弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年10月 1日

21世紀の刑事施設

著:刑事立法研究会、出版社:日本評論社
 名古屋刑務所における収容者への虐待はひどいものでした。もっとも、冤罪事件ではないかという指摘もあり、被告人となった刑務官が無罪を主張している以上、軽々しく虐待があったと決めつけることはできません。
 この本は、日本の刑事施設の現状を十分認識したうえで改革・改善のための問題提起をしています。およそ現実をふまえない理想論だと批判されたこともあると書かれていますが、私はどれも重要かつ現実的な改革提言だと思います。
 犯罪者が激増していると言われています。たしかに、公判請求は5年間で9万人から12万人に増えています(2000年)。不起訴人員も31%増えています。刑事施設の収容定員は6万5千人ほどで、収容率は100%を越えています。とくに代用監獄(警察の留置場)の被収容者は65%も増加しています。これには判決の重罰化も影響しています。覚せい剤(28%)、窃盗(24%)の判決が重くなっているのです。
 ところで、警察官を増やして捜査能力を増強すれば犯罪が減って安全な社会になるというのは幻想であると指摘されていますが、私もまったく同感です。社会のなかに犯罪を生む温床をつくり、それを放置しておきながら警察官を増やしても抜本的な対策になるはずがありません。私は日々の刑事弁護のなかで、このことを強く実感します。
 日本の刑務所では、高齢者、外国人、女性が増加しています。それぞれ深刻な問題を引き起こしています。それでも、人口10万人あたりの被収容者数は、日本は40人で、イギリス125人の3分の1、アメリカ650人の6%でしかありません。
もっとも、これは英米の方に被収容者が多すぎるのです。
 現行監獄法は今から100年も前の1907年に制定されたまま、ほとんど改正されていません。まったく現代社会にあわないといって過言ではありません。1ヶ月1回しか面会や手紙の発信が許されないなんて、今どき、とても信じられません。電話をかけることがなぜ許されないのか、Eメールはどうなのか、検討すべきでしょう。また、家族面会ももっと自由にしないと、受刑者が本当に社会復帰するのは難しいと思います。
 私たちは、受刑者もいずれは社会に復帰するんだという点をしっかり認識すべきです。その意味で、本書で提案されているコミュニティ・プリズンの構想を日本でもしっかり検討すべきです。それは、刑務所の民営化という安易な方法で置きかえられるべきではありません。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー