弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年3月 1日

男性誌探訪

著者:斎藤美奈子、出版社:朝日新聞社
 「アエラ」に連載したものを一冊の本にまとめたものです。私は「アエラ」をふくめて、週刊誌はほとんど読みません。理髪店か病院の待合室で読むことがある程度です。亡くなった渥美清もまったく読まなかったそうです。本当に知りたいことが書い
てあるのかい。渥美清はそう言っていたとのこと。でも、私は、週刊誌の広告のみは熱心に見ています。つまり、新聞にのっている見出しだけは見落とさないようにしています。本文を読まなくてもそれだけで十分です。そこに世の中の関心が今どこに集まっているか分かるからです。 実は高校生のときには、『丸』の愛読者でした。ご存知の人も多いと思いますが、戦記物と武器オタクに欠かせない雑誌です。おかげで、今も軍事問題(最新兵器の性能など)に関心があります。今はもっぱら「ニュー
トン」です。最先端の科学情報が絵と写真で図解されているのに見とれています。
 「失楽園」(読んではいませんが・・・)系不倫専門情報誌まであるというのを知って驚きました。ハウステンボスのホテル「ヨーロッパ」が東京からの不倫カップルで成り立っているという話を聞いたことがあります。本当でしょうか・・・。

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四百年の長い道

著者:尹達世、出版社:リーブル出版
  秀吉の朝鮮出兵(1594年)は今から400年以上も前のことですが、この本を読むと、当時、日本に連れてこられた朝鮮の人々の足跡が西日本各地に今もたくさんのこっていることがよく分かります。
 もっとも有名なのは沈寿官さんの薩摩焼です。また、大分県玖珠町はJR豊後森駅でおりるところですが、ここにあった森藩の家老にまでなった人もいるそうです。
 福岡県内でも、大牟田にあり閉山してしまった三池炭鉱の前身は柳川藩の家老・小野家が営んでいました。今も、「小野さん堤」が三池山の麓の方に残っています。そして、高田町には「人参山」という高麗人参を栽培する山もありました。
 赤穂浪士のひとりに武村唯七がいますが、彼の祖父は朝鮮から連れてこられた孟二寛という人物で、藩医として仕えていたというのです。
 日本と朝鮮の関係が古くからいかに密接であったか、改めて認識させられました。

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クアトロ・ラガッツイ

著者:若桑みどり、出版社:集英社
 信長・秀吉の時代にローマ教皇に会いに出かけた天正少年使節の栄光と悲しい運命を描いた本です。上下2段組みで530頁もありますが、質量ともに大変読みごたえのある書物です。福岡のある裁判官と立ち話をしたとき、この本が話題となりました。私はぜひ読んでみてくださいと強くすすめました。
 4人の少年は1582年(天正10年)に出発し、1590年(天正18年)に帰国しました。実に8年5ヶ月かかっています。出発のとき12歳から14歳だった少年たちは、20歳ないし22歳という立派な大人になっていて、実の母親でさえも見分けがつかないほどでした。すでに信長は倒され、秀吉の天下になっていました。しかも、伴天連追放令が出ています。すっかり世の中が変わっているなか、秀吉に面会できるか危ぶまれました。そこを押しきって上京し、威風堂々と行進するなかで、秀吉の方もインド副王の手紙が来たことを自分の権威誇示に役立てようという思惑から、少年たちに面会することになります。そして、伊東マンショに士官をすすめたのです。もちろん、マンショは断ります。でも、断り方には慎重な配慮が必要でした。
 マンショは、そのまま日本にとどまり、42歳のとき長崎で病死します。原マルチーノは国外追放となり、マカオで死にました。中浦ジュリアンは日本国内に潜伏し、1633年、長崎で穴吊りの刑にあって殉教します。残る松田ミゲルは棄教者となりました。しかし、1637年に勃発した島原の乱のとき、天草四郎はミゲルの息子だという噂が立っていたというのです。
 伝道が始まってわずか数十年のうちに、キリスト教の信者は九州の全人口の3割をこえる30万人に達しました。これは、キリスト教がまず貧民の救済事業を行ったことが大きいようです。
 ザビエルは手紙にこう書きました。「日本人は非常に好奇心に富み、知識に渇し、問題を出し、またその答えを聞いて、少しも疲れない。新事物を聞くこと、とくに宗教上のことを聞きたがるのは、そのもっとも好むところ。日本に来る神父は、日本人のする無数の質問に答えるための学識をもつ必要がある。日本人との討論において、その矛盾を指摘するために、弁証法学を知っているとなお結構である。宇宙の現象のことを知っていると、ますます都合がよい。なぜなら、日本人は、天体の運行や日蝕や月の満ち欠けの理由などを熱心に聞くからである」
 家光は12年間に28万人ものキリスト教徒を殺しました。改宗しさえすれば殺されないのに、改宗しないで死を選んだ日本人がそれほど多かったということです。
 権力と命令系統に従順な日本人の平の武士が、キリシタンになったとたん、命がけで権力にさからって自分たちの宗教を護ろうとする。これを権力者が放っておくわけがありません。巡察師ヴァリヤーノは日本人について、次のようにローマ教皇に報告しました。
 「彼らはきわめて礼儀正しい。貴族ばかりではない。一般庶民や労働者も驚くべき礼儀をもって上品に育成され、それはあたかも宮廷人のようである。この点で、彼らは東洋の諸民族のみならず、我らヨーロッパ人よりも優秀である。人々は有能であり、すぐれた理解力をもち、子どもたちは我らの学問や規律をすべてよく吸収し、ヨーロッパの子どもよりもはるかに容易に、また短期間に我らの言葉で読み書きを覚える。彼らのことごとくがあるひとつの言語を話すが、それは知られている限り、もっとも優秀なものであり、きわめて優雅であり、私たちのラテン語よりも語彙が豊富で思想をよく表現する」。
 果たして現代日本人にもあてはまると言えるのでしょうか・・・?
 高山右近はマニラに追放されましたが、そこで国賓のように歓迎され、彼の孫は総督の養子になっています。そして、高山右近の領地であった摂津高槻の隠れキリシタンは250年後まで生き延びました。日本教会の奇蹟と言われています。

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アニマル・テクノロジー

著者:佐藤英明、出版社:東京大学出版会
 地球上にウシは13億4000万頭、ブタは9億2000万頭、ヒツジは10億7000万頭、ヤギは7億1000万頭いるそうです。体重と頭数とで掛け算して種の重量を計算すると、1位はウシで、2位はナンキョクオキアミ。そして3位はヒトになるそうです。人類は増えすぎてしまったのかもしれません。
 この本を読んで、いろいろ学びました。人工授精がどのようにやられているのか、とくにオスからの精液の採取の実際を知り、とても勉強になりました。ウシやブタにとっても射精は真剣な行為なので、精液採取は危険をともなうというのです。満足できない射精に終わったり、射精に至らなかったとき、雄は凶暴になります。
 精液は液体窒素のタンクのなかでは20年間も保存できるそうです。宮城県にいた「茂重波(しげしげなみ)」というオスの牛は4万頭の子牛を誕生させたそうで、今も立派な銅像がつくられ、飾られています。うーん。ところで、クローン牛とか羊とか、本当に大丈夫なのかなー・・・。

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ドキュメント女子割礼

著者:内海夏子、出版社:集英社新書
 アフリカなどでは、女の子が成人になるまでにクリトリスを切除する(割礼)風習が今も根強い。早ければ4歳くらいから割礼の儀式に参加させられる。WHOの推定では、1億人以上の女性が割礼を受けている。割礼の理由は、女性の性欲を抑えるためというもので、これをしないと共同体からつまはじきされてしまうため、母親が娘に強制するという。
 イスラム教徒に多いが、コーランには割礼を求めるとは書かれていない。とんでもなくひどい風習なので、廃絶をすすめる運動が広がっているが、成果は遅々としている。
 うーん、なんでだろう・・・?

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倒産社長の告白

著者:三浦紀夫、出版社:草思社
 50歳になったばかりの社長が編集を専門とする会社を破産させた経験をあからさまに描いている。融通手形を切りあい、商工ローンやヤミ金に手を出し、身内の不動産を担保として差し出し、友人や社員にサラ金などから借金させる。どんどん借金はふくらんでいく。それでも、地元の信用組合はつきあってくれた。こんなに借金してまで会社を続けることにどれだけの意味があるのか、読んで疑問はふくれるばかりだった。
 ところが、著者は国が信用組合を強制破綻させたことをはげしく弾劾する。また、国が保険料滞納分の徴収のために売掛先の業者に照会文書を出して営業妨害したことを厳しく問題とする。
 そんな著者が破産申立を決意するまでは時間がとてもかかった。そのとき周囲の善意の人々を「借金地獄」に引きずりこんだ。しかし、申立して免責を受けるまではわずか4ヶ月ですんでしまった。
 私は、今、同じように借金過多で資金ぐりが困難な社長の相談に乗っている。その社長も著者と同じく、ともかく破産申立を先送りする。しかし、その間に、身内や友人・知人からの借金はふくらむばかりだ。早く見切った方が、かえって迷惑をかけるのは少なくすむのだが、実際には、なかなかふん切りがつかない。そんな実情が手にとるように分かる本だ。

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辰巳屋疑獄

著者:松井今朝子、出版社:筑摩書房
 江戸時代。大岡越前が裁いた最後の大疑獄事件の真相を描くとオビに書かれている。この本がどこまで史実にもとづいているのか私は知らない。しかし、いかにも史実を忠実にフィクション化したという気にさせる第一級の読みものだ。
 教え有りて類無し。これは論語の一節。人間には生まれつき定まった種類などなく、教えを受ければだれでも立派な人間になれる。語る一方ではなく、門弟にも意見を言わせ、ときどき笑い声も混じるなどしてなごやかな雰囲気で教えるという万年先生が登場する。福岡の万年弁護士を連想した。
 18世紀の大阪。辰巳屋は総勢460人の手代(てだい)がいた。忠臣蔵の赤穂浅野藩の308人の家臣より、はるかに多い。資産総額も200万両。
 この辰巳屋の後継者をめぐる内紛が裁判にまで発展してしまった。この本を読むと、昔から日本人は裁判が好きだったことがよく分かる。いったん裁判に負けても、なんとか逆転勝訴へ持ち込もうとして、担当奉行などへ贈賄攻勢をかけていく。贈収賄が発覚しても、贈賄側は軽い処罰しか受けないが、収賄側の奉行などには打ち首その他の厳罰が科せられた。
 田舎出の純朴な少年が、あるじ(社長)の忠実な僕(しもべ)としてともに栄え、倒されていく。そこに視点をすえて物語が進行するから、一気に読ませる。

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京・町家づくり千年の知恵

著者:山本茂、出版社:祥伝社
 古都・京都は何回行ってもいいところです。でも、あのJR京都駅は心胆を寒からしめるものです。まるで東京・新宿駅に着いた気分になります。最近改装したJR小倉駅も同じ雰囲気ですよね。それでも京都駅を出て少し歩くと、いかにも古都の町並みになります。
 町家(まちや)を「ちょうか」と呼ぶ人もいるとのこと。「大工は急(せ)かすな、値切るな、時間をかけて丁寧に」という家訓があるそうです。私は以前、建物だけで1億円かけたという豪邸を見学させてもらったことがあります。もちろん立派な材料がつかわれていました。しかし、なにより感心したのは、時間をたっぷりかけたという点でした。ツーバイフォー工法の、ペタペタと貼りあわせてつくるなんてものではないのです。年季のはいったベテラン大工さんがコツコツとじっくりつくりあげていくのです。なるほど、と思いました。弁護士についても「急かすな、値切るな、時間をかけて丁寧に」という家訓が広く喧伝されたらいいと思うのですが・・・。
 京都の昔ながらの町家がどこも同じような間口とつくりをしているのは、近所やお上(かみ)から、とやかく言われないように外見上の個性を殺したからです。ところが、中に一歩入ると、個性を生かしたつくりになっているのです。
 著者は、京・町家風の純和風旅館「 枳穀荘(きこくそう)」を建築しました。その状況が写真つきで解説されています。ホテルにないサービスが売りものということです。一度は利用してみたい旅館です。

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50歳からが面白い

著者:佐江衆一、出版社:講談社文庫
 気がつけば私も50代半ばとなってしまった。本当に月日のたつのは早いもの。いつまでも若いつもりでいても、身体の方は確実に老化現象が進行している。頭髪に白いものが目立ちはじめたのは40代のころからだ。最近、年齢(とし)をとったと思うのは、食後、よく歯間によくものが詰まるようになったこと。昔は、それほど楊枝をつかっていなかったのに・・・。歯科医によると、年齢(とし)をとると、歯間のすきまがあくようになるからだという。うーん、そうだったのか・・・。
 著者は65歳にしてカナダに1ヶ月の海外留学とホームステイをした。私は40歳のとき、フランスに40日間の外国人向けの集中講座に参加し、学生寮に泊まった。配偶者(つれあい)からは白い目でみられたが、自分としては、それでも行ってよかったと今でも思っている。私のフランス語も、フランスで1人旅できるほどには通じる自信がついた。その後、罪ほろぼしに2度、フランスとスイスに1週間ずつの家族旅行を引率した。
 著者はカナダに行ったとき、一切電話で日本の家族と話をしなかった。すぐ耳もとで日本語をしゃべられては、はるかかなたに来ているという気分が台なしになる。こう書いている。私もまったく同感だ。フランスの40日間、一度も電話をしなかった。その代わり、毎日、絵ハガキを書いた。そして、これをもとに帰ってから旅行記を書きあげた。
 私の同世代、つまり団塊の世代はそろそろ定年退職が迫っている。そうなってから第二の人生を考えるのでは遅い。今のうちに何を楽しみにして生きるか考え、試行的にやってみる必要があると思う。私は、モノカキとして本格的に取りくむつもりだ・・・。

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朝食抜き!ときどき断食!

著者:渡辺正、出版社:講談社α新書
 今、私はダイエットに励んでいます。昨年の夏ころ、体重が70キロになりそうでした。ズボンがきつくなってしまいました。これは大変と思って始めたダイエット法は朝食をとらず、ニンジン・リンゴ・牛乳・ハチミツをミキサーにかけてつくったジュースを飲むというものです。えっ、朝食をとらないのは身体に良くないよ。こんな忠告をよく受けます。それは常識の間違いだ。この本は、そう断言します。相撲の力士は朝食前に激しい稽古をしているでしょ。農村だって、朝ご飯をとる前にひと働きしていますよ。
 朝食をとらないと、空腹時に腸を動かすモチリンというホルモンが分泌され、これによって腸は収縮し、便が出やすくなる。朝起きてすぐの身体は、前日までの余分な脂肪や体内に蓄えられた栄養素を消費する、いわば「排泄モード」になっている。朝食をとると自律神経が乱れるし、食べない方が疲れにくい。朝食抜きの生活で腸がきれいになる。
 著者は西医学健康法をすすめます。これは、午前中は生水以外は口にしないというものです。野菜も生野菜です。コーヒーもやめた方がいいが、せめて砂糖はやめる。できたら柿の葉茶がいい。
 ときどき断食(週末断食)もすすめています。宿便を出して体内を浄化しようということです。だけど、食べる楽しみが奪われてしまいそうで、断食まではしたくありません。

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著者:乃南アサ、出版社:新潮文庫
 息もつかせぬ読み物です。女刑事の運命やいかに・・・。昔むかし見た、嵐寛寿朗が馬に乗って危機に陥った晋作少年を救いに来る場面を思い出します。映画館内は騒然として、大人も子どもも総立ちです。「早く、早く」と掛け声が飛び、「天狗、急げー」と言いながら拍手が鳴りやまない。私も手に汗を握り、息をのんでスクリーンを見つめました。
 女刑事が、つまらない相棒のやっかみから1人で足取り捜査しているうちに犯人たちに捕まり、人質にとられてしまいました。さあ、警察は面子にかけても同僚の刑事を救出しなければいけません。舞台は東京から熱海の温泉街に移ります。今や、熱海もさびれてしまって、閉鎖した高級旅館が犯人たちのアジトとなり、また女刑事のまた監禁場所でもあります。そこから、どうやって救出するか。
 読み手をぐいぐいひっぱっていきます。次の展開を知りたくてたまりません。私は、口答弁論の間際まで読みふけっていました・・・。

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道路の権力

著者:猪瀬直樹、出版社:文芸春秋
 高速道路の建設と道路公団民営化をめぐる攻防は、なにやらみっともなくゴタゴタしているという感じでした。この本は、道路公団民営化委員会の一員となった著者によるレポートです。したがって、著者の目からすべてが描かれていますので、果たして問題の本質が何であったのか、客観的には分からないところがあります。
 それでも、官僚の抵抗のすさまじさはよく描かれています。小泉首相が官僚の上に君臨して、超絶しているかのような印象を与えていますが、決してそんなことはないと思います。小泉首相も、官僚機構のなかで漂うひとりでしょう。
 官僚が強いのは、マスコミを操作できる力をもっていることにあります。逆に言うと、マスコミは官僚の言いなりに動いているといって過言ではありません。毎日毎日、官僚と接して、そこから情報をもらい、その意味づけをレクチャーしてもらうのですから、そのご機嫌をとらないわけにはいきません。
 民営化委員会が記者会見するときも、事務局主導、すなわち官僚の描くシナリオどおりにプレス発表がなされます。
 日本道路公団は、そのOB2500人が700社のファミリー企業に天下りしているそうです。パーキングエリアのレストランなども官僚の利権の対象のようです。高速道路に別納割引制度なるものがあることを初めて知りました。なんと30%もの割引があるというのです。誰がその適用をうけるのかというと、当然よく高速道路を利用する運輸業者です。これは分かります。ところが、なんと異業種組合という抜け道があるのです。つまり、異業種組合なるものに加盟さえすれば、30%もの割引がされるというのです。とんでもない話です。もちろん、この組合はサヤ抜きと称して10%ほど中間マージンをとります。それでも20%も安くなるのです。これを大々的にやったのが、今、道路公団から追われて係争中の藤井前総裁だというのです。道路族の闇の底知れぬ深さを感じさせられました。道路、とくに高速道路は不法な利権の対象そのものなのです。
 いま、我が家のすぐ近くに田んぼを埋め立ててバイパスがつくられつつあります。ホタルの出る小川もつぶされようとしています。本当にバイパスが必要なのか、この本を読むと、ますます疑ってしまいます。

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ブルゴーニュ地方の料理

著者:松本浩之、出版社:駿河台出版社
 日弁連の公害問題対策委員会のヨーロッパ視察でブルゴーニュ地方に出かけたのは、17年も前のこと。ブルゴーニュ地方のボーヌという小さな町の小さなホテルに泊まった。そのホテルのレストランは、あとで調べると星が2つついていた。さすがに美味しかったが、記憶としてはっきり残っているのは、料理よりも食前酒のキールだ。白ワインに黒すぐりの甘みが入って、ピンク色になる。まるでロゼ・ワインのようだ。口のなかがさっぱりし、次なる料理への期待をふくらませる。とはいっても、食べ過ぎたのか、時差ボケだったのか、夜中にお腹の調子が悪くなって目が覚め、トイレにかけこんだ。それでも、お腹がすっきりしたせいか、翌朝は何事もなく、ワイン街道をタクシーを連ねて走った。ワインの試飲をさせるカーブ(地下の穴蔵)にも入ってみた。いくらでも試飲はできるのだが、奥に行くほど美味しいワインがある仕掛けなのを知らず、初めの方で飲みすぎて、せっかくの美味しいワインを味わえなかったのは、今でも心残りだ。
 この本には、ロマネ・コンティのブドウ畑の写真も出ている。たしかに、こんなブドウ畑だった。ブドウの木がこんなに背が低いのかと驚いた覚えがある。
 ブルゴーニュ料理がレシピつきの写真で紹介されている。川魚のムース(クネル)は、リヨンで食べた。あっさりした味わいだった。ブレス産鶏も同じくリヨンで食べた。鶏も産地表示があるのに驚いたことを今もはっきり覚えている。
 ウサギは私はマルセイユの港のすぐそばの店で食べた。脂肪がきつくてあまり美味しいとは思えなかった。美食の町、ブルゴーニュにまた行ってみたい。

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大江戸日本橋絵巻

著者:浅野秀剛、出版社:講談社
 江戸時代の人々がどんな生活をしていたのかに関心をもっている人には必見の本です。なにしろ三越デパートの前身である三井越後屋から、コンビニの先祖様まで、お江戸・日本橋近辺の商店街と、そこを行きかう人々1700人が表情豊かに描かれているのです。全長12メートルという、すごい絵巻です。残念なことにドイツのベルリンに原図はあります。
 商店の様子を見ても面白いのですが、やはり、道行く人の表情に魅かれます。足の不自由な人も歩行器をつかって町を行きます。ひな祭りの飾り人形も道路中央で売られています。武士も商人も、往来ではのびのび歩いていて、身分の差を感じさせません。女性も子どもも、のびやかに歩き、まるでお祭りでもあっているようです。
 新聞号外を読みあげる男たちがいて、人々が輪になって聞きいっています。乞食も1人だけ描かれています。ケンカして拳(こぶし)を振り上げている男たちもいます。
 絵を見るだけでも楽しいのですが、詳しい解説がついていますから、江戸の様子がさらによく分かります。店には道路に張り出して看板がたっています。これは京都や大阪では禁じられていました。今も、東京ではネオンサインがすごく華やかですが、江戸時代からの伝統なんですね。でも、ヨーロッパに行くと、日本のように華やかな看板はなく、昔のままの都市景観が維持されていて、考えさせられます。
 ビジュアルに江戸情緒を味わえる本です。

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商売の原点

著者:鈴木敏文、出版社:講談社
 あとがきを読んで、おおーっとのけぞってしまいました。日頃、モノカキを自称する私にとって衝撃的なことが書かれていました。この本の著者はセブン・イレブンの鈴木敏文氏となっていますが、実際のライターは福岡出身の緒方知行氏です。その緒方氏は視力ゼロに近いので、鈴木氏の講演速記録を読みたいけれど読めない。そこで、大学生のアシスタントに速記録全文を読みあげ録音テープに収録してもらいました。これだけで、実に2年かかったそうです。120分もので80本のテープになりました。それを緒方氏が聞いて、(恐らく)口述し、アシスタントがパソコンに入力していきました。これに、また2年の歳月がかかっています。そうやってできあがったのが、『商売の創造』と、この本の2冊だというのです。さすが、モノカキの世界にも上には上がいると感嘆してしまいました。すごい執念です。
 鈴木氏は毎週毎回、休むことなくセブン・イレブンの最前線に立っているマネージャーに話をし続けてきました。この1300回もの会議の速記録のエッセンスが、2冊の本にぎっしり詰まっています。ですから、面白くないはずがありません。商売人に役立つものであると同時に、私たち弁護士にとっても大いに参考になります。たとえば、弁護士も大増員の時代を迎えていますが、その競争激化をどうとらえるかということです。鈴木氏は次のように語っています。
 当初は、人口2〜3万人に1店舗でないと、売り上げは上がらなかった。いまは人口が急増し、5000人以下でも十分にやっていける。3000人に1店舗でも成り立つ。コンビニ業界でも、競争相手、つまり仲間が増えることは歓迎すべきこと。問題は、そのなかで、どれだけ差別化できるか、ということ。競争するようになって売り上げが半分に減ったというのなら、競争がないとき、基本的なことを手抜きしていた。そこへ比較できる対象が出現したので手抜きがきわだって目立ち、売り上げを減少させてしまった。これが真相だ。
 セブン・イレブンの基本4原則は、品ぞろえ、鮮度管理、クリンリネス(清潔)、フレンドリーサービス。お客様が不要と思っている商品を押しるけるのではなく、提案された商品をお客様が買って、「ああ、買ってよかった」と思えるようなものを、コンビニ側で用意して、すすめていく。
 夏に桃をおいしく食べるには、食べる2〜3時間前に冷蔵庫に入れておくのがコツ。それより長く冷蔵庫に入れっぱなしにしておくと、甘みがどんどん抜けてしまう。
 お客はタンスの中が一杯だから、衣料品をもう買わないということは絶対にありえない。それまで持っているものとは違った、心が動かされるような新しいものを提供すれば、必ずそこに購買意欲が生まれてくる。
 いまの消費は、経済学の分野というより、完全に心理学の分野にある。おもにお客様の心のもち方によって価値決定される時代だ。たとえば、スーパーで羽毛布団を売るとき、1万8000円の商品と5万8000円の商品を並べておくと、5万8000円の方はあまり売れない。ところが、あいだの3万8000円の商品を置くと、5万8000円がよく売れるようになる。1万8000円と5万8000円とではあいだの差が開きすぎているので、どうしても安い方に目が向く。ところが3万8000円の商品をはさむと三者の比較がしやすくなる。お客様はこう考える。1万8000円と3万8000円とではここが違う。3万8000円と5万8000円とでは、ここが違う。だったら、ちょっとくらい高くても、5万8000円の方が買い得ではないか、と。これは、心理学で説明できるもので、経済学では説明できないこと。
 従業員やパートのための教育マニュアルとか教育のためのビデオというのは、まったく不要、有害。教育というのは画一的なマニュアルで示すことはできない。
 さすがと思わせる内容がぎっしり詰まった本です。

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エデンの彼方

著者:ヒュー・ブロディ、出版社:草思社
 26歳のイギリス青年が、カナダで日雇い労働者の住む町で生活した。2年後、こんどは北極地方でイヌイットとともに生活をはじめた。
 北極地方の自然は厳しい。冬はマイナス40度。まぶたが凍りついて開かなくなる。寒風にやられてあふれる涙が、たちまち氷結して上下のまぶたをとじあわせる。目の前が真っ暗になる。でも、手袋の甲で眼球を押さえればすぐに氷は解けるので、あわてることはない。
 イヌイット社会は平等で分けへだてのない社会なので、敬語や丁寧語は必要ない。地位や身分の違いを示す表現もない。また、悪態や罵詈雑言に類する言葉もない。
 イヌイットのような狩猟採集民は歴史、精神性、実用的な知識など、生活全般にわたって話し言葉が頼みである。それだけに話術はきわめて重要で、成人はすべて雄弁でなくてはならない。狩猟採集民は、情報であれ、食料であれ、持っているものを分かちあう。知識を共有する根本の必要は、すべての狩猟採集経済に通底する。情報の秘匿は重大な危険を招来する。
 狩猟採集民の平等主義と個人主義は間違いなく女性の地位を高めている。狩り場と漁場は母系が受け継ぎ、女性の首長をいただいている種族が少なくない。礼式にこだわらないのも、男女平等と、お互いを尊敬する精神の現れである。格式張らない狩猟採集民の慣習は男女平等の模範である。女性は夫の強権を恐れず、暴力に怯えることもない。
 狩猟採集民の天分は、すすんで他人から学び、他人(ひと)のために働くのをいとわないばかりではない。なにより彼らの文化を特徴づけているのは、資源とその利用の均衡、すなわち直観と詳細な知識から結論を引き出し、敬愛に結ばれた人間関係に身を委ねることである。
 農耕民の歴史は、狩猟採集民の歴史を圧殺してきた。この先、何百という狩猟採集民の言葉が消滅するのではないかと今危惧されている。人類にとって、その損失ははかりしれない。その言葉の喪失は、人間の可能性の幅を狭くする。狩猟採集民がいなければ、悲しいかな人類の存在価値は逓減する。狩猟採集民がいることで、我々は円満な全人たりうる。
 イヌイットは、エスキモーの大半をしめる民族である。過酷な大自然のなかでも豊かな人生を過ごしていることが紹介されている。そこには豊富なモノはない。しかし文明の器具がなくても心満ちた生活はありうることが、著書自らの体験を通して語られている。

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バンコク・ヒルトンという地獄

著者:サンドラ・グレゴリー、出版社:新潮社
 懲役25年の刑を受け、7年半をタイとイギリスの刑務所で過ごした若いイギリス女性の体験談が赤裸々に語られています。
 彼女は27歳のとき、麻薬(ヘロイン)の密輸、つまり運び屋になったのです。イギリスの中産階級の娘として育った彼女は、両親との折り合いが悪く、勝手気ままな生活をはじめ、タイにのがれてきました。そこで英語教師などをしていたのですが、ついに旅費にも事欠くようになり、麻薬ブローカーの甘いささやきに乗ってしまったのです。大量の麻薬を運んで死刑にならなかったのは、むしろ幸運でした。ラーット・ヤーオ刑務所での生活が始まります。
 刑務所内では闇屋が繁盛しています。ナイフもタバコも薬物も、何でも買えます。お金も借りられます。ただし、超高利です。1日5割なのです。
 ところで、タイとイギリスとの間には、受刑者移送条約があり、終身刑でなければ、タイで4年間服役したらイギリスに移されて残刑をつとめることができます。彼女は32歳になってまもなく、ロンドンのホロウェイ刑務所に移ることができました。
 ところが彼女は、まだタイの方が良かったと嘆くのです。新聞が読め、ラジオが聴け、電話もかけられるというのに・・・。タイでの環境は惨めであったが、少なくとも自分がまんざらでもない人間であるという感覚はあった。特別扱いされなかったし、差別もされなかった。ところが、イギリスには非常に切迫した孤立感と鬱屈感があった。気がつくとはじき出され、何の理由もないのに詮索されるように見えた。彼女は、ひたすら自殺することのみを考えました。
 イギリスの刑務所では職員と収監者の情事は日常茶飯事で、多くの囚人は見て見ぬふりをしている。彼女も妊娠を本気で心配したことがありました。
 2000年7月時点で、1293人のイギリス人が海外76ヶ国の刑務所に入っていました。大半は麻薬関連です。タイだけでも33人が刑務所に服役しています。お金に困った人々をターゲットとして、甘い言葉で麻薬の運び人にさせようとするのです。単身女性が身なりの整った魅力的な男性の麻薬密売人の標的になりやすいという彼女の指摘に、つい私は娘のことを心配してしまいました。

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一勝九敗

著者:柳井正、出版社:新潮社
 ユニクロの会長が失敗談を正直に語った本です。私とまったく同じ世代ですが、率直な語り口に好感をもって読みました。ユニクロは、3ヶ月内は返品自由、広告の品切れ防止、店の清潔・整頓などで商品の認知度を高めました。
 例のフリースは1200万枚売るのを目標にして、2600万枚売り上げたそうです。東レから原料を買い、インドネシアで糸にして、中国で織って染色・縫製した。数百万点つくることで低価格と高品質を可能にした、というのです。すごいスケールです。
 店長が40代がいいとか、スーパー店長の収入は年収3000万円とか、並みの発想ではありません。マニュアル人間ではだめだとも強調しています。
 23条の経営理念を紹介しています。もっと短かくできるのではないかという気が私もしますが、ユニクロ独自の理念を語るには、これが必要だといって、短かくはしないとのこと。何事によらず、自分の頭で考えることの大切さが強調されています。

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江戸の地図屋さん

著者:俵元昭、出版社:吉川弘文館
 『切絵図・現代図で歩く江戸東京散歩』(人文社)という本があります。1年間、ほとんど東京それも皇居周辺をウロウロしていましたので、江戸時代はどんな町並みだったのか興味があり、ときどき書棚から取りだしては眺めています。彦根藩井伊家の上屋敷がどこにあったのか、などが古い図面(切絵図といいます)と現代図で対比しながら説明があって、大変わかりやすい本です。
 この本によると、武家屋敷には表札や看板などがまったくなかったので(テレビの時代劇に表札があるのは視聴者の便宜のため)、不便でしょうがなかった。そこで、どこの大名なのか書きこんだ地図が売れたということです。
 江戸の地図は当初きわめて正確につくられていたけれど、250年かかって不正確なものへ変化していったそうです。見た人が分かりやすいように変わったということです。伊能忠敬をもち出すまでもなく、正確な図面をつくる能力は江戸時代にあったのです。でも、つかう人の便宜を考えて、絵図面いりの図面がつくられていきました。やっぱり、正確さより分かりやすさなのですね。

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獄中記・地獄篇

著者:ジェフリー・アーチャー、出版社:アーティストハウス
 ジェフリー・アーチャーはイギリスの有名な作家です。イギリスの政治家でもあり、サッチャー政権時代に保守党の副幹事長をつとめたこともあります。世界的なベストセラー作家ということですが、私は一冊も読んだことはありません。
 そのアーチャーが、2001年に4年の実刑判決を受けて2年間の刑期をつとめ、昨年7月に仮出獄しました。この本は、その入獄直後の状況を伝えたものです。一代貴族となったほどのアーチャーですから、処遇は恵まれていたと思いますが、それでも刑務所の受刑者となったことに変わりはありません。日本の刑務所との違いに目を開かされます。
 刑務所内には2台の公衆電話があり、受刑者はテレホンカードで外部と自由に電話で話ができる。面会のとき、抱きあったり、キスしたりできる。ただし、ビデオにとられている。受刑者がぶちのめされるのはシャワー室。1度に4人しか入れず、大きな音をたてても怪しまれない。だから、受刑者のなかには1年もシャワーをあびない者がいる。
 アーチャーは、獄中でも1日6時間の執筆タイムをとり続けました。1回は2時間ずつに限っているそうです。イギリスの刑務所では、日本の刑務所より格段の自由が保証されていることがよく分かる本です。

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あきらめの壁をぶち破った人々

著者:中尾英司、出版社:日本経済新聞社
 実用企業小説と銘うたれています。大企業における業務改革プロジェクトをたちあげ、様々な困難と障害を乗りこえていく様子が描かれています。小説ですから、フィクションが多分に入っているのでしょうが、実話を元にしているというだけに、生々しくもあり、教訓も引き出しやすく整理されています。なにより、会社に勤めたことのない私にも、企業内の業務改革がいかに困難なものか、よくよく想像できる本でした。
 最後のあたりに、メルマガを活用して情報伝達したという話が出てきます。私も日刊メルマガを1年間続け、大きな手ごたえを感じた経験がありますので、その点は大いに共感しながら読みました。

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誰か

著者:宮部みゆき、出版社:実業之日本社
 自転車にはねられて1人の中年男性が死亡した。殺されたのか・・・。中年男性の過去を探っていくと、意外な過去が浮かびあがっていく。そして、残された姉妹の微妙な葛藤は何を意味するのか・・・。
 宮部みゆきの現代ミステリーです。何気ない会話が緊迫感をもって迫ってくる筆力には、いつも感心させられます。でも、正直言って、今回は、少しばかり、あれっと思いました。少々肩すかしを食ったという気がしたということです。

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動機

著者:横山秀夫、出版社:文春文庫
 大雪の日、大分出張の帰りに大分駅で買いました。雪で列車に閉じこめられそうな予感がしたからです。案の定、夜7時に出て、本来なら2時間で博多駅に着くはずのところ、なんと5時間かかってしまいました。夜中の博多駅では、多勢のホームレスの人々が段ボールに囲まれて寝ようとしているところでした。
 『半落ち』『クライマーズ・ハイ』など、横山秀夫のミステリーは読ませます。警察署内部の人間模様を描く「動機」、地方新聞社の女性記者の揺れ動く心理状況をテーマとした「ネタ元」など、ストーリーも情景描写もなかなかのものです。ぐいぐい引きつけられ、列車のなかに缶詰めにされていることを一瞬忘れることができました。
 この日の夕食は、缶酎ハイとチクワ一本のみでした。我ながら、すごいダイエット食です。やはり、人生では思わぬ事態に遭遇するものです。

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人生後半戦のポートフォリオ

著者:水木楊、出版社:文春新書
 主婦が家事につかう時間は、この40年間で2時間以上も減ったそうです。全自動洗濯機や冷凍冷蔵庫、電子レンジなどの普及によります。その代わり、主婦は文化的な活動に進出しています。私もあちこちのカルチャーセンターなどに呼ばれて講師をすることが多いのですが、受講生は圧倒的に女性です。男性はいったい何をしているのでしょうか。
 ところが、夫の方の忙しさは変わりません。むしろ、前よりひどくなっているようです。1979年当時、夜8時までに帰宅する夫は39%でした。ところが2003年には、28%と、10%以上も減っているのです。
 この本には、ローマの哲学者セネカの言葉が紹介されています。人々は時間をタダ同然に惜しみなく使う。髪が白いとか、皺が寄っているからといって、その人が長く生きたことにはならない。それは単に長くあったというのにすぎない。長く航海したというより、長く翻弄されただけのこと。
 「自分時間」と「他人時間」という分類が紹介されています。「他人時間」とは、他人に自分の行動を制約されている時間のこと。「自分時間」が貴重なものであることを実感するための時給の算出方法も紹介されています。要するに年収を2000で割るという、きわめてシンプルなものです。それによると、私は時給2万円ほどになります。時間は有限であり、代替性もなくとても貴重な存在であることを、このように金額で表示するというのは、時間管理のために役立つ発想だと思いました。

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百姓一揆の伝統

著者:林基、出版社:新評論
 50年近く前の本がオン・デ・マンド方式でよみがえりました。百姓一揆なるものが、いかに組織的かつ計画的なものであったか、目を見開かされます。しかも、江戸時代の農民には読み書きが、かなり普及していました。
 代官所に一通の願書が届いた。なかには一、二、三、四、五、六、七、八、九、十そして三としか書いてない。どういうことかと訊くと、「一つ一つ申しあげます。二は苦々しく三年このかた、しじょうなききんで、五穀も、碌々みのらず、質におくやら、恥をかくやら、食はずに苦しむ、十ヶ村の難儀」という。ではそのあとの三は何かと続けて訊くと、「願人横川三蔵」と答えたというエピソードが紹介されています(川越地方昔話集)。
 久留米藩の20万人百姓大一揆についても触れられています。福岡県史資料にあるようです。自衛隊のイラク派遣など、平和憲法をふみにじる小泉政権の横暴を許さないため、ぜひ、この大一揆を今によみがえらせたいものです。

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歌舞伎町ドリーム

著者:世川行介、出版社:新潮社
 2002年末の時点で、日本にいるオーバーステイは22万人ほど。男女半々。一番多いのが韓国人で4万9000人。次にフィリピン人と中国人で、それぞれ3万人。
 ホスト稼業でナンバーワンをしていた男性の告白に心が揺さぶられました。
 ボクはホスト生活の中で、いや、それ以前から、肉体というものをナメてかかっていた。セックスなんて、なんぼのもんや、みたいに・・・。だけど、大間違いだった。人間にとって肉体ってものは、かけがえのない大切なものだった。ボクは、ナメた肉体に思いっきり復讐されてしまった。女を愛するといっても、何百人もの男たちにお金で抱かれた女の肉体を愛するってのは、口で言うほど簡単にはいかない。あれは無限地獄の世界なんだ。
 新宿歌舞伎町にうごめくヤクザや水商売の女性たちのホンネが語られています。まるでアナザーワールドのようですが、日本社会の現実がここにあると思うと、ゾクゾクッと身震いしてしまいました。

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3分以内に話はまとめなさい

著者:高井伸夫、出版社:かんき出版
 3分間でスピーチを頼まれることが、たまにあります。でも、さすがに1分間スピーチを20人ほどの国会議員を前でするように頼まれたときには緊張しました。このときには、話の要点のみをメモにして、原稿なしで本番にのぞみました。あとで「さっきは良かったよ」とお世辞を言ってくれる人がいてホッとしたものです。
 筆者は前もって原稿をつくらないそうですが、私は原則として原稿をつくります。もちろん、要点のみのときも多いのですが・・・。
 話し上手になるには、まず聞き上手になること。断定的口調、攻撃的口調を改め、ソフトな話し方に徹する。相手の心に残るためには、出だしをゆっくり話し始める。上手に話をするためには、映像による記憶収録と再生の訓練をするのがよい。
 役に立ち、考えさせられる本でした。

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森に生きる人

著者:寺嶋秀明、出版社:小峰書店
 コンゴ民主共和国の北側の大森林に住むピグミーの生活を伝える本です。
 ピグミーの人口は全部あわせても20万人。ピグミーは、体が小さく、肌の色は淡い黒色。丸顔で、くりくりした目をしていて、手足がちょっと短い。狩猟と採集の生活です。たとえばゾウをしとめたときには、人々は鍋とナイフだけをもって殺されたゾウのいるところまで引っ越していきます。そこでキャンプをつくって、1週間以上も祝宴を催すのです。
 ピグミーは森の蜂蜜とヤムイモさえあれば、それだけで生きていけます。植物性の食物は必要なだけ食べる。肉は食べられるだけ食べる。肉はおかずだけでなく、心も満たしてくれる。ピグミーたちは明日のことは心配しない。必要以上にとったり、貯めたりしないので、余分に働く必要もない。だから余暇もたっぷりある。たいてい、食物集めには、半日も働いたら、それで十分。
 食物を分かちあうこと、権力者をつくらないことが、狩猟採集民のキャンプ生活でもっとも大切なことであり、みんなが仲良く暮らすための秘訣になっている。ピグミーにとって財産とは、背中のカゴに全部入ってしまうほどのものでしかない。
 ピグミーは、目印のない森の中でもぜったい迷わない。方向感覚がすぐれている。ただし、夜には、それもあたらない。アフリカの熱帯雨林で心おだやかに毎日を暮らしているピグミーには、私たちも学ぶところ大のようです。

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めざせロースクール、めざせ弁護士

著者:宮澤節生、出版社:阪急コミュニケーションズ
 私が受けた30年前の司法試験受験生は2万人でした。うち500人が合格。2003年は出願者が5万人をこえました。2002年の受験者は4万1459人。合格者は1183人です。今年の合格者は1500人ですから、私のときの3倍です。それでも、5万人の受験生ですから、合格率はともかくとして、実質的には昔より難しくなっていると思います。受験者が多いということは、それだけ優秀な人が受けるようになったことを意味しているからです。
 金もうけがしたかったら弁護士はやるべきでない。有名な久保利英明弁護士がこう言っています。日本有数の高額所得者である弁護士が言うのですから、間違いありません。私もそう思います。ビジネスと割り切る人にとって、弁護士は手間ヒマのみを考えたら決して割のある仕事ではないのです。
 この本には、ニューヨークにある500億円もする高層ビルの売買や1機200億円のジャンボジェット機のリースを扱う弁護士の話も出てきます。九州の片田舎で仕事をしている私のような弁護士にとってはまるで別世界の話です。でも、そんな巨額の事件を扱わなくても、人それぞれです。やり甲斐のある事件は片田舎にもたくさんあります。私は、地道に人権と民主主義を大切にする弁護士として活動していくつもりです。

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フセイン・イラク政権の支配構造

著者:酒井啓子、出版社:岩波書店
 アメリカ軍によってアッという間に見事に瓦解させられたフセイン政権の実体を歴史を追って丹念に探っていった本です。いろいろ学ばされました。
 サダム・フセインがイラクのクーデター(1968年)で革命指導評議会(RCC)の副議長になったのは32歳のとき。それ以来35年間もイラクを支配し続けたわけです。
 イラクでは内閣の占める政治的意味はそれほど大きくなかった。重要な政治決定は大統領やバース党の幹部によってなされていた。
 人口の7割以上を占めるシーア派が疎外されていたのは、オスマン帝国がスンニー派を国教としていたことに起因する。軍におけるスンニー派三角地帯からの登用は、いわば王政期以来の伝統である。スンニー派三角地帯の出身者は軍への登用を通じて政治進出を強めていったのである。
 フセイン政権下では、地方行政関係(とりわけ南部と北部)の職歴をもつ人間と、大統領と個人的にパトロン・クライアント的な関係を取り結んだ人物の登用が増えた。
 イラク国民議会の選挙権は18歳以上の成年男女であるが、立候補は25歳以上となっている。しかも、立候補資格として、1968年革命への支持に加えて、読み書き可能およびイラン・イラク戦争の意義を確信することが求められている。そのうえ、立候補者のプロフィールとして、本人、祖父という人の名前とともに一族名(ラカブ)を記載することになっている(その前はラカブの使用は禁止されていた)。
 現代イラクの社会構造の特徴のひとつは、人口の多くが都市に集中していること。総人口の70%以上が都市部に集中している。たとえば、バクダットは、19世紀の前半にはわずか人口2万7000人でしかなかった。1947年に人口50万人だった。ところが1977年には260万人。それが1992年に400万人、今では500万人と言われている。この3分の1はシーア派とみられている。
 バース党は、国家と個人の中間にある「社会」を解体し、既存の共同体を国家や党の支配機構と入れ替えようと試みた。しかし、実際には、党や国家はそうした代替物を社会に布置することに成功したわけではない。党の大衆組織や末端組織は、既存の共同体の崩壊から放出された「個化」された個人を吸収することができなかった。そこで重要となったのが、フセインと「個化」された個人との間に直接結ばれる関係性である。「大統領の朋友」という制度が1984年に始まった。対イラン戦争に貢献し、武勲賞を3回以上得た国民に対して称号を与え、進学や昇進などで特権を付与する。いわば権力と富の源泉であるフセインという存在にいかに直接アクセスできるかという点に力点をおいて、社会ネットワークの再編が図られた。バース党政権は、イスラムや部族紐帯にもとづく伝統的社会意識の形骸を、国家統治の一部に取りこみ、フセインを核においた忠誠ネットワークを補完するために利用していった。
 サマーワに自衛隊が基地をつくっていますが、頼りにしている部族にどれだけの力が本当にあるのか。もしあるとして、それは法外な金銭的要求をもたらすものではないかとの指摘がなされています。果たして日本政府はイラクの地方における支配構造の実体をどれほど把握しているのでしょうか・・・。私は、大いに心配です。

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空っ風

著者:諸岡玲子、出版社:講談社文庫
 浪曲の世界を読みものにした雰囲気なんですが、時代についていけない小政の心情を心憎いばかりに描いていますから、また一味ちがう印象も受けます。
 子どものころ、ラジオから流れてくる広沢虎造の浪曲を聴いていました。清水の次郎長親分の話もあったように思いますが、それは湿っぽいムードの話ではなく、江戸っ子のカラっとした雰囲気で語られていたように思います。
 清水次郎長一家の大政・小政といえば知らない人はいません(いえ、今どきの若い人の大半は知らないのでしょうか・・・?)。その小政が次郎長親分にいわば拾われ、ヤクザに身を投じたものの、江戸から明治へ変わろうとする時代の波に抵抗感があり、流れに乗ってお上(おかみ)の下でヤクザ稼業から市中取締りへ華麗なる転身を遂げようとする次郎長を逆恨みしていく状況が刻明に描かれています。まるで小政本人の聞き語りを読んでいるかのような筆力に感嘆させられました。

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民主帝国アメリカの実像に迫る

著:毎日新聞取材班、出版社:毎日新聞社
 日本はいつまでもアメリカの言いなりでいて、本当にいいのでしょうか?
 アメリカの実像について、この本はさまざまなデータをあげています。ユダヤ系市民はアメリカの総人口の2〜3%にすぎないが、アメリカの政治に大きな影響力をもっている。
 アメリカの知識人やリベラル派がイラク戦争に沈黙したのは、自分の地位が危うくなるのではないか、個人攻撃を受けるのではないかと、反動を恐れて自己規制したから。
 アフガニスタンのカルザイ大統領の護衛は、現在、国務省から委託を受けた民間軍事企業(PMC)がアメリカ軍の特殊部隊「デルタフォース」の元隊員を雇って任務にあたらせている。PMC業界の市場規模は現在1000億ドルで、2010年には2020億ドルにまで倍増する見込み。
 アメリカ軍の優越性の絶対化を目ざし、アメリカは1時間あたり52億円を軍事費につぎこみ、1世帯あたり年間軍事費負担は45万円。世界の総軍事費の3分の1を占める。 アメリカのホームレス人口の3分の1(25万人)を元軍人が占めている。ホームレスの収容施設の平均年齢は45歳で、人種としては黒人、そして陸軍出身者が圧倒的に多い。PTSDや薬物常用が背景にある。
 60年代のアメリカでビジネス化した政治コンサルタントは当初100人程度だったが、今や1万人をこえる。売れっ子は何億円もの年収を稼ぎ、一大産業となった。
 アメリカの大学に世界から集まる留学生は、1991年に42万人。10年間に38%も増えて、2001年度は58万人になった。
 アメリカの破産者は1年で153万人(2002年度)。
 アメリカが敵として戦った相手は、すべて、かつてはアメリカの友人だった。
 いやー、本当にひどいものです。これがアメリカ流民主主義の現実です。日本人も顔を洗って目をさますべきではないでしょうか・・・。

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宇宙96%の謎

著者:佐藤勝彦、出版社:実業之日本社
 最新宇宙学が平易な語り言葉でビジュアルに紹介されています。なんとなく分かった気分になりました。もちろん、本当のところが理解できたはずもありません。
 月が地球を回るのは、お互いの間に万有引力が働いて、「引き合う力」と月がぐるぐる回ることによって生じる遠心力がうまく釣りあっているから。だから、月は遠くに飛んでいかないし、地球に落ちてこない。これがニュートンの古典力学の説明。ところが、アインシュタインの相対論によると、大きな質量をもった地球があることによって、地球のまわりの空間がゆがめられ、その空間の曲がりに沿って月がすすむので、月は地球のまわりを回っていると説明する。うーん、どういうことなんだろう・・・。
 現代の宇宙には「真空のエネルギー」が満ちており、それに働く斥力によって、宇宙には、加速度的に膨張している。真空は、量子論的真空では、電子と電子の反物質である陽電子がペアでポッと生まれては、また消えてしまう、対生成と対消滅をくり返す、激しくゆらいでいる状態なのだ。真空とは何もないのではなく、物質がもっともない状態、エネルギーが最小の状態なのである。
 宇宙空間にある暗黒物質(ダークマター)の量は26%、普通の物質と量をつくっている物質は4%、残り70%はダークエネルギーとなっている。では、ダークマターとかダークエネルギーの正体は何か?
 このあたりになると、さっぱり理解不能となってしまいます。それでも、たまには、こんな気宇壮大なことも考えて、日頃の対依頼者との悩みが、いかにちっぽけなものかに思いを至し、ウサを晴らしてみたいものです。

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日本の神々

著者:上田正昭、出版社:大和書房
 『先代旧事本紀』(せんだいくじほんぎ)の復権というサブタイトルがついています。つまり、偽書とされていた『先代旧事本紀』の資料的価値は高いとして、その見直しを求めた本です。たしかに序文は史実にあわず、信用できないが、本文の方は物部氏の歴史などの史実を反映しているとしています。
 「古事記」と「日本書紀」のつくられたのはわずか8年の違いしかないが、両者はまったく目的を異にしている。「古事記」は太安万侶が1人で書いたけれど、「日本書紀」の方は、当時の王族や官僚が委員会のようなものをつくって大勢で書いたもので、中国・朝鮮からの渡来人の筆も加わっている。しかも、「日本書紀」については、輪読会が平安時代だけでも6回なされるほど、影響力は絶大だった。
 天皇の三種の神器といっても、剣とハンコは御神体扱いはされておらず、御鏡のみが祀りの対象とされている。物部神社は全国的にあるが、その場所を見ると、ヤマト朝廷が地方を平定しに行くとき、剣をもった物部氏が行って武の神さまを祀り始め
る。いわば、物部神社は前進基地のようになっていた。
 聖徳太子が随の煬帝に出した手紙について、日本を「日出ずる処」と称して、中国を「日没する処」としたから怒ったとされているが、実はそうではなく、煬帝は東夷の王が「天子」と称したことに怒ったのだ。「日没する」ことを中国がいやがったとは考えられない。
 古代史もまだまだ解明されていないことは多いようです。

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大江戸復元図鑑(庶民編)

著者:笹間良彦、出版社:遊子館
 江戸時代の見直しがブームとして長く続いています。私も江戸時代についての本は小説をふくめてかなり読みました。この本の良さは左側のページに絵があって、具体的イメージを描けることです。江戸時代の庶民の生活について、知識を広げることができます。たとえば、質屋は「ななつ屋」とも呼び、質物価格評価の3分の1が質屋の利益、3分の2が質置主の取り分。質置期間は、江戸で8ヶ月なのに、大阪はわずか3ヶ月が標準。利息は年5割ほど。
 藤沢周平とか、江戸ものの小説を読むうえで、江戸風景を知る絶好の手引き書です。

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