弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年8月 1日

なぜ、あれが思い出せなくなるのか

出版社:日経新聞社
 もっとも度忘れが起こりやすいのは人名である。それは人名がもたらす情報が名前だけだから。たとえば職業名だと、既存の関連情報や知識を使ってコード化しやすく、記憶しやすいのに大して、概念的な情報のない人名は思い出しにくいのである。
 人名の度忘れがもっとも起こりやすいのは、よく知ってはいるが少なくとも数ヶ月のあいだは会ったり思い出すことのなかった人の名前である。頻繁に会う人物を見ると、概念的、語彙的表象がともに活性化され、それらの間のつながりが強まる。
 デジャ・ヴェとは、現在の状況が引き金となって、恐らく予想しやすい言葉のときと同様に、その状況が過去に経験したと勘違いしてしまう現象。全米記憶チャンピオンは、日常生活において、物忘れしないように付箋紙(ポストイット)に頼っている。
 記憶は情報をそのまま記録するカメラではない。記憶は、その内容をさまざまなプロセスによって要約して保存する。後で思い出すときには、過去の経験をコピーして取り出すのではなく、経験したことを新に組み立て直す。この作業に、その経験の後で身につけた感情、信念、知識などが入りこむことがある。つまり、過去の出来事を現在の感情や知識に従わせることで、記憶を編集しているのである。
 人間の記憶があてにならないこと、客観的な事実に反することを本人は真実と確信して証言することは弁護士なら誰でも経験するところです。記憶と脳の7つの謎を解明している面白い本です。

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