弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年8月 1日

豊かさの条件

著者:暉峻淑子、出版社:岩波新書
 『豊かさとは何か』(岩波新書)の著者による続編みたいなものです。前の本がドイツ語では『貧しい日本』という題で出版されたことを知って、ええーっと驚き、ついうなずいてしまいました。エンゲル係数で有名なエンゲルの言葉が紹介されています。各国の経済力は物的生産量などで比較するのは無意味で、経済力を表す真の指標は、それぞれの国民の生活水準、つまり福祉の測定としての生計費である。これを、著者は、民主主義や人権の基礎が生活の福祉水準にあること、経済の活力もまた、自由と安全を基盤にした人間の活力なしにはありえないことを示したと解説しています。
 さらに、エンゲルは、ごく少しずつなだらかな暮らしの向上が、人々の生活と行動を堅実で着実な発展に導く、急激に成金になったり、逆に落ちこんだりする中では生活の荒れと退廃を免れない、安心の支えなしに人間社会は成り立たないということも言っているそうです。私も、まったく同感です。
 70代の著者が内戦で荒廃したユーゴスラビアに何度も出かけ、日本の子どもとホームステイの交流を実現するなど、そのたくましさには感嘆させられます。つい朝寝坊してしまう日本の若者も、いざとなれば立派にやるべきことをきちんとやれることも紹介され、安心します。でも、日本の家庭に詩集がほとんどなく、最後まで本を読み終えるのは困難という子どもが日本は世界で一番多いという点は、日本の将来に不安も覚えます。モノにあふれた日本ですが、心は貧しい日本人が多いように思われてなりません。

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