弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年2月 1日

呪医の末裔

著者:松田素二、出版社:講談社
 ケニアにある一族4代の生きざまを日本人の学者が丹念に追って紹介した本です。アフリカの社会の内側をのぞき見した思いがしました。
 アフリカ大陸は今、深刻な危機にあります。たとえばHIVです。2850万人がHIVウイルスに感染し、これまでに1100万人のエイズ孤児が生まれ、今後20年間のエイズによる死者は5500万人と予測されています。ボツワナでは全人口の40%がPWH(HIVとともに生きる人)だというのです。ケニアでも220万人が感染しており、これは全国民の9人に1人の割合です。
 ケニアのアフリカ人は定住民というより、漂泊の民でした。結婚するにしても、マーケットや水場の近くで若い男が女性を見つけて、すぐ一緒に生活をはじめることが珍しくない。女性の両親からすると、あるとき市場に出かけた娘が突然に行方不明になるわけですが、大騒ぎはしません。村の日常生活において、それは「結婚」の可能性がもっとも高いからです。そのうえで、婚資の交渉が双方の一族のあいだで始まります。たとえば牛10頭の一括払いで話がまとまります。
 白人のもとでサーバントとして働くことがあります。そのときの考えは、白人の世界とアフリカ人の世界はまったく別物で、無効の世界はワシたちの世界ではない。だから、そこで何が起こっても、ワシたちの世界には関係のないこと。そう思っているからこそ、長く勤めることもできる。同じ世界に生きていると思えば腹もたつ。しかし、都市化がすすむなかで、社会が停滞し、後退していった。ぎりぎりの生活をしている者同士での寛容の心をもてなくなってしまった。
 身内が死んでお葬式をしたり遺体を引きとるについても、金銭のトラブルから、いがみあうようなことまで起きているのです。こんなことは昔はとても考えられなかったことです。ケニアの大草原でライオンを見てみたいと思いますが、都会のジャングルはもっと怖いところだとしみじみ思いました。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー