弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年6月 1日

リーガル・エリートたちの挑戦

出版社:商事法務
 著者がダグラス・K・フリーマンとありますから、アメリカの弁護士のロースクールでの体験記と思って読みはじめると、そうではありません。日本で生まれて育って日本の司法試験に合格したアメリカ人が、弁護士となって3年目にアメリカに渡り、ロースクールで猛勉強した体験記なのです。
 著者は東大法学部を卒業し、コロンビア・ロースクールに入り、そこでローレビューにも合格するほどの有能な人物であることがよく分かります。その彼がいかに必死に勉強したか、刻明に描かれていて、アメリカのリーガル・エリートのすさまじさが大いに想像できます。3年間も、こんな猛勉強させられると、いつのまにか初心を忘れてしまう心配があります。
 「なぜコロンビアの学生全員が必修科目としてこの時期に法哲学を学ぶことになっているのかわかるか。・・・先生にいわれるままに法律をせっせと覚えこみ、それをオウム返しに試験の答案上に吐き出し、その試験結果に憂き身をやつし、しまいには大企業の金もうけの手助けをする巨大なローファームで歯車となって何も考えないまま一生を終えるのが君たちのほとんどだろう。何も考えないことほど簡単でかつ恐ろしいことはない。
 しかし、それでは法学教育の本当の使命をまっとうできない。ロースクールを卒業すると君たちは、社会的には自分で想像する以上の権力を握ることになる。法のあるべき姿を根本から考え直すべく、この法哲学の講義がもうけられた」
 これは、法哲学を担当するモグレン教授のすごい開講挨拶のことばです。
 コロンビア・ロースクールを卒業するときには、平均して1000万円のローンをかかえているそうです。そこで、このローンの返済のため、とりあえず初任給1500万円の大ローファームに入っていく現実があります。そして、やがて「大企業の金もうけの手助け」をすることに慣らされていくわけです。日本でも、恐らく、このような状況がやがて出現するのでしょう・・・。大いに刺激を受け、また考えさせられる本でした。

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