弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年8月 1日

帝国以後

著者:エマニュエル・トッド、出版社:藤原書店
 フランスの学者による知的刺激にみちた本です。
 世界の進歩は大衆の識字化の進行と受胎調整の普及の2つによると著者は主張しています。なるほど、そうかもしれません。アメリカの貿易収支の赤字は年々大きくなっていくばかりで、アメリカ経済は日本とドイツが支えているのに、アメリカは日本を軽蔑している。アメリカの労働者は相対的貧困化だけでなく、ときに絶対的貧困化にも直面している。私は、久しぶりに「絶対的貧困化」という言葉に出会い、30年前の大学生時代を思い出しました。
 アメリカは至るところで悪を告発するが、それはアメリカが思わしからぬ行動をしているからだ。「悪の枢軸」というのは、アメリカの悪への強迫観念を表現している。その悪は国外に対して告発されるが、現実には、アメリカの内部から生まれている。アメリカ国内では、至るところに悪の脅威が潜んでいる。平等の放棄、責任を負わない寡頭支配集団の勢力伸長、消費者と国そのものの借金性格、ますます頻繁な死刑、人種の強迫観念の復帰。今のところ、ドイツと日本はもちこたえている。そのきわめて強力な経済がつい最近まで労働者と民衆を保護してきたから。社会的団結性の強い両国で、アメリカ流規制廃止をすすめるなら、極右の抬頭をひきおこすことになるのは確実だ。もし、ドイツと日本がアメリカ型の貿易収支の赤字を出すようになったら、世界経済はどうなるのか?
 アメリカ帝国の反映も今のままでは長くはないと大胆に予測しています。そうなってしまうのではないか・・・、私も、いろんな意味で大変心配しています。

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