弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2003年5月 1日
ドキュメント裁判官
読売新聞で連載されていた特集記事を本にまとめたものです(中公新書)。全体として、やや裁判官を美化しすぎという印象がぬぐえません。
福岡の川本隆会員(最近まで福岡家裁の所長をされていました。少年付添の関係で弁護士会は大変お世話になりました)は、弁護士会が裁判官に対するステレオタイプの批判をしていることが気になると指摘されています。もっともな指摘です。しかし、裁判官たるもの、もっと現実を直視して、適正妥当な判断を勇気をもって示してほしいと願う弁護士がたくさんいる(つまり、裁判官の多くに不満をもっている弁護士が大勢いる)ことも現実です。
福岡の杉山正士判事(26期、私と同期です)とか、鹿児島の吉田京子判事も登場し、鹿児島の向和典会員が吉田判事の下した決定を批判しているのも紹介されています。ビデオリンクの状況など役に立つ記事もあり、一読をおすすめします。
アメリカの世界司法戦略
さる会合で福岡の成富睦夫会員がすすめておられた『司法占領』(講談社)を読みました。時代は2020年。日本の法律事務所がアメリカのローファームに占領されてしまって、日本企業同士の契約書も英文となり、なんと準拠法までもニューヨーク州法になっている、そんな想定です。
ロースクールの質が落ち、卒業生は行く先を捜すのに必死。大ローファームに入ると、過労死するまで働かされ、売上ノルマを達成するようトップに毎日尻を叩かれる。それが嫌ならサラ金の債権取立しかない。そんな悲惨な若手弁護士が描かれています。近未来小説というわけですが、こんなことにならないよう、日本の弁護士はがんばりたいものです。
検証・プリズナーの世界
「ニッポンの監獄を受刑者が語る」という副題のついた本(明石書店)です。30人ほどの元受刑者のへインタビューは、ほとんど共通した内容になっています。
元刑務官の2人の話も、それらを裏づけています。
私が今年3月に福岡刑務所で目撃した軍隊式のオイッチニッの行列も、20年前に始まったものだということを知って驚きました。ちなみに、2002年3月の刑務所見学のとき案内していただいた桜井所長が、転勤先の名古屋刑務所で渦中の人となり、更迭されてしまいました。丁寧に説明していただいたのですが、ひどい拷問が今もあっているんですね・・・。
食事内容は改善され、テレビも見れるようになったが、管理面では一層厳しくなったといいます。テレビ漬けにしてモノを考えさせないようにしているというコメントには、刑務所に限らない現象だと、つい笑ってしまいました。
司法における性差別
この本(明石書店)は、日弁連の両性の平等に関する委員会が2002年3月に開いた「司法改革にジェンダーの視点を」というテーマのシンポジウムをまとめたものです。
ジェンダーという言葉は、私にもまだ耳新しい言葉です。「性別」とは、男女の生物学的性差(セックス)ではなく、社会的・文化的に形成された性差(ジェンダー)をいう、と定義されています。
ドイツでは下級審の新任裁判官の半数は女性、フランスでは、全体の半数を既に女性裁判官が占めている。カナダの最高裁長官は女性であり、女性裁判官は24%。アメリカは、連邦裁判官の15%が女性(ちなみに、弁護士の30%が女性)。ロースクールの新入生の半数は女性。
日弁連でみると女性弁護士はまだ11%です。この4月、広島の大国弁護士が、史上初めて日弁連副会長になりました。福岡県弁護士会の副会長には女性弁護士がこれまで2人だと思いますが、九州から弁護士会長になられたのは、宮崎と沖縄のみだったでしょうか?