弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年6月 1日

あやめ横丁の人々

著者:宇江佐真理、出版社:講談社
 祝言の席に、花嫁の好きな男が押しかけてきて花嫁をさらっていく。花婿は男の意気地を立てるために追いかけ、男を切り捨てる。花嫁はあとで自死してしまう。花婿は逆うらみから花嫁の一族から追われ、あやめ横丁に隠まわれる。ところが、この横丁の住人はすべて訳あり、いわく因縁のある人々ばかり・・・。
 江戸時代の下町を舞台とする時代小説。訳ありの訳がひとつずつ解き明かされていく展開は、なかなか胸をうつものがある。あやめ横丁の由来も花の名前ではなかった・・・。たまに江戸情緒にひたってみるのも乙なもの。

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手紙

著者:東野圭吾、出版社:毎日新聞社
切なくて切なくて、泣けてくる話。福岡県弁護士会の職員(吉田さん)から、絶対おすすめですとキッパリ断言され、迷わずその日のうちに書店で見つけて読みはじめた。
 兄が強盗殺人で刑務所に服役。弟は、そのハンディを背負って社会でなんとか生きていこうとする。両親は死亡しており、兄弟2人きり。ところが、刑務所にいる兄の存在が弟の行く手に何度となく大きな障害となって立ちふさがる。大学進学、就職、恋愛、子ども・・・。弟は兄を捨て去ろうとする。しかし・・・。身内に犯罪をおかした人の辛さがしみじみと実感される。たまらなくなって途中で放り出したいほどの切なさに身が震える。
 でも、このあとどうなるのかという好奇心もあって、2日間で読みとおした。
 弁護人になって被告人の情状弁論をし、その行く末を考えることはあっても、その身内のことまでは考えたことが少なかったので、いわば頂門の一針でもあった。想像力がかきたてられる一冊。

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マネーロンダリング

著者:橘玲、出版社:幻冬舎
 タックスヘイヴンとかマネーロンダリングという言葉を耳にすることはあっても、それが実際にはどのようになされるのか、まったくイメージがつかめない。この本は、香港を舞台にしたマネーロンダリングがどのような手続ですすめられるのか、きわめて実践的な手引書となっている。もちろん、恋あり、殺しあり、復讐ありでハラハラドキドキの展開なのだが、興信所をつかっての資産・所在調査の手口など、よくもここまで調べたものだと感心する。オビに「合法的な脱税に関する貴重な情報が縦横に織り込まれている」というのもウソではない。それにしても、国外に隠すほどの大金をもっていない庶民はいったいどうなるのだろうか・・・。

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仮釈放

出版社:新潮社
 吉村昭の本です。大庭弁護士がメールで推薦してくれましたので、読んでみました。不倫した妻を殺した真面目な高校教師が無期懲役となり、長い刑務所生活を過ごしたあと、仮釈放されて社会に出て生活するようになったときに感じるとまどいが迫真の描写で、身につまされます。元囚人が普通に生活していくことは、こんなにも大変なことなのか、改めて考えさせられました。
 吉村昭の本は何冊か読みましたが、いずれも徹底して調べあげた、という印象をいつも受けます。凄みさえ感じるほどです。モノ書き志向の私ですが、ちょっと真似できそうもありません。井上ひさしとともに吉村昭は尊敬する作家です。

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真相・中村裁判

出版社:日経BP社
 この本を読んで、特許法35条というものを初めて知りました。従業員が発明した特許には、自由発明と職務発明の2つがあります。業務範囲内にあり、職務に属する発明を職務発明といい、それ以外を自由発明といいます。
 特許法は、職務発明について、特許を受ける権利は発明者である従業者に当然帰属するものとして従業者の権利を確保しながら使用者の寄与も考慮して、その特許権について通常実施権を有することにし、両者の利害を調整しています。
 日亜化学につとめていて高輝度の青色発光ダイオードを発明した中村修二氏は、自己の特許権を会社に譲渡していないと主張したのですが、昨02年9月19日、東京地裁は中間判決で中村氏の特許権は会社にあるとしました。この本は、その判決を批判したものですが、読んでみると、なるほどと思うところがありました。
 日亜化学は、この発明によって2000億円ほどの世界市場を獲得したのだから、中村氏の請求額20億円でも安いという主張です。金額の大きさには驚かされます。

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監視社会

出版社:青土社
 アメリカ映画『インターネット』、『エネミー・オブ・アメリカ』は、いずれも政府によって国民がいかにコントロールされているか、その危険性をゾクゾク寒気がするほど見事に描いていました。まだ見ていない方は、ぜひビデオでご覧ください。
 この本では、イギリスの監視システムがすすんでいることが紹介されていますが、日本でも同じことです。すべてのインターネットによる交信が自動的に「辞書」検索システムにひっかかることになっているなんて、ホントに恐ろしいことです。
 それにしても、路上のNシステムが目立ちます。最近また増えているように思います。私たちの日常生活がずっと監視されているって、いやですよね。

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裁かれるべきは誰か

出版社:現代人文社
 酪訂えん罪を主張する事件で有罪判決を受けた経過を本にしたものです。泥酔して駅で寝てしまった若いサラリーマンが隣で寝ていた他人を先輩と勘ちがいしてのお金をとった(借りた)ことが窃盗(仮眠盗)にあたるとして逮捕・起訴され、5ヶ月間の拘留のあと保釈されたものの、有罪判決を受けたという事件です。
 判決は、結審間際に福岡地裁小倉支部から転勤してきた若い女性判事補(6年目、30代前半)が下しました。その審理のすすめ方について、強い不満が表明されています。
 般の刑事裁判で無罪を勝ちとるのがいかに難しいか、この本を読むとよく分かります。幸い、この事件はその後、東京高裁で逆転無罪判決が出ました。ちなみに、私は無罪判決は2件しかもらったことがありません。

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ストレス専門医の処方せん

出版社:昭和堂
 サラリーマンが毎朝読んでいた朝刊を数日間読みたくないという状態が続いたとき、軽症のうつ病にかかっている。これを朝刊シンドロームと言います。
 私は、自宅では朝刊2紙を毎朝丹念に読んでいます。ところが、ホテルに泊まると、どうしても1紙を軽くしか読めません。自宅に夜帰ると、さらに別の朝刊2紙をじっくり読むのですが、ホテルではそれもできません。逆の朝刊シンドロームです。
困ったことに世の中の動きが、もうひとつぴったり来なくなるのです。
 この本は私の同級生、徳永雄一郎医師の最新刊です。日本の年間の自殺者が3万人をこえ、私と同世代の50歳代の男性が急増しています。遺書を残した1万人の自殺動機調べでは、健康問題が41%、経済生活問題が30%となっています。
 私は、この4月以来、たて続けに3件、自殺がらみの事件を受任しました。たいていは相続放棄なのですが、一件は自殺した方のかけていた生命保険金を元手に借金を整理しました。仕事とはいえ、あまり気持ちのよいものではありません。
 不知火病院には有名なストレス病棟がありますが、13年間で、1700人の入院患者のうち、入院中の自殺はわずか5例だったとのこと。うつ病は治るんですね。ストレスとうつ病、そして自殺に関心のある方におすすめします。

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女のいない世の中なんて

著者:藪田貫、出版社:フォーラム・A
 著者は私と同じ年齢の大学教授です。近世史・女性史が専門なので、江戸時代のことにも詳しくて、眼を見開かされました。
 たとえば『女大学』です。婦人は別に主君なし。夫を主人と思い、敬い慎みてつかうべし。こんな教えばかりが有名ですが、これは『世事見聞録』にあるように、現実にはそうじゃなかったので、そうしてほしいという願望がこめられているのだと(私は)思います。ところで、この著者は別のことを言っています。実は『女大学』は、江戸版の『婦人画報』『婦人の友』あるいは『アンアン』『ノンノン』だったのだ、ということです。
 なるほど、地理・歴史があり、医学のこと、文学のこと美術など、教養全般が絵入りでとりあげられていて、「徳目」13条を骨抜きにしてしまうような内容のオンパレードなのです。私は、そっかー、なにごとも一面的に見てはいけないんだ、と反省させられました。
 江戸時代に女性が一人旅や集団での旅を楽しんでいたこと、たくさんの旅日記がのこされていることは、私もいくつか本を読んで知っていました。
 「女のいない世の中なんて」という挑発的な表題ですが、中味は真面目な話ばかりです。あなたも、どうぞ読んでみてください。

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テロリズムと戦争

著者:ハワード・ジン、出版社:大月書店
 「軍事基地である広島に史上最初の原爆が投下されたことに世界は気がつくであろう。この最初の原爆攻撃でわれわれが願ったのは、できるかぎり民間人の殺戮を避けることであった」
 これはトルーマン大統領が原爆投下を発表したときの談話。できる限り民間人を殺さないようにしたなんて、よくも言えたものだ。
この本には、アメリカの民主主義の本質が鋭くあばかれている。アメリカでは、反対意見がもっとも必要なときに、その反対意見を閉塞させてしまうという長い伝統がある。どうでもいいような些細なことに関しては言論の自由が保たれても、生きるか死ぬかという重要な問題に関しては言論の自由が許されない。これを民主主義と呼んでいる。今の日本はアメリカの民主主義を、そのまま真似ているだけのように思ってしまう。

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もう抗生物質では治らない

著者:マイケル・シュナイアソン、出版社:NHK出版
男より女の方が本を読まないって調査結果が新聞にのっていたけど、本当かしら・・・。大牟田のN弁護士ほどは読めないけど、私だってそれなりに本は読んでるわ。このあいだも『手紙』 を読みはじめて、結末が知りたくてついに一晩かけて読みあげたし・・・。おかげで、翌日は、寝不足で頭がよくまわらなかったのが痛かったけど・・・。まあ、頭がまわらないのはいつものことですって、失礼ね(プンプン)。
 一家の台所をあずかる身として、食べ物にはこれでもずい分と気をつかってわ。お店で選ぶときだって、値段が安けりゃいいってことじゃないの。見てくれよりも、やっぱり安全性よね。残留農薬が心配だから、あまり輸入物は買わないようにしてるし・・・。でも、中国からの輸入モノって多いわね。国産品って割高になってしまうのが、主婦としては痛いわ。
 この本を読んで、本当に息がとまりそうなほど、さすがの私も驚いてしまったわ。アメリカじゃあ、家畜につかう抗生物質の使用量がこの15年間で300%も増大してるんですって。ブタなんか、平均して10種類の抗生物質を投与されてるなんて信じられないわ。病気予防と成長促進剤なのよ。その結果、細菌に耐性ができて、家畜を食べる人間にまでそれが取りこまれてしまうんですって。あのO157騒動も、耐性のある大腸菌によるらしいのね・・・。
 やっぱり抗生物質に頼り切るって、怖いわ。でも、無農薬で完全自給なんて出来ないものね。怖い話だけど、目をふさぐわけにもいかないし・・・。
 だまされたと思って、手にとって読んでみて。あとで感想おしえてね。

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ヴェトナム戦場の殺人

出版社:扶桑社ミステリー文庫
 MPとしてベトナム戦争に従軍した経験のあるディヴィッド・K・ハーフォードの戦場ミステリー。戦場の描写がとてもリアルだ。
 MPに犯罪捜査部(CID)があるということを初めて知った。アメリカの兵士が殺される。同僚の兵士たちはベトコンに殺されたというが、身体はハチの巣になっているのに、着ていたはずのシャツには銃弾の穴がない。アメリカ軍の底知れぬ腐敗にMPは直面させられるなか、少しずつ解決の糸口をつかんでいく。
 ベトナム戦争に従軍していたアメリカ兵士はほとんど私の同世代。ジャングルのなかで無意味に殺されていった若者たちのことを思うと、胸が痛む。
 久しぶりに若いころベトナム反戦デモに汗をかいたころを思い出したが、ミステリー小説としても、よくできていると思う。

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リーガル・エリートたちの挑戦

出版社:商事法務
 著者がダグラス・K・フリーマンとありますから、アメリカの弁護士のロースクールでの体験記と思って読みはじめると、そうではありません。日本で生まれて育って日本の司法試験に合格したアメリカ人が、弁護士となって3年目にアメリカに渡り、ロースクールで猛勉強した体験記なのです。
 著者は東大法学部を卒業し、コロンビア・ロースクールに入り、そこでローレビューにも合格するほどの有能な人物であることがよく分かります。その彼がいかに必死に勉強したか、刻明に描かれていて、アメリカのリーガル・エリートのすさまじさが大いに想像できます。3年間も、こんな猛勉強させられると、いつのまにか初心を忘れてしまう心配があります。
 「なぜコロンビアの学生全員が必修科目としてこの時期に法哲学を学ぶことになっているのかわかるか。・・・先生にいわれるままに法律をせっせと覚えこみ、それをオウム返しに試験の答案上に吐き出し、その試験結果に憂き身をやつし、しまいには大企業の金もうけの手助けをする巨大なローファームで歯車となって何も考えないまま一生を終えるのが君たちのほとんどだろう。何も考えないことほど簡単でかつ恐ろしいことはない。
 しかし、それでは法学教育の本当の使命をまっとうできない。ロースクールを卒業すると君たちは、社会的には自分で想像する以上の権力を握ることになる。法のあるべき姿を根本から考え直すべく、この法哲学の講義がもうけられた」
 これは、法哲学を担当するモグレン教授のすごい開講挨拶のことばです。
 コロンビア・ロースクールを卒業するときには、平均して1000万円のローンをかかえているそうです。そこで、このローンの返済のため、とりあえず初任給1500万円の大ローファームに入っていく現実があります。そして、やがて「大企業の金もうけの手助け」をすることに慣らされていくわけです。日本でも、恐らく、このような状況がやがて出現するのでしょう・・・。大いに刺激を受け、また考えさせられる本でした。

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ほたる

著者:栗林慧、出版社:学研
 毎年5月中旬すぎると、わが家の近くにホタルの乱舞するのを見ることができる。6月半ばをすぎるとホタルは見れなくなる。ホタルは子どものころも見ていた。
 あっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ。本当に、そんな歌をうたってホタルを笹で追ってつかまえ虫籠に入れていた。これが蛍雪の花っていうんだよ、と大人に教えてもらった。
 「源氏蛍全記録」と銘うった、この写真集は3900円。蛍の一生を詳しく追い続けた実に見事な記録写真に心が動かされた。そして、その解説文を読んで再び感嘆した。なんと大分県の中津無礼川に40日間もキャンプ生活をしたことがあるのだという。すごい。まったく脱帽。
 『栗林慧全仕事』(学研)も素晴らしい写真集だし、そのビデオも一見の価値がある。ホタルのことを知りたかったら、ぜひ、この写真集を買って見て、読んでほしい。

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