てて、伊豆半島に渡り、そこで散りじりになるが、主犯の安五郎は無事に故郷の甲州へたどり着く。なぜ、そんなことが可能だったのか・・・。そこに黒船到来の当時の世相が語られる。
 甲州は紛争が多いところだった。入会権をめぐり、水の分配をめぐり、紛議は絶えなかった。あまりの裁判の多さに奉行所はパンク寸前だった。
 日本人が昔からいかに裁判を好んでいたか。農村地帯でも裁判に訴えることは日常茶飯事だった。無宿人・安五郎も立派な文書を残している。文盲ではなかった。
 水滸伝のように、幕末期の関東地方では無宿人たちが暴れていた。勢力富五郎(28歳)も徒党を組んで荒らしまわった。石原村無宿・幸次郎一味の悪党21人を捕まえるため、総勢3000人にのぼる捕者隊が組織された。なにしろ幸次郎一味は鉄砲まで所持している。幕末の混乱する世相が博徒に焦点をあて、よく描かれている。江戸時代のもう一つの側面を知る格好の本だ。

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