弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年2月 1日

モスクワ劇場占拠事件

著者:タチアーノ・ポポーヴァ、出版社:小学館
 モスクワ市内の中心部にある満席のミュージカル劇場がチェチェン武装勢力に襲われたのは2002年10月23日夜9時過ぎのこと。53人の武装勢力が912人の観客や俳優を人質として劇場(国営ボールベアリング工場文化宮殿、ドゥブロフカ劇場センター)を占拠し、2日たった26日早朝4時半に特殊ガスが注入され特殊部隊が強行突入した。その結果、武装勢力は50人が殺害され、3人が逮捕された。人質は130人が死亡。うち125人は銃撃戦ではなく、特殊ガスで死亡した。舌の落ち込み、急性中毒、心脈不全、呼吸不全、高血圧クリーゼ、アナフィラキシーショックによるもの。特殊ガスの成分は公表されておらず、現場には解毒剤は手配されていなかった。
 ロシア政府は死亡した人質1人に10万ルーブル(37万円)、生き残った元人質に5万ルーブルの見舞金を支払ったのみ。そこで、被害者や遺族は政府を相手に120件もの訴訟を提起しているという。
 この本は劇場占拠から強行突入までを報道と手記で刻明に再現している。ただし、政府当局のインサイド情報がないため、少し物足りない。殺された武装勢力50人のうち、女性が18人もいた。ほとんどが肉親をロシア軍から殺された20代の若い女性。これらの女性は「全員が大変頑強な鉄のような神経を持っていた。休むことなく、常に自分の持ち場であるホールにいた。彼女たちからは凄まじいばかりの憎悪が滲み出ていた」という。
 日本でも、いつこのように大規模なテロ事件が起きないとも限らない。しかし、その対策として警備を強化するだけでは本当の意味の防止策にはなりえないように思う。やはり「凄まじいまでの憎悪」を生み出すようなことのないようにするのが先決だ。

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