弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年12月 1日

55歳から楽しむ人生、楽しめない人生

著者:石川恭三、出版社:三笠書房
 この12月、ついに55歳になりました。弁護士になって30年を過ぎ、本当に月日のたつのは早いものです。同世代の人たちが定年後の心配を早くからしていたのを他人事(ひとごと)のように聞いてきましたが、私も、この本のとおり、これからの人生のあり方を考えるべき年齢(とし)にはなりました。苦しいこと、辛いこと、自分が嫌なこと、人が嫌がることは、やりたくないし、しないようにする。「和顔愛語」、人に対しては和やかな顔と優しい言葉で接せよ、これを基本姿勢とする。
 本からの情報は、自分の意志で読むという能動的な行為があって初めて手にすることができるもの。読書する人がアルツハイマー病になりにくいのは、活字から伝わってくる刺激が脳を活性化させるから。好奇心は精神のバネの強さを表すバロメーター。心理的な老けこみの徴候は好奇心が薄くなること。
 60代後半になった著者は具体的な提案もいくつかしています。私もそのうちいくつかは実践しています。週1回の水泳、ガーデニング、月1回のハイキングそして大量の読書などです。自分史を書くのは早すぎると思っていますが、小説には挑戦中です。そこには創造の喜びがあります。いつまでも若いと言われてきましたが、そうは言っても、頭髪に白いものが目立ってきました。若さを保って健康であり続けたいものです。

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隠された証言

著者:藤田日出男、出版社:新潮社
 1985年8月12日に起きた日光23便墜落事故について、改めて疑問を投げかけた本です。
 2つ問題があります。1つは、墜落直後は助かった4人以外にも何人もの生存者がいたのに、16時間も放置されてしまったのです。夜明け前に墜落現場に救援隊員を降下させることも可能だったのに、それもなされていない。これらはアメリカ軍と自衛隊の作為的な妨害工作をたしかに推測させます。
 もう1つは、後部の隔壁が破壊したため垂直尾翼が吹き飛んだという事故原因が本当かという点です。客室乗務員の落合さんの証言は、それに矛盾することが明らかにされています。しかも、垂直尾翼の大半が海中に落下しているのに、それを引き上げることが早々と断念され、決定的な証拠が見つからないことになってしまっています。あの18年前の大事故の教訓がいま本当に生かされているのか、改めて心配になってくる本です。
 飛行機に何百万人もの日本人が乗っているわけですから、政府は疑惑にこたえ、真相を究明して国民に公表すべきだと思います。

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コミンテルン史

著者:ケヴィン・マクダーマット、出版社:大月書店
 社会ファシズム論というのがあった。戦前、ドイツ・ナチズムより社会民主主義の方が先に撲滅すべき主要な敵だというもの。今になって思えば、そんな間違った理論が横行していたなんて信じられないが、スターリンが裏からしっかり支えていた。しかし、それにしても、なぜ、そんな誤りがヨーロッパの左翼でまかり通ったのか。この本は、その点を解明している。
 ドイツ共産党はコミンテルンのなかで2番目に大きな党であったが、圧倒的に失業者の党だった。大企業には、ほとんど共産党員がいなかった。社会民主党員は年輩の労働者で、共産党員である若い労働者の解雇を見て見ぬふりをしていた。そして職のない共産党員の未熟練労働者は都市の日の当たらない一隅に閉じこめられていた。職のある社会民主党員の熟練労働者が裕福な建物や地区に住んでいたのと対照的だった。2番目に重要なことは、大不況に襲われ、失業者が600万人をこえ、労働者階級の団結の最後の名残が消えうせたこと。第3に、スターリンがソヴィエトを存続させるためにナチスと闇取引をしたことである。
 ディミトロフの反ファシズム人民統一戦線の提唱は、スターリンの責任が問われないことが条件として許された。スターリンは国際共産主義運動を軽蔑し、コミンテルンと各国共産党はイデオロギー的にも政治的にもスターリンの指導するソ連国家の単なる付属物であった。
 1943年6月、コミンテルンは解散した。しかし、実のところ、99、100、205という番号のついた「特殊研究所」が3つあり、これらのスタッフが同じ建物で、同じような仕事をしていた。スターリンは、とくに中欧・東欧のやがて解放される国々への支配を目論んでいた。コミンテルンと各国支部の多くは、経済的にソヴィエト共産党中央委員会とソ連国家に依存していた。ソ連共産党もコミンテルンも今はない。しかし、解明されるべき歴史は今なお多く残されていることを思い知らされる本だ。

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健康帝国ナチス

著者:ロバート・N・プロクター、出版社:草思社
 ヒトラーは菜食主義者で、酒もタバコもたしなまず、同席の者にもそれを許さなかった(ただし、ヒトラーは大変な甘党で、1日にチョコレートを1キロも食べた。また、イセエビ、ロブスター、カニを異常なほど好んだ)。ナチス時代、ガン撲滅運動が盛んで、そのプロパガンダの中心は「早期発見」だった。とくに女性のガン検診を促す運動は何倍にも強化された。ガンの精密検査を受けた女性は何十万人にものぼった。ガン患者登録所も設立された。栄養摂取は個人の問題ではない。ドイツ国民の肉体はドイツ国家の資産なのだ。国家はすなわち総統と同一なのだから、当然、国民の身体は総統に属する。「おまえの身体は総統のもの」というのが、ナチスの宣伝ポスターのスローガンだった。ナチスは合成着色料・合成保存料を使わない自然食をすすめた。脂肪が少なく繊維質の多い物を食べ、コーヒー、アルコール、タバコのような刺激物をできるだけ控える。肉類は最低限にし、保存料の入った缶詰より、できるだけ生鮮食料品をとるようにすすめた。1993年のはじめ、ナチスはアルコール撲滅作戦を始めた。「国民労働の日」が設立されたが、アルコール抜きの日とされた。ナチスの反アルコール運動は交通事故防止も目的としていた。1930年代のドイツでは、年間の交通事故が25万件をこえ、死亡事故1万件だった。その大きな原因がアルコールだった。ナチスの意外な側面を識った思いだ。

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日本の阿片王

著者:倉橋正直、出版社:共栄書房
 戦前、ケシの栽培と普及に一生をかけ、日本だけでなく、中国・台湾・朝鮮にまで渡って指導していた1人の日本人がいた。その名を二反長音藏(にたんちょう・おとぞう)という。この本は、日中戦争と阿片の関係を見事に解明している。
 100万の大軍を8年もの間、中国大陸に派遣し続けることは、日本の歴史はじまって以来の未曾有の大事業であった。それに要する費用は、当然、莫大なものとなり、日本にとって予想外の負担であった。日中戦争の本質は、まさに「片手に剣、片手に阿片」による侵略戦争であった。阿片政策がなければ、8年もの長期間、100万の大軍を中国大陸に派遣し続けることなどとうてい不可能であった。すなわち、日中戦争を裏方の財政面で支えていたのは阿片政策であった。阿片を吸うという中国民族の弱点に食らいつき、骨までしゃぶり尽くす。これが日本の阿片政策の真髄だった。1930年代、日本は、モルヒネ・ヘロイン・コカインの生産では、ダントツの世界第一位だった。世の中、本当に知らないことだらけですね・・・。

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オランウータンの不思議社会

著者:鈴木晃、出版社:岩波ジュニア新書
 オランウータンはボルネオとスマトラにしかいない大型類人猿です。オランウータンとは、マレー語で「オラン」がヒヒ、「フタン」が森の意味ですから、「森のヒト」ということです。ですから、オランウータンは決して「一匹」などと呼ぶべきではありません。一頭、いや一人と呼ぶべき存在です。今や、絶滅に瀕していますが、それも人間、とくに日本人のせいなのは残念です。
 オランウータンは密林のなかで単独生活することを基本としていますが、孤立して生活しているわけではありません。オスとメスは森のなかに「デート・スポット」というべき出会いの場があり、交尾し、繁殖します。その交尾は、ほとんどお腹とお腹をつきあわせた前向きの姿勢(いわゆる正常位)、メスの方があお向けに寝ころんですることが多いそうです。チンパンジーの交尾時間が2〜3分、ゴリラが数分から長くて8分間というのに、オランウータンは25〜40分間、長いと1時間に及ぶものもあります。
 オランウータンの子育ては実に愛情たっぷりで、6〜8歳まで母親が子どもの面倒をみます。それまでに、どの樹種から、どうやって食物を手に入れるのか、母親から学ぶのです。ですから、母親と一緒に育っていないオランウータンの孤児を、いきなり森に戻してやっても、その子は森で生きていくことができません。ボルネオ島の熱帯雨林を守るのは、それを破壊し続けてきた日本人の責任だとつくづく思いました。

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雑草博士入門

著者:岩瀬徹、出版社:全国農村教育協会
 花や野菜を育てるときの敵は、日照りとあわせて、雑草です。とくに夏の雑草取りは大変です。でも、この本を読むと、雑草も可愛いらしい花を咲かせていることが分かります。
 たくましさが違います。踏まれても叩かれても、どんなにしても生き延びようとする雑草には感嘆するしかありません。そういえば、大牟田出身の労働者作曲家である荒木栄には「雑草(あらぐさ)の歌」という傑作がありました。
 コニシキソウ、スズメノカタビラ、メヒシバ、ホトケノザ、コハコベ、オオバコ、タンポポ、カヤツリグサ・・・。たくさんの雑草がわが家の庭にもたくましく育っています。

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王朝びとの恋

著者:西村亨、出版社:大修館書店
 源氏物語をベースにして平安朝の貴族の人々の恋愛や結婚などを取りあげた本です。でも、私がこの本を読んでもっとも驚いたのは、実は「おてもやん」でした。
 おてもやん あんたこの頃 嫁入りしたではないかいな 嫁入りしたこたしたばってん 御亭どんが菊石平だるけん まあだ盃やせんだった 村役鳶役肝入りどん あん人たちのおらすけんで あとはどうなときゃあなろたい
 もちろん、よく知ったセリフです。この菊石平(ぐじゃっぺ)とは、「あばた」を意味します。そして、「おてもやん」とは、つくね芋を意味する手芋のことだそうです。「春日南瓜(ぼうふら)どん」とか「げんぱく茄子(なすび)のいがいがどん」というのと同じように、野菜の世界を歌っているのです。なるほど、そうなのか、と手をうってしまいました。ヨバイは、好色な卑猥なものという理解があるが正しくないとも指摘されています。なんのやましさもないヨバイがあり、公然たる社会生活の一端だったのです。たとえば、飛騨の白川村では結婚を認められるのは長男だけ。どこの家でも、家の娘が生んだ子どもはいるが、息子たちの子は他家で育っていました。女ヨバイもあったといいます。
 末摘花は大変な醜女だったので、光源氏は、興ざめして近寄らなくなった。でも、彼女が飢え死にする寸前、光源氏が再会して救ってやった。源氏物語に、そんなストーリーがあったことを改めて認識しました。
 相見ての後の心に比ぶれば 昔はものを思はざりけり  (拾遣集)
 見ずもあらず 見もせぬ人の恋しくは  あやなくけふや ながめ暮らさむ (在原業平)

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評伝・岡潔

著者:高瀬正仁、出版社:海鳥社
 日本の近代数学の第一人者・岡潔の生い立ちからフィールドワークで綿密にたどった大著です。542頁もあって、難しい数学の話もありますので、そのあたりはいつものように適当に飛ばし読みしました。
 岡潔は、私が中学2年生のころ、『春宵十話』というエッセイ集を出して人気を集めました。私がその本を読んだのは中学3年生か高校1年生のころでした。分かりやすくて、眼を開かせる文章だったので、とても感心したことを今もよく覚えています。対談集『人間の建設』は高校2年生のときに読み、これまた感激しました。天才数学者ですが、狂気に走ったこともあることを、この本で初めて知りました。岡潔35歳、広島大学の助教授のとき、「発狂して強盗事件を起こして」脳病院に収容されたのです。あんまり根をつめて考えると気が狂うこともあるのでしょう。
 岡潔といっても、50歳以下の人にはあまりなじみがないことでしょうが、先の2冊を読んで感銘を受けた人には天才の生きざまを知る手がかりとなる本です。

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ガクモンの壁

著者:養老孟子、出版社:日経ビジネス文庫
 この本を読んで、また少し賢くなりました。アンデス原産のもの。ジャガイモ、トウモロコシ、トマト、カボチャ、トウガラシ、ピーナッツ、タバコ、ワタ。すごいものですね。
 アメリカのアリゾナ大学には本当に人間と話せるオウムがいる。オウムのアレックスは「オウム返し」ではなく、ちゃんと意味をもった英語をしゃべる。6までの数を数え、100種類の物の名前が言えて、その色、材質、形の違いを言葉で表現する。条件反射的な応答ではなく、チンパンジーやイルカに匹敵する判断力をもって、言語を自発的に使っている。一度、ぜひビデオでアレックスがしゃべるのを見てみたいものです。
 ナメクジの脳を研究している学者がいます。人間が甘いと感じる砂糖のようなものはナメクジも大好きで、人間が苦いと感じるのはナメクジも嫌いです。ナメクジに学習させているなんて、学者も本当に大変な仕事ですよね。

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築地のしきたり

著者:小林充、出版社:NHK出版
 居酒屋の水槽で泳いでいる魚の多くは痩せさらばえていて、言ってみればホネカワスジエモンみたいな魚だ。せいぜい水槽に放って1晩くらいならアクが抜けて弾力のある身質にもなるけど、これが3日も4日も続くようではダメ。そんなのを活造りにして食べるなんて愚の骨頂、最下等の食べ方。えーっ、そうなんだー。ちっとも知りませんでした。
 タイやヒラメなどの白身魚を生で食べるときは、締めてから10〜12時間くらいたったころが一番うまい。これは、うま味を感じさせるイノシン酸がそのころピークに達するから。締めてすぐだとイノシン酸はほとんど含まれていない。夕方6時に店で刺身として出すのなら、当日の朝6時から8時の間に魚を締める。締めるというのは、魚を苦悶死させず、スパッと一気に息の根を止めること。マグロの場合には、金属棒(神経棒)をつかって、脊髄に突っこんで神経を麻痺させる。なーるほど、世の中知らないことって多いですね・・・。
 マグロは昭和初めまでは赤身だけが食べられていて、トロ(脂身)は捨てられていた。トロなんて猫またぎと言って、日雇い労働者や苦学生が鍋物にして食べていたもの。江戸中期までは、マグロは、サツマイモ、カボチャと並ぶ下品な食べ物とされていた。ええーっ、そうなのー・・・。スーパーで100グラム1000円で売られている中トロは、オーストラリア産の畜養もの。蓄養マグロは二毛作で、味や色はエサ次第。安くてうまいマグロはない。安いマグロはまずく、高いマグロはうまい。なるほど、なるほど、そうなんだねー・・・。
 一度は築地市場をのぞいてみよう。水産物の取引が1日2300トン、20億円のお金が動くところ。世界一の取引高を誇っている。手頃な魚河岸の案内書だ。

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野鳥博士入門

著者:唐沢孝一、出版社:全国農村教育出版
 毎朝、庭に出てキジバトにエサをやります。キジバトは麻の実が大好物で、ヒエ・アワより先についばみ始めます。スズメはヒエ・アワに群がりますが、ハトに遠慮します。ヒヨドリは、どうも好物ではないようで、寄りつきません。春先にはメジロが桜の花の蜜を吸いに来ます。秋になるとジョウビタキがやってきて、尻尾をチョンチョンと軽く上下に振って挨拶してくれます。私が畑仕事をしているのをじっと見守っていてくれる愛敬のいい小鳥です。モズは甲高い声で鳴きますし、ヒヨドリは我が物顔で庭を闊歩します。
 ヒヨドリによく似た小鳥はムクドリです。こちらは同じ灰色系統でも、くっきりとした縦縞があります。春にはウグイスが鳴いてくれますが、姿を見ることはほとんどありません。このほか、ツートンカラーのカササギが近くを巡回しています。カラスはめったにやってきません。庭の木に鳥の巣をかけようと思っていますが、まだ果たせていません。巣をかけたら、どんな鳥が来るか楽しみです。小鳥たちと親しくなるためには絶好の入門書です。

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異形の城

著者:東秀紀、出版社:講談社
 明智光秀の本能寺の変については、既にたくさんの本がある。この本が類書と異なるのは、安土城にスポットライトをあてて、その吹き抜け構造などを紹介しながら、信長の精神構造にふみこんだところにある。
 安土城については、『復元安土城』(講談社)などによって、CGによる復元図で視覚的に捉えることができる。高層の木造建築物の内部に吹き抜けがあるとか、ともかく異表を衝くものであったことは確かだ。今に復元できればと願う。
 光秀が信長の正妻と不倫関係にあり、それを知った信長が冷たい仕打ちをしたこと、その正妻が信長の本能寺の情報を提供していたとされている。これらが史実にあうものかどうか疑問を感じたが・・・。

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武家用心集

著者:乙川優三郎、出版社:集英社
 オビに「己を見失うことなかれ」とあり、「静謐な筆で描く時代小説集」となっている。私は読む前から、ワクワクするほどの期待感をもっていた。そして、幸いなことに、その期待は背かれなかった。
 私は読む前、少し疲れていた(こんな私でも、たまには疲れを感じることがある)。後頭部から首筋にかけてひどく凝っていて、いかにも血行が悪く、朝起きたとき珍しく頭がスッキリ冴えない。ところが、この本を読みすすめていくうちに、心のモヤモヤが晴れわたり、頭の方もスッキリしてきた。まさに一服の清涼剤になったわけだ。
 藤沢周平の原作を山田洋次監督が映画化した『たそがれ清兵衛』ワールドが目の前に現出する。暗殺を命じられる下級武士の悲哀が語られる。結婚を約束しながら離ればなれになっていて再会したとき、もはや結びあえない境遇におかれた2人の切なさ。病気の母を押しつけあいながら、ついに引きとりを決意する娘の健気さ。
 いつの世も庶民の生活はつましい。愛憎は微妙に心のしこりとなっていく。そんな変わらぬ人の世と人情を見事に描き出している時代小説集だった。

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マルチニック・モナムール

著者:渡辺眞紀子、出版社:三元社
 いま、NHKラジオのフランス語講座の応用編はカリブ海のグアドループ島生まれの女性作家マリーズ・コンデの自伝的エッセイを題材としています。カリブ海にはフランス海外県があります。マルチニックもそのひとつです。かなり前のことですが、『マルチニックの少年』という映画を見たことを思い出しました。アフリカの映画と思いこんでいましたので、この本を読んで間違いに気がつきました。
 ナポレオンの皇后ジョゼフィーヌは、マルチニックで生まれたクレオール女性(植民地で生まれた白人)だというのも初めて知りました。松江に住んだラフカディオ・ハーンは日本に来る前、マルチニックにいたそうです。
 澄んだ海とジャングルのある島のようです。最近、治安が少し悪くなったとはいえ、ハイチほどひどくはないとのこと。フランス語が通用する国なので、一度は行ってみたいと思います。フランス語を勉強していると、こうやって視野が広がるのが嬉しいのです。
 11月23日、秋晴れの日曜日、仏検一級を今年も受けました。いつものように、出だしの問題は、さっぱり歯がたちません。惨敗です。みじめな気分に陥ります。それでも、長文読解のところで何とか盛り返し、続いて、書き取り、聞き取りでは点数を少しばかり稼ぐことができました。これも毎朝のレッスンの成果です。結局のとこと、辛うじて70点に至るかどうかというところでした。

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裏支配

出版社:廣済堂出版
 田中角栄が逮捕されたとき、私はたまたま東京地検の近くにいました。連行される現場を見たわけではありません。連行した検察官は私が横浜修習のとき指導担当だった松田昇検事でした。それほど有能だという印象は受けたことはありませんでした(むしろ、純朴な感じでした)が、その後、出世街道を驀進していきました。
 この本は田中角栄のプライバシーも暴いています。角栄は醤油が大好きで、いなり寿司にもウナギにも、たっぷり醤油をひたすほど漬けて食べていました。角栄は元旦に目白で新年を祝い、2日に、神楽坂の別宅で認知した2人の息子とともに新年を祝い、3日は佐藤昭とその娘のとともに新年を迎えるのを常としていた。娘の真紀子は、それを知って父親を許さなかった。角栄は真紀子をシャモと呼び、両者の関係はギスギスしていた。それでも、真紀子は角栄を見事に利用しています。それも父親への報復なのでしょう。
 ロッキード事件が、田中角栄の5億円収賄事件とされていることに角栄は我慢ならなかった。実際には1ケタちがう55億円の賄賂がロッキード社から日本政府の高官に流れた。30億円がトライスター導入、そして25億円が対潜哨戒機P3Cオライオン導入だった。角栄の5億円は氷山の一角にすぎなかったのに、結局、解明されないままに終わった。
 自民党による対野党工作について、角栄は、次のように述べています。野党にお金を受けとらせるのは簡単ではない。簡単にお金を受けとる奴はいない。だから、少しずつやるんだ。麻雀で負けるのも、海外旅行に行くときに餞別を贈るのも、そのためだ。そういうところから始まる。一番良いのは奥さん同伴の海外視察旅行だ。そこで奥さんぐるみの関係ができる。日本に帰ってからも一緒に食事をしたりして、そのときに奥さんに贈り物をする。そうやって少しずつ受けとらせるようにする。お金を受けとらせるのは難しいものだ。なるほど、こうやって野党を取りこんでいくのですね・・・。

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新宿情話

著者:須田慎太郎、出版社:バジリコ
 新宿・歌舞伎町の界隈に生きる人々を写真つきで紹介している。極めつけの写真がヤクザのパトロール写真。歌舞伎町には100ヶ所の暴力団事務所があり、2000人がシノギを削っているという。そのヤクザが定期的にナワバリをパレード行進するのだ。さすがに後ろ姿しか写っていないが、いかにも怖そうなヤクザの面々のパレードだ。これで法治国家・日本と言えるのか、自信を喪わせる。風俗産業からスカウトマンからホームレスまで、新宿の表(こちらは、実のところあまり多くない)と裏が紹介されている。

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明日からは兵士

著者:権春五、出版社:PHP研究所
 お隣の韓国には今なお徴兵制度がある。26ヶ月ものあいだ、青春を犠牲にして、人間を殺人マシーンにするための訓練に慣らされる。上官の命令に盲従し、死を恐れず突撃していく兵士をつくりあげるためには、肉体が頑健であること以上に、自分の頭でモノを考えないことが必要だ。モノを考えない国民が多いのは、支配する側にとっては好都合かもしれない。でも、前途ある青年の柔軟な頭が2年あまりも思考停止させられ、型にはめられてしまうことの国家的なデメリットもまた、測りしれないほど大きいと思う。
 この本は、2年間を無事に生きのびた人の視点から描かれ、プラス思考で貫かれている。『オマエラ、軍隊シッテルカ』(バジリコ)は、もう少し悲惨な側面も描いている。
 ところで、李会昌候補が大統領に当選できなかったのは、家族8人の男性のうち、軍隊に行ったのは、たった1人だけだった。しかも、その1人は6ヶ月の短期兵だったことが暴露されたことが大きかった。韓国では26ヶ月の兵役義務を果たさない者は一人前の男とみなされない。私は、しみじみ、平和な、徴兵制のない日本で生まれ育って良かったと思った。人を殺す訓練を積んでなければ一人前の男だとみなされないなんて、とんでもない。

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今すぐやる人が成功する

著者:堀場雅夫、出版社:三笠書房
 私は、ときにビジネス書も読みます。ビジネス界で成功して名をあげた人の言葉には含蓄があります。仕事ができる人と、できない人の際だった差は、コスト意識にある。私も、時間を昼間ダラダラと費やすようでは弁護士として大成しないと考えています。もちろん息抜きは必要なのですが、自分の時間単価を考えないようでは困るのです。仕事ができる人は、まず、相手の話にきちんと耳を傾ける。そして理解しようと努力する。そのうえで、自分と相手との違いを判断し、異論を述べ、そして行動に移す。そうなんです。やはり、いつも付和雷同では困るのです。とりわけ重要なのは、「時間」に対する価値観である。「時間をどう使うか」を決める主体はあくまでも自分であり、個性的な価値観を持っていなければいけない。時間の効率を高めるためには、集中力だ。集中力で時間が縮まる。仕事ができる人は「100%」を目ざさない。プライオリティーにしたがって、時間内に間に合わない仕事は切ってしまう。そうですよね。何事も完璧をめざすと、かえって他のことがおろそかになりますからね・・・。仕事ができる人は、自分の能力の1.5倍、少なくとも150%くらいの仕事を抱えこむ。無理を承知で大量に抱える。その方が100%の能力を発揮できるから。人からほめられて素直に喜べる人は、確実に仕事ができる。仕事が人間関係で成り立って以上、仕事の実務能力と感情の表現能力は必ず比例する。人間は「言葉の生き物」だ。言葉が足りないとき、人間は必ず人間不信に陥る。仕事ができる人は、服装を含め、いかに突出するか、いかに自分の能力を認めるかを考え、努力する。仕事とは、本来、マニュアルに載っていないことをすること。完璧な「非マニュアル人間」、これこそ、我々が目ざすべきものである。スピーチを成功させる三つのコツ。第1に、原稿を見てはいけない。聞き手に語りかける。第2に、話のポイントを3つに絞る。第3に、相手の価値観で話す。説得力あるスピーチは、すなわち情報収集活動のたまものである。なかなか味わいの深い言葉ですよね。

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てっぺん野郎

著者:佐野眞一、出版社:講談社
 石原慎太郎・東京都知事の半生を克明にたどり、慎太郎の本質を見事に解明した本です。
 慎太郎の父親は愛媛県に生まれ、宇和島中学を1年で中退し、山下汽船に店童(小僧)として採用され、叩き上げていった人物です。51歳で若死にしていますが、お酒の飲みすぎだったようです。慎太郎は、弟・裕次郎には絶対かなわないという根深いコンプレックスをずっと抱いてきました。裕次郎は慶応高校に失敗し、慶応農業高校に通いましたが、札つきの不良少年でした。その不良仲間の遊びを小説化したのが慎太郎の『太陽の季節』です。私は読んだことがありませんし、読む気もしません。芥川賞受賞に反対した佐藤春夫は、『太陽の季節』について、風俗小説としてもっとも低級であり、作者の美的節度の欠如しか感じられず、嫌悪を禁じえない、と言っています。これでは読む気がなくなります。保守反動派を自認する慎太郎も、名門の湘南高校時代には左翼的学生でした。一橋大学に入ってからも、破防法反対のデモに加わったことがあります。今の慎太郎からは、とても想像もできませんが・・・。慎太郎は選挙のとき霊友会の力を借りていますが、若いころには母親とともに世界救世教を信心していました。今、週に2日しか都庁に出勤しない慎太郎の代わりに都政を牛耳っている濱渦副知事は国際勝共連合と深い関わりをもっています。慎太郎には銀座の高級クラブでホステスをしていた女性に生ませた息子がいます。この子の認知のときには、妻と息子4人の全員が参加する家族会議で、今後は絶対に浮気はしないと約束させられたのだそうです。慎太郎の政治家としての信条を述べた言葉があります。「公約なんて、実現不可能なことは言わないものです。実現できなかったときに支持率が落ちるだけですからね。公約は、オッと思わせることが大事なんです」(週刊現代、2003年4月26日号)
 慎太郎は、とにかく飽きっぽい、ものは早見えするけれど、すぐに行き詰まる。そして行き詰まると、たちまち投げ出す。人々の耳目を集めることにプライオリティーの重きを置いた独特のポピュリズム的手法を得意をする。とかく問題になる乱暴な言葉づかいにしても不用意な発言ではなく、こういったらマスコミが取りあげてくれるな、という計算の上での発言だ。慎太郎は、「毒舌」「暴言」という形で、日本人の隠されたホンネを先取りしてあぶり出してきた。慎太郎は2度にわたって300万票という大量得票を実現しました。しかし、私にとっては、慎太郎は虫酸の走る男でしかありません。そんな唾棄すべき男に、なぜこんなにも多くの日本人が間違って魅かれてしまうのか。この本は、その理由を考えるうえで大いに役に立ちます。

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さらば外交官

著者:天木直人、出版社:講談社
 団塊世代のキャリア外交官が、日本の対米追従外交を痛烈に批判した本。私には、一部に同意できないところもあったが、多くに共感を覚えた。とくに同じ団塊世代のキャリア官僚のなかに、これだけ気骨のある人物がいたことに深い感銘を覚えた。著者は、国連決議なしの対イラク攻撃は何があっても阻止すべきだという意見具申を外務大臣あてに公電で打った。日本の外交史上の汚点として残る小泉外交の誤りは、国際社会を無視して一方的にイラク攻撃に踏み切った米国を、胸を張って真っ先に支持したことである。
 外務省の米国崇拝、盲従の外交が果たして、長い目で見て本当に国益にかなうものなのかどうか。再考を迫られている時期にきているのは間違いない。にもかかわらず外務省の現実は、もはや「追従」を通り越して、米国は絶対視、神聖視される対象にさえなりつつある。
 著者のこの指摘に私はまったく同感だ。ところが、先日、私がきいた話では、駐フランスの日本大使は訪仏した日本の国会議員に対して次のように発言したという。「フランスは外交の素人なので困る。外交の玄人だったら、アメリカに最後までは反対しないものだ。はじめのうち反対するそぶりを見せても、結局は賛成するのが外交のプロなんだ」。これに対して、国会議員が「そうはいっても、フランスの国民の大半は政府を支持しているじゃないの?」と反問したところ、その大使は「素人は素人を支持するものだ」と言い放ったという。
 本当にいつまで日本はアメリカの言いなりになっているのだろうか・・・?

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蝶と鉄骨と

著者:五十嵐遇、出版社:東海大学出版局
 テングアゲハの写真が口絵に紹介されている。オスよりメスが断然大きく、たくましい。胴が太々としていて、まるで蛾だ。濃緑の胴と羽の中心部に黄色いふちどりが珍しい蝶であることを一見して分からせる。北インドの高地、タイガーヒルに棲む蝶だ。この蝶を大成建設の現場所長をつとめる中年の男がネットをふるって追う。
 男は少年のころから昆虫少年だった。勉強より、三度の飯より、昆虫図鑑が何より好き。じっと昆虫を観察し、写生する。それでも、食べるために大手の建築会社(ゼネコン)に入社する。そしてイラクに企業戦士として派遣され、見事に大失敗必至の事業を建て直し、大赤字ではあってもやりとげた。その自分へのごほうびに北インドへ飛び、珍蝶テングアゲハの生育歴について調べあげた。
 子どものころの夢を追い続けることの大切さをしみじみ味わうことができるいい本だ。著者は55歳で大成建設の取締役までのぼりつめ、定年で退社する。それでも日本蝶類学会の会長をつとめているのだから偉い。
 わが庭にもアゲハチョウが飛んでくる。地上をはう気味悪い芋虫が変態して優雅に空を飛ぶ蝶になるなんて、誰がどうやって仕組んだのだろうか。これも生物進化の大きな謎のひとつだ。それにしても蝶は人間(ヒト)をとりこにする魅力をもっている。

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死刑囚、最後の晩餐

著者:タイ・トレッドウェル、出版社:筑摩書房
 アメリカには死刑執行の3時間前に何でも食べたいものをリクエストできる制度があるそうです。そこで、実際に死刑囚がいったい何を注文したかを明らかにした本です。悪い奴を死刑執行するのは当然だというトーンで貫かれていますから、読んでいて少々いやになりますが、アメリカの死刑制度の現実の一端を知ることはできます。
 ちなみに、日本にはそんな制度はありません。リクエストどころか、死刑はある日突然、何時間か前に知らされ、まもなく執行されるのです。正月の3ヶ日を除くことになっていますので、死刑囚の気の休まるのは正月3ヶ日しかありません。これが平均で死刑執行まで10年ほど続くのです。アメリカには、現在、死刑囚が3000人以上いて(女性は49人)、この27年間に500人以上が処刑されました。うちテキサス州がもっとも多く144人にのぼります。もっとも死刑執行を認めているのは38州で、全部の州ではありません。電気椅子のところも5州ありますが、大半は薬物注射による執行です。そこで、何をリクエストしたかですが、たとえばテキサス州では4分の1がハンバーガーを、次いで、ステーキを注文したといいます。やはり、日頃食べ慣れたものを食べたいということでしょう。ステーキのほか、目玉焼き6個、ベーコン16枚、ハッシュウブラウン、イチゴシャーベット、ドクターペッパーコーラ、セブンアップ、コーヒーそして胃薬を注文した死刑囚もいたということです。
 アメリカでは刑務所も危険なところです。ところが、死刑囚監房は24時間の監視体制があるため、アメリカで一番安全な場所だというのです。いろいろ考えされられる本ではありました。

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植物のこころ

著者:塚谷裕一、出版社:岩波書店
 この夏にわが家の庭にはランタナという可憐な花を咲かせる低木を買って植えました。花の色が薄いクリーム色から濃い紅色に変わっていく、アジサイの花を小さくしたような花です。なぜ花の色が変わっていくのか。それは虫をたくさん呼び集めたいので、古い花も看板として残しておくけれど、ぜひ虫に来てほしい花は虫が近づいたときに区別できるようにはしておくために、咲きすすむにつれて花の色を変えるというのです。なーるほど、すごいなと感心しました。植物には心も感情もありません。だから、音楽を聴かせたり、手で触っても分かるはずはない。しかし、植物は明らかに生きているし、進化している。それをこの本は解き明かしています。
 私も日曜日ごとに花を眺め、土いじりをしていますが、なんとなく「植物のこころ」が分かりかけてきました。

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乱交の生物学

著者:ティム・バークヘッド、出版社:新思索社
 本の題名にギョッとするヒトは多いかもしれませんが、中味はすごく真面目な本です。もちろん人間を含めた動物の性を扱っていますが、生殖について深く考えさせられる具体的な実例が豊富にあげられていて、認識をあらたにさせられます。
 鳥類は、社会的には一雄一雌ですが、性的にも一雄一雌というわけではないことが今では明らかになっています。有名なオシドリもそうです。ただハクチョウは貞節を貫くようです。カマキリのオスは交尾しながらメスに食べられるという有名な話について、オスは自分が食べられないように全力をあげていることが明らかにされています。
 平均的な男性は1日に1億2500万個の精子をつくり出し、一生涯で2兆個になるそうです。七面鳥は1回に16億個、ブタは1000億個だというのです。なぜ、こんなにも多くの精子が1個ないし数個の卵子を受精させるために必要なのでしょうか?
 精子には欠陥が多く生じるし、精子競争に勝ち残れるもののみが子孫を残せるようにしたということのようです。それにしても数が多すぎますよね・・・。

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あしたの発想学

著者:岡野雅行、出版社:リヨン社
 痛くない注射針をつくった著者の工夫話がのっています。針の長さは20ミリ、穴の直径80ミクロン、外径200ミクロンという髪の毛のように細い針はパイプではできません。板を丸めて針をつくるのです。板のうちに穴を開けておけば針の先端だけでなく周りにも穴ができるので、注射の時間も短くてすみます。まったく新しい発想で取りくみ、それを技術的に可能にしたのです。
 この本にはモノづくりにこだわる職人の心がまえが具体的に語られていて、勉強になります。こんな職人気質が生きている限り、まだまだ日本も捨てたもんじゃありませんね。

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先生が壊れていく

著者:中島一憲、出版社:弘文堂
 欠勤依存症という言葉をはじめて知りました。出勤困難症候群をくり返すことによって起きるものです。買い物依存症、ギャンブル依存症と同じく、プロセス依存と呼ばれる病理だそうです。学力優秀な学生が、社会性が未熟なまま教師になると挫折する場合があります。教科書指導はできても、生徒指導で壁につきあたるのです。
 指導力不足教員が少なくないのも現実のようです。でも、わがままな親は、それ以上に多いでしょう。親が商業主義に無批判に乗せられていたら、子どもが何の疑問も感じなくなるでしょう。まじめな教師は、そこで板バサミ状態になり、ノイローゼになってしまうのです。
 だから、うちは中高一貫の私立に入れるんだという親も多いわけです。でも、みんなが私立に入れるわけではありませんから、社会全体としての解決にはなりません。
 私はいま2校目の中学校の外部委員をつとめています。といっても年に2回ほど、中学校へ出かけていって校長先生と話しをして帰ってくるだけです。それでも、中学校の実情の一端に触れることができます。非行や不登校やいじめ、教師の体罰など、問題は山積していますが目をそらすわけにもいきません。弁護士会としては、もうひとつ、法化社会をめざしての法教育も実現させなければいけません。

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図説・古代ローマの戦い

出版社:東洋書林
 ハンニバルのカンネーの戦い、カエサルのヴェルキンゲトリクスとの戦い(『ガリア戦記』に出てくる)などが図面で解説されているので、ビジュアルによく分かる。

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