弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年3月 1日

道路の権力

著者:猪瀬直樹、出版社:文芸春秋
 高速道路の建設と道路公団民営化をめぐる攻防は、なにやらみっともなくゴタゴタしているという感じでした。この本は、道路公団民営化委員会の一員となった著者によるレポートです。したがって、著者の目からすべてが描かれていますので、果たして問題の本質が何であったのか、客観的には分からないところがあります。
 それでも、官僚の抵抗のすさまじさはよく描かれています。小泉首相が官僚の上に君臨して、超絶しているかのような印象を与えていますが、決してそんなことはないと思います。小泉首相も、官僚機構のなかで漂うひとりでしょう。
 官僚が強いのは、マスコミを操作できる力をもっていることにあります。逆に言うと、マスコミは官僚の言いなりに動いているといって過言ではありません。毎日毎日、官僚と接して、そこから情報をもらい、その意味づけをレクチャーしてもらうのですから、そのご機嫌をとらないわけにはいきません。
 民営化委員会が記者会見するときも、事務局主導、すなわち官僚の描くシナリオどおりにプレス発表がなされます。
 日本道路公団は、そのOB2500人が700社のファミリー企業に天下りしているそうです。パーキングエリアのレストランなども官僚の利権の対象のようです。高速道路に別納割引制度なるものがあることを初めて知りました。なんと30%もの割引があるというのです。誰がその適用をうけるのかというと、当然よく高速道路を利用する運輸業者です。これは分かります。ところが、なんと異業種組合という抜け道があるのです。つまり、異業種組合なるものに加盟さえすれば、30%もの割引がされるというのです。とんでもない話です。もちろん、この組合はサヤ抜きと称して10%ほど中間マージンをとります。それでも20%も安くなるのです。これを大々的にやったのが、今、道路公団から追われて係争中の藤井前総裁だというのです。道路族の闇の底知れぬ深さを感じさせられました。道路、とくに高速道路は不法な利権の対象そのものなのです。
 いま、我が家のすぐ近くに田んぼを埋め立ててバイパスがつくられつつあります。ホタルの出る小川もつぶされようとしています。本当にバイパスが必要なのか、この本を読むと、ますます疑ってしまいます。

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