弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年11月 1日

大統領の秘密の娘

著者:バーバラ・チェイス・リボウ、出版社:作品社
 トーマス・ジェファーソンといえば、アメリカの格調高い独立宣言を起草した大統領。そのジェファーソンには黒人女性に生ませた7人の子どもたちがいた。それは異人種混交として処罰されるべき行為だった。
 1997年にスティーヴン・スピルバーグ監督は『アミスタッド』という素晴らしい映画をつくった。奴隷運搬船アミスタッドで発生したアフリカ人たちの反乱を当時のアダムズ大統領がどう扱ったかを描いたもので、息づまる展開にドキドキさせられた。この映画について、この本の著者は、自分の本の盗作だとして訴えを起こした(後で和解が成立)。
 そこで、この本の内容を紹介したい。といっても、2段組みで600頁という大作。要するに、ジェファーソンの娘ハリエットがどのようにして白人世界へ逃亡し、そこで奴隷解放のためにいかに奮闘したかという展開なのだが、途中で南北戦争がはさまっているため、劇的な物語となっている。
 ジェファーソンは39歳で妻と死別し、独身を通したため、黒人女性と同棲することに今日の考えからは何の問題もないし、同じ町に住む人々にとっても公然の秘密だった。しかし、アメリカ大統領がそうであってよいのかというマスコミの攻撃には、それでは耐えられない。ジェファーソンは一言も弁明しなかったという。といっても、ジェファーソンは遺言で奴隷の身から全員を解放すると宣言できたはずなのに、それをしていない。自分のかかえていた借金の支払いのために、子どもを競売にかけることも認めた。えっ、あの独立宣言はいったいどこにいったの?
 いろいろ考えさせられる長編小説だった。

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